プロローグ 魔王タマズサの誕生
別サイトで投稿している作品を、なろうでも投稿する事になりました！
是非見てください！
室町時代の後期。南総安房の国に、絶世の美女がいた。名を玉梓と称す。
彼女は山下定包を夫とし、彼と共に国政を意のままに操っていた。その結果、罪なき民衆が苦しみに喘ぐこととなった。だが、風雲児・里見義実がこの悪を討つべく立ち上がると、民衆も次々に彼を支持。一揆を起こし、見事玉梓を捕らえることに成功した。
山下は逃亡の途中、山中で討ち死にし、玉梓は安房の城で処刑される運命を辿る。当時の慣習に従い、斬首の刑が下され、彼女は白い小袖を纏い、藁の上に正座させられていた。
「おのれ、里見義実！ 妾は怨霊となってこの恨みを晴らしてやるぞ！ 里見の子孫を畜生道へ堕とし、煩悩に狂う犬にしてくれるわ！」
玉梓はそう言い残し、首を落とされて果てた。これにより南総安房に平和が訪れ、里見家による統治が始まった。
※
時が流れ、玉梓は怨霊となり、里見家を滅ぼすべく動き出す。年老いた狸に憑依し、八百比丘尼の姿を借りて暗躍していた。だが、伏姫が集めた八人の戦士――八犬士が現れ、彼女の前に立ちはだかった。
安房の城内で追い詰められた比丘尼は、ついに玉梓としての真の姿を現す。それは鬼そのものの恐ろしい形相だった。
「八百比丘尼など仮の姿！ 真の妾はこの玉梓よ！」
玉梓が義実へと襲いかかろうとした瞬間、八犬士が彼女に向かって八つの珠を投げつけた。それは仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字が刻まれた数珠の玉――仁義八行の玉と呼ばれ、悪霊を退ける力を持つ道具だった。その力は玉梓にも確実に効いた。
「何!?」
「これで終わりだ、玉梓！」
「ぐわああああああ!!」
玉梓は八つの珠の魔力に苛まれ、悲鳴を上げながら消えていった。後に残ったのは、年老いた狸の死骸だけ。彼女は死んだ……かに思われた。だが、その時、彼らは知らなかった。玉梓の魂が消滅したのではなく、別の世界で転生を果たしていたことを。
※
「う……」
八犬士に倒されたはずの玉梓が目を覚ますと、そこは見知らぬ場所だった。辺りは闇に覆われ、大地は荒れ果て、殺風景で獣の気配すら感じさせる不気味な世界。
「ここは……どこだ……見慣れぬ景色だが……」
困惑する玉梓の前に、緑色のゴブリンが駆け寄ってきた。彼は玉梓の姿を確認すると、その場で土下座した。
「お待ち申し上げておりました、魔王様！」
「魔王？ この妾が？」
ゴブリンの言葉に玉梓は眉をひそめ、聞き慣れぬ言葉に疑問を抱く。それを見たゴブリンは丁寧に頭を下げ、説明を始めた。
「あなた様は死を迎えた際、この世界『ハルヴァス』に転生召喚されたのです。ここは我々魔族が住まう魔界と呼ばれる場所にございます」
「この荒れ果てた景色が魔界だと？ 妾には初見の地だが……」
ゴブリンの説明を聞きながら、玉梓は周囲を見回す。殺風景な世界が魔界であることに、彼女はまだ半信半疑だった。
「その通りでございます。我々はかつての魔王様の命に従い、ハルヴァス全土を支配せんと動いておりました。だが、勇者一行の出現によりその夢は潰え、魔王様も討たれてしまったのです……」
「それで妾を新たな魔王としてこの世界に呼び寄せたのか。お前たちも辛い目に遭ったようだな……」
先代魔王が勇者に敗れ、リーダーを失った魔王軍は散り散りとなり、魔界に身を潜めていた。そこでゴブリンは起死回生を願い、魔王召喚を決行。見事に成功し、玉梓がこの世界に現れたのだ。
「お主らの事情は分かった。だが、なぜ妾が魔王なのだ？ 怨霊として里見家に仇をなしたことはあれど、魔王としての力があるとは言えぬぞ」
「ご安心ください。あなた様には魔王としての素質が十分にございます。我々臣下が支えますゆえ、心配は無用でございます」
「ほう。八犬士も里見家もいないとなれば、これは妾にとって好機と言えるな……」
彼女を滅ぼした宿敵がいないことを知り、玉梓はそれを好機と捉えた。自らの足で立ち上がり、ゴブリンを見据える。その顔には邪悪な笑みが浮かび、妖しい気配が漂っていた。
ゴブリンもまた彼女を見つめ、片膝をついて一礼する。新たな魔王として召喚された以上、今後は彼女に忠誠を誓う覚悟だった。
「この話、引き受けるとしよう。ところで、お主の名は？」
「ゴブゾウと申します！」
「そうか。ゴブゾウよ、妾はこれより魔王タマズサとしてこの世界を支配する！ 憎き者どもを打ち倒し、新たな世界を築いてやろうぞ！」
「はっ、タマズサ様！ まずは仲間を集めに参りましょう！」
戦力を整えることが急務と悟り、タマズサとゴブゾウはすぐに行動を開始した。これまでの失敗を繰り返さぬため、自らが変わらねばならぬと心に刻みながら。
※
「そうですか……あの玉梓が復活するとは、予想外の事態です。八犬士が止めを刺したはずなのに……」
神々が住まう世界「ゴッドエデン」。その一角にある屋敷の前で、一人の女神が部下の兵士から報告を受けていた。
彼女の名はフセヒメ。忠犬ヤツフサと共に里見家の家来に射殺された過去を持つが、彼女の珠により八犬士が結集し、諸悪の根源である玉梓を倒した功績が認められ、女神の地位を得ていた。
「はい。何者かによって、ハルヴァスへと転生させられた模様です。召喚者が誰かは不明でございますが、ハルヴァスでは現在、タマズサによって大混乱となっています」
部下は真剣な表情で報告を続ける。タマズサはゴブゾウと共に多くの魔族やモンスターを集め、魔王軍組織「悪鬼」を設立。近くの村々を襲撃し、多くの者が被害に遭っていた。騎士団が立ち向かっても返り討ちにされるケースが続出しているのが何よりの証拠である。
「そうですか。問題はどうやってハルヴァスへ向かうかです。私が女神である以上、直接降りることは叶いません。となれば、八犬士に頼るほかありませんが……」
「八犬士は現在、別の任務で悪魔と戦っており、手が離せない状況でございます」
八犬士は別世界での戦いの最中であり、急ぎ呼び戻そうにも戦が終わるまでは難しい。だが、フセヒメには秘策があった。懐から八つの珠でできた数珠を取り出し、それを強く握り、魔術を唱えようと準備を始めた。
「……まさか、新たな八犬士を誕生させるおつもりですか？」
「ええ。タマズサの軍勢を倒すには、それしか方法がございません。危険な賭けと知りつつも、私は新たな八犬士を信じます」
兵士の問いに、フセヒメは真剣な眼差しで答え、詠唱を開始した。
「八つの珠よ。我が念を授ける代わりに、選ばれし戦士たちの許へ赴きなさい。そして彼らに力と、ハルヴァスを悪から救う使命を与えなさい！」
フセヒメが珠に念を込めると、八つの珠が輝きを放ち、分離して宙に浮かんだ。
「おお！ その様子なら成功したようですね」
「後は選ばれし戦士たちの元へ向かうのみ。さあ、行きなさい！」
彼女の言葉に応じ、八つの珠が動き出すと、眼前には二つのワープホールが突如出現した。
五つはハルヴァスへと繋がるホールへ、残り三つは別世界――地球へと繋がるホールの中へと消えていった。
「五つはハルヴァスへ向かいましたが、残りは地球という世界でございます」
「ならば、彼に頼みましょう。ヤツフサ！」
兵士の報告を受け、フセヒメは冷静に策を練る。そして忠犬ヤツフサを呼び寄せると、大きな白いフェンリルが姿を現した。
ヤツフサはフセヒメの功績により犬から神獣フェンリルへと昇華し、自在に体躯を変えられる力を持っていた。彼女の前に現れると、すぐさま小型犬の大きさに縮み、視線を向けた。
「話は聞かせてもらった。地球の者については俺に任せてくれ」
「分かりました。準備が整い次第、地球へ向かってください。出発はいつでも構いません」
フセヒメの命令にヤツフサは頷き、静かに応えた。こうして、新たな八犬士の伝説が、この出来事をきっかけに幕を開けようとしていた……。
プロローグは終わりを告げ、いよいよ本番！
果たしてどうなるのかに注目です！
