第106話 ゲルマの最後の生き残り
今回はマルコ達の過去です。
一ヶ月前、ハルヴァスの西方面にあるサンダラス地方。そこにあるボロ小屋の中で二人の兄弟が暮らしていた。そう。ゲルマの最後の生き残りであるマルコとベトロだ。
「ハァ……とうとう残ったのは俺達だけか……今思うと寂しいよな……」
「それは前から聞いているよ、兄ちゃん」
マルコは囲炉裏の火を起こしながら、盛大にため息をついていた。それにベトロは苦笑いしながら、用意していた魚や肉を用意する。
彼等は地方のコロシアム大会で資金を集めていて、多くの猛者達を次々と倒していた。しかし地方大会では普通の賞金額ばかりで、物足りない気がするのは当然と言えるだろう。
「にしても、あの出来事から二ヶ月か……時が流れるのは早い物だな……」
「ああ。今でも覚えているぜ。あの時起きた戦いを……」
マルコとベトロは串に通した肉や魚を囲炉裏に置きながら、当時の事を思い出し始める。それは彼等にとって忘れられない出来事であり、今に至る戦いである事を。
※
その半月前。同じ地方のベルニス山付近で戦いが発生。ゲルマの軍勢は地方領主からの依頼を受け、敵の討伐に向かい出した。その相手は同じ戦闘民族であるベルクロの軍勢。彼等は悪徳領主に仕えていて、暴虐の限りを尽くしているのだ。
「奴等は本格的に迷惑を掛けている。やるなら今しかない!」
「ああ!俺達ゲルマは負けられないからな!奴等を根絶やしにするぞ!」
「「「おう!」」」
ゲルマの民達は拳を上げながら一斉に掛け声を上げた途端、敵であるベルクロの軍勢が姿を現す。彼等は魚の鱗のような逆三角形である魚鱗の陣形で移動しているので、後方には悪徳領主の姿が見えているのだ。
「魚鱗の陣形です!」
「兵が集まって陣を作るため、兵が分散しない様に作っているのか。それならこっちは鶴翼だ!」
「「「おう!」」」
ゲルマの方は鶴が翼を広げたような形に部隊を配置する陣形「鶴翼の陣」で対抗する。両軍が睨み合う中、我慢できず一斉に飛び出してしまった。
「最初から一気に攻める!遅れを取るな!」
「「「おう!」」」
「返り討ちにしてくれるわ!野郎共、掛かれー!」
「「「うぉーっ!」」」
両軍は武器や拳、魔術などをぶつけ合いながら、激しい戦いを繰り広げていた。一歩も引かずに接戦を繰り広げているので、長期戦になる確率は高いと言えるだろう。
「この戦いは接戦となるな。俺達もやってやろうぜ!」
「彼奴等ばかりカッコつける理由にはいかないこらな!敵の首を取ってやるぜ!」
マルコとバルクも一斉に飛び出し、激しい戦いを繰り広げようと駆け出していく。すると何処からか大きな音が聞こえ、二人は突如足を止めてしまう。
「おい!あれ……」
マルコが指差す方を全員が見た途端、大きな大砲が姿を現していた。しかもその数は十ぐらいで、完全にゲルマを狙っているのだ。
「あれは大砲!?奴等、俺達が来る事を知って、この大砲を用意していたというのか……?」
「分からない。こうなったら俺達で止めに行く!兄ちゃん、行くぞ!」
「おうよ!」
マルコとベトロは素早くその場から駆け出し、大砲がある場所へと向かっていた。この先にいる大勢の敵が相手であろうとも、大砲を破壊しなければ敵の思い通りになってしまうのだ。
「大砲は山の上にある!奴等がベルクロと戦っている以上、俺達の手で破壊するだけだ!」
「ここは素早く駆け出すしかない!手遅れになったらお終いだからな!」
マルコとベトロは素早く駆け出していたその時、大砲から次々と砲弾が発砲される。多くが戦う場所に着弾したと同時に、強烈な爆発が発生する。敵味方構わず無差別に殺される光景は、まさに地獄絵図と言えるだろう。
「くそっ!攻撃を開始したのか!いくら何でも早過ぎるぞ!」
「その気持ちは分かるぜ、兄ちゃん!もう少しで山だ!」
「よし!全速力で駆け出すぞ!」
マルコとベトロは最大限でスピードを上げていき、山に辿り着いたと同時にダッシュで駆け上がっていく。普通人間は山道をダッシュで駆け上がるのは不可能だが、ゲルマの民はこのぐらい余裕でできるのだ。
「もう少しで大砲だ!」
「必ず奴等の企みを止めてやる!」
マルコとベトロは素早く跳躍したと同時に、大砲がある山の上に着地する。この場にいた兵士達は予想外の展開に驚きを隠せず、すぐに武器を構えながら彼等に襲い掛かってきた。
「このぐらい……問題ない!」
「ああ!一気に蹴散らすのみだ!」
マルコとベトロは素早く駆け出し、襲い掛かる兵士達を次々と殴り倒していく。彼等など当然敵ではなく、赤子の手をひねる様な程度としか言えないだろう。
「クソ領主はこの辺りにいるはずだ!徹底的に殴りまくるぞ!」
「後は大砲も止めないとな!」
マルコとベトロの攻撃はまだまだ続き、兵士達は次々と殴り飛ばされてやられていく。同時に大砲も時間が経つ度に止まってしまい、最後の一つも停止してしまった。
これで残るは領主のみ。彼は銃を構えながら、必死に抵抗しようとしている。周りに味方は居ないので、こうなると自身の力で逃げるしかないだろう。
「来るな!絶対に来るな!」
領主は銃を構えながら震えていて、必死に逃げようとしていた。しかしマルコとベトロはそれを許さず、領主の前に移動しながら素早い蹴りを繰り出した。
「ぐほっ!」
領主は腹に衝撃を受けてしまい、その威力によろけてしまう。更に彼が銃を落とした瞬間、マルコとベトロは彼を持ち上げて投げ飛ばそうとしていた。
「俺達の怒りを思い知れ!」
「そして皆の怒りもな!」
「ぎゃああああああ!!」
マルコとベトロは領主を崖から勢いよく投げ飛ばし、領主は急降下しながら落下していく。そのまま彼は地面に頭を打ち付けてしまい、バタンとうつ伏せに倒れて即死してしまったのだ。
これで悪徳領主との戦いが終わり、マルコ達の勝利に終わった。
「終わったか……」
「ああ……けど……」
マルコとベトロは爆発の起きた場所をよく見ると、多くのゲルマとベルクロの軍勢が倒れていた。彼等全員大砲の爆発に次々とやられてしまい、生き残ったのはマルコとベトロの二人となってしまったのだ。
「早速報告しておかないとな……」
「後でお墓も作って置かなければな……クソッ……」
マルコとベトロは俯きながらも、地方領主の元へ報告しに向かい出す。その目には涙が流れていて、雫が地面に落ちていたのだった。
※
「あの後、俺達は褒美をもらって今の場所にいる。けど、もう皆と一緒にいた頃には戻れない……」
そして現在、マルコとベトロは肉や魚などを食べながら、当時の事を振り返っていた。あの戦いで皆が死ぬ事が無ければ、この様な悲しみを背負う事は無かっただろう。
「だよな……これからどうすれば良いのだろうか……」
マルコとベトロは今後どうするのか話し合おうとしたその時、何者かが扉をノックしてきた。その音に反応した二人は、すぐに扉の元に移動する。
「何者だ!?」
「落ち着いてくれ。怪しい者ではない。君達に話がある」
「話?別にいいが……」
マルコとベトロが扉を開けると、そこには一人の男が立っていた。その男こそリッジであり、彼は笑みを浮かべながら二人に話しかけてくる。
「君達の噂は聞いている。実はお前達をスカウトしに来た」
「「スカウト?」」
リッジからの話を聞いたマルコとベトロは、疑問に感じながら首を傾げてしまう。彼等は疑問に思いながらもスカウトに応じるが、それによって彼等の人生は狂い出してしまった。
※
その後、マルコとベトロはリッジの奴隷になってしまい、彼の元で様々な屈辱を味わい続けた。此等の過去があったからこそ、今の彼等が存在しているのだった。
マルコ達もこの様な経験があったからこそ、奴隷となったのです。
次回は戦いに戻ります!




