第108話 零夜VSハユン
零夜とハユンの戦いはどうなるのか?
「倫子さんと日和ちゃんも、マルコとベトロを撃破したみたい!」
「良かった……一時はどうなるかと思いました……」
「相手も手強かったし、思わず冷や汗流しちゃいました……」
大きな部屋の隅にある物陰では、ヒカリ、椿、りんちゃむ、ヤツフサの三人と一匹が零夜達の戦いを見ていた。一時はハラハラした展開もあったが、エヴァ達の勝利を心から喜んでいるのだ。
しかしヤツフサはまだ真剣な表情をしながら、戦いに視線を移していた。どうやら気になる事があるのだろう。
「油断禁物だ。零夜の相手はあのハユンだからな」
「ハユンって、あの女性奴隷の?」
ヒカリが指差す方を見ると、零夜とハユンが戦っているのが見えた。二人は互角の戦いを繰り広げているが、両者とも格闘技術で戦っている。お互い武器を使わず、クリーンなファイトで決着を着ける事を望んでいるのだろう。
「ハユンは戦闘民族「ソルフ」の末裔だ。この世界での戦闘民族の中では最強クラスで、他の戦闘民族を凌駕する圧倒的強さを持っている」
ヤツフサはハユンについて知る限りの事を説明し、その内容にヒカリ達は驚きを隠せずにいた。それにも関わらず零夜は自ら彼女に戦いを挑んでいるが、恐らく何か裏があるのだろう。
「じゃあ、この戦いで零夜君が負けたらどうなるんだろう……」
りんちゃむは零夜の姿を見ながら、心配の表情で俯いてしまう。その様子を見たヒカリは彼女に近付き、ポンと彼女の肩を叩いた。
「大丈夫。零夜君はこの戦いにも絶対に勝つ。彼の姿をよく見て」
ヒカリはりんちゃむに対して微笑んだと同時に、零夜を指差しながら彼に視線を移していく。すると零夜はハユンのパンチをバックステップで回避したと同時に、強烈な回し蹴りでダメージを与えていく。
「見えた!隼蹴り!」
すかさず零夜はハユンから距離を取ったと同時に、彼女の元に駆け出していく。そのまま強烈な隼蹴りをハユンの顎に炸裂させ、強烈なダメージを与えたのだ。
「うごっ!」
ハユンは勢いよく顎のダメージを受けてしまい、そのまま尻もちをついてダウンされてしまう。しかし彼女はすぐに立ち上がり、戦闘態勢に入っているのだ。
(なんて回復力だ。こりゃ苦戦するのも無理ないな……けど、張り合いがありそうで面白くなりそうだ!そうでないとつまらないからな!)
零夜はすかさず駆け出したと同時に、強烈な蹴り攻撃を次々とハユンに放っていく。彼女は素早い動きで回避しまくり、勢いよく零夜に接近してきた。
「はっ!」
「ぐほっ!」
「零夜君!」
強烈な正拳突きが零夜の腹に当たり、彼はそのまま身体をくの字に曲げてしまう。しかし零夜もここで倒れる理由にはいかない。八犬士としての役割を果たす為、ここで立ち止まる理由にはいかないのだ。
「そんな!今の攻撃を喰らっても耐えきるなんて……あなたは化け物なの!?」
驚きを隠せないハユンに対し、零夜は首を横に振りながら応えていく。彼は普通の人間と言えるが、その耐久力はまさに超人以上と言えるだろう。
「化け物じゃないぜ。俺は練習を積み重ねていたからこそ、今の身体がここにある。お前は自分の強さを過信していたのが敗因だ!」
零夜はハユンに対してそう宣言したと同時に、彼女に向かってタックルを繰り出していく。そのまま強烈なタックルが見事決まり、ハユンは勢いよく吹っ飛ばされてしまった。
「がっ……!(今のタックルは強烈だった……これが、八犬士である彼の真の実力なの……?)」
ハユンはすぐに態勢を整えようとするが、彼女は背中を地面に打ち付けてしまう。その威力はとても衝撃的で、立つにも時間が掛かりそう。
「まだまだ行くぞ!」
「な!?」
零夜は素早く駆け出し、倒れているハユンに近付いていく。そのまま彼女を掴みながら、強制的に立ち上がらせようとしていた。
ハユンがすぐに立ち上がった直後、零夜は彼女の腰を掴んで持ち上げていく。そのままハユンを逆さまに抱え上げて後方へ投げ、彼女の背面を床に叩きつけたのだ。
「今のはブレーンバスター!あの技を簡単に使えるなんて!」
「もしかすると零夜君って、想像以上に凄いかも!」
「やっちゃえ、零夜!このまま勝利を決めろ!」
目の前の光景にヒカリ達は興奮しまくり、零夜に向けて声援を飛ばす。すかさず彼はハユンの上体を起こさせたと同時に、そのまま担ぎ上げて抱き締めたのだ。
「おい、零夜!いったい何をするつもりだ!?」
「いきなり抱き締めるなんて、何を考えているの!?」
「いくら何でも大胆すぎるでしょ!」
予想外の行動にヤツフサは思わず叫んでしまい、ヒカリ達も仰天行為に驚いてしまう。敵であるにも関わらず、女性を抱き上げる行為は前代未聞と言えるだろう。
「彼女の闇を終わらせます!奴隷から解放させなければ、勝利とは言えません!」
「本当にやる気なのか!?下手したら死ぬ事もあり得るぞ!」
「ええ。俺の覚悟を見せつけます!その実力をここで発揮させる為にも!」
零夜はヤツフサに対して真剣な表情で応えた直後、ハユンを強く抱き締めながら自ら発光し始める。それに彼女は嫌がりながら離れようとするが、なかなか離してくれないのだ。
「離してよ!何するのよ!あなたと私は敵同士なのに!」
「それでも構わない!俺はハユンの闇を解放させる!たとえお前が何を言おうとも……俺は必ず救うと決意したんだ!お前を奴隷から解放させる為にな!」
「!?」
零夜から発せられた衝撃発言に、ハユンは驚きを隠せずにいた。今まで多くの敵は自分を殺そうとしていたが、彼は最初から自分を救う為に動いていたんだと感じていたのだ。
(この人、私の事を心配していて……もしかすると信じていいのかも……)
ハユンは零夜の行動を理解したと同時に、抵抗を止めて彼に抱き寄せる。同時に零夜から発せられる光が強くなり、そのまま二人を包み込み始めた。
「あっ!二人が光に!」
「この技は……もしや!」
この光景にエヴァ達が驚きを隠せずにいる中、ヤツフサはすぐにこの技の正体を察した。すると二人の周りに強烈な光が発せられ、誰もが目を合わせられずにいたのだ。
「プリズンリリース!」
零夜の呪文が響き渡ったと同時に、光が辺り一面に広がり始めた。そして光が収まった直後、零夜がハユンをお姫様抱っこしながら抱えているのが見えたのだ。
ハユンはスヤスヤと眠っていて、穏やかな表情をしている。彼女はリッジの奴隷から解放されていて、安らぎを感じているのだろう。しかも彼女のアホ毛もすっかり消えているのだ。
「成功したのか、零夜!」
「ええ!バッチリです!」
零夜の笑顔にヤツフサは安堵の表情をした後、すぐに彼の元に駆け寄ってきた。それにヒカリ達も後に続き、零夜の元に集まってきたのだ。
「大丈夫だった?」
「ええ。それよりもハユンをお願いします」
「分かったわ。彼女は私達に任せて」
ヒカリ達はハユンを零夜から受け取り、そのまま奥にある物陰へと移動する。彼女を起さない様にゆっくりと歩きつつ、安全な場所に移動しているのだ。
「さて、残るは……」
零夜がとある方向に視線を移すと、トワとエイリーンと戦っていた筈のリッジがズカズカと近付いてきた。今の戦いを見て黙っていられず、彼女達に待ったをかけて行動を取っていたのだ。
「やはり来たか……奴隷を解放された事を恨んでいるのか」
「そうだ!よくも邪魔をしてくれたな!」
リッジは怒りの表情をしながら、零夜をギロリと睨みつける。しかも彼の目には血涙が流れていて、邪魔ばかりされた事でストレスを感じていただろう。
「そっちがその気なら……はっ!」
「ぐへら!」
すると零夜はリッジに対して、強烈な左フックで殴り飛ばす。その光景に誰もが驚きを隠せない中、リッジは床を転がりながら倒れてしまった。
「こいつが……もう絶対に許さん!」
リッジは怒りを纏いながら立ち上がり、背中から闇のオーラを放出する。同時に零夜とリッジとの決戦が、この状態で幕を開けたのだった。
ハユンを奴隷から解放する事に成功!残るはリッジのみです!




