第6話
◆スポーツはいいよね
テスト期間が終了した。
もちろん、終わったのはテスト期間であり、テストの点数的なものも終わりを告げていた。
部活動が再開となる俺はテニスコートに向かう。スポーツはいいよね。
「絵空高校ファイトぉーっ!」と言いながら、おっぱいを揺らしてランニングする女がいる。スポーツはいいよね。
破手真央。
ひとりだ。
今がチャンスじゃないのか!?
ひとりで走る彼女に並走してみる俺。
「あれぇ?結城くん?」
「よっ」
「暑くなってきたねぇ」
「ああ、そうだな」
金髪の髪が汗ばんで、おでこに張り付いていた。それすらも可愛い。俺は、確かめたい。
再び、なんとかして・・・この女に触れたい。
確かめたいのだ。
はっきり言えば、信じたくないのだ。
入学初日、衝突した時に、彼女から感じた、あの禍々しい魔王のオーラを。
真央に触れて、魔王の魔力を感じるのであれば俺は・・・。
「あぁーっ!柊木ちゃん!」
柊木を見つけた真央が手を振っている。
手を振りかえして、柊木が駆け寄ってきた。
クソ女!タイミング!
「ユウキも一緒だったのね」
「まぁ、たまたま」
「じゃあ、3人で走ろうか?」
自然と真ん中に割り込んでくる柊木。クソっ!コイツ!
学校の敷地を離れて、大きな路線を跨ぐ高架橋のアップダウンを走っていく。俺は体力に自信がある方だが、真央も柊木も息を切らす事なく、走っている。
折り返し地点で、歩きながら帰ることにした。
「来週から、部内の新人リーグが始まるねぇ」と真央。男女で分かれているが、1年生たちが勝負をし、部内の格付けを行うのである。
「ふたりは、どっちが上手なんだ?」俺は真央と柊木に尋ねる。
「どっちだろうねぇ?」
「真央ちゃんじゃない?」
「そうかなぁ?」
などと、会話をしながら、学校へ戻る。せっかくのチャンスが・・・。
柊木に邪魔をされた気分だ。
というか、どうやれば、意図的に真央の身体に触れる事が出来るんだ?
真央だけじゃない。
普通に考えて・・・女の体に触れるのって、ハードル高くねえ?
◆核心に触れる
テスト明けの待望の部活動の時間はすぐに終わった。テニス部員達がぞろぞろと下校していく。
気がつけば俺と柊木だけになっていた。
まぁ、住んでるマンションが一緒なので当たり前の結果ではあるが。
2人きりになったので、聞いてみるか。
「な、なぁ」
「なに?」
「なあ、その、あれな。これはあくまで、仮の話な」
「何よ?」
「この世界においてさ、女の子に触れる方法って、なんだと思う?」
柊木がその言葉をどのように捉えたのかは謎ではあるが、彼女の顔は何故か赤くなっている。
「な、何言ってんのよ」
「いや、その、あくまでの話。いや、魔王の力を確かめるには触れるしかないだろ?」
その言葉を聞いて、柊木は拍子抜けした顔をしている。
「確かにそうね。魔王って、男だと思っていたけれど・・・女の子に転生している可能性もあるわね」
「そう!そう!そういう事!」
「そんなの、いくらでもあるじゃない」
「例えば?」
「肩に糸くずがついてるよ、とか」
「は、はぁ」
「糸くずを取るふりをして、肩に触れられるじゃない」
「ま、まぁ、そうか?」
あとは・・・と柊木はアイデアを絞り出す。
「ハイタッチしよー!とか」
「そんなタイミングあるか?」
「あるよ。ダブルスの時とかさ、ボーリングでストライク決めた時とか?」
ボーリングといえば、この前賢人とボーリングをしたのだ、という話をした。柊木は微笑んでいた。
「あとは・・・こんなのどう?」
立ち止まる柊木。
「なんだよ」
「手相、見せて」そう言って柊木は、俺の同意を得る前に、両手で俺の右手に触れ、つかんで、まじまじと俺の手相を見始めた。
ん、あれ、なんだこれ?
すげー緊張するんだが。
考えてみれば、すごい久しぶりな気がする。
女の手。華奢だけど、何故か柔らかい、不思議な物体に思える。
「え?なに?黙っちゃって」と柊木。
「はぁっ!?別に?」
「あっ!私と手を繋いで、緊張してるとか?」
「んなわけ!」と言って、手を振り払う。振り払ってしまった。
微妙な空気が流れる。
「ユウキってさ、分かりやすいよね」
「は?何がだよ」
「真央ちゃんの事、気になるんでしょ」
「ファ!?」
いや、確かに気になるけど!
「あ、あのさ、部内リーグで、私が勝ったら、私とデートしてよ」
「だっ!?」
何を言ってるんだ?柊木!?
[第6話 おわり]