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第5話


◆呑気な奴ら


 破手真央の事が何一つ解決しないまま、また暫くの時が経ってしまった。


 今週はテスト期間で、部活動はない。


 成り行きで、俺は賢人と歩いて帰っていた。そこに柊木の姿はない。アイツは女子達でカラオケに行くらしい。テスト期間だというのに、呑気な奴らだ。


「学校には慣れたかよ?」賢人に尋ねる。

 彼は俺と柊木以外とは会話をしていないし、毎日つまらないような顔をして学校生活を送っている様に見えるからだ。


「仲良くカラオケに行く為に、俺は学生をしているわけじゃない」

 賢人は表情を変えない。柊木の事を言ってるようだ。


 カチコチだ。

 かてえな。

 コイツは。


 思わず、ため息が漏れた。


「もうちょっと、肩の力を抜けよ」と俺が言う。

「俺たちの目的を忘れるな」

「いやぁ、まぁそうだけどさ?」

「魔王はいつ現れるのか、分からないんだぞ?」

「いやまぁそうだけどさ?」


「今年が、魔王が転生してから17年。魔王の魔力が復活する日だ。魔王に転生した人間の誕生日は知らんが、誕生日を迎えた日、その力を解放するんじゃないのか?」


「まぁ、その通りだけど」


「俺たちが元々いた世界とこっちの世界の時差はほぼない。この世界の〝年度〟という概念に当てはめれば、やはり来年の3月末までに、魔王は復活する。それが明日なのか、3月31日なのかは、分からない」


「ああ。そうだな。でもなぁ賢人?肩の力を抜くのも大事だぞ」


「ふん。呑気なものだな。勇者様は」


 そう言いながら俺たちは、ボウリング場にいた。


「なんだよ。意外とノリいいじゃねえかよ」

「約束しろ。お前が負けたら、もうちょっと真面目にやれ」

「分かった。それならお前が負けたら、お前はもうちょっと肩の力を抜け。そうだな、両手を、ゾンビみてーに、だらーんとするぐらいに」



 肩を回しながら、俺たちは受付を済ませる。

 これから真剣勝負が始まるのだ。



◆玉転がし



 テスト期間だというのに、同じ制服を着た奴らがチラホラいた。ボウリング場。けたたましい音楽と、ビカビカに光るディスプレイ。

 こんな激しい演出がボウリング場に必要なのかと疑問に思う。


 重い球を選び、俺と賢人のボウリング勝負が始まる。


「つーか、お前ボウリングとかやったことあんのか?」俺は尋ねる。

 俺は、何度かやった事がある。

 賢人は友達が少ない。今までそんな機会があったのだろうか?


「本で学んだ」

「ふっ」

「笑うな。経験も大事だが、知識も大切だぞ」

「そうですか」


 一応、お互い魔法は使わずにフェアな勝負をしよう、という事になっている。黒いボールを指にはめ、構える。綺麗なフォームを意識し、第一投!ボールを転がす!行けっ!


 行けっ!・・・ぬわっ!


 スコアボードにGの字がついた。

 ガターだ。


「幸先が悪いな。勇者様」

「ハンデってやつな?」


 二投目は5ピン。

 さて、次はお前だ。賢人!


「見てろ」

 ボールを持ち、綺麗なフォームで投球する賢人。第一投。こ、コイツの出来そうな感じは一体・・・?


 しかし球はころころとゆっくり、斜めに進み、ガター。

「ぶはははっ!!!!」笑いが止まらない俺。

「ふん」


 あ、賢人。


 今、こいつの顔、緩んだぞ。

 笑えるじゃねーか。



◆102-72



 勝負はあっという間についた。


「俺の圧勝じゃねえかよ!」


 賢人は俯いたままだ。


「負けは認める。負けはな」

「まー、あれだ。焦るなって賢人」


 ゲームの精算を終えて、俺と賢人はマンションに、向かって歩き出す。無言のまましばらく歩いて、マンションの建物の中、エレベータを待つ間、突如賢人が口を開いた。


「・・・忘れていってるんだ」


 呼ばれてやってきたエレベータを見送る。再び、上階に登っていったようだ。


「記憶か?」柊木も言っていた。俺もだ。

「ああ。前世の記憶を、忘れている。いや、それ以前に何かもっと大切な何かを忘れている気がするんだ・・・」


 ミチカの顔が思い浮かぶ。

 彼女の存在を、柊木や賢人は知らない。

 忘れたのではなく、記憶として消されている。なので、存在すらしていない。


「な、なんだろうなぁ?」

「このペースで、この世界の人生が続いたとする。そうすればきっと、何もかも忘れてしまう。この世界に来た理由、家族のこと・・・」


 今日の賢人はよく喋る。


「あ、ああ・・・柊木も言ってたな。前世の記憶、忘れてきてるって」

「そうだ。だから、忘れる前に、いや、忘れない様に、常に、あの日のこと、魔王の事、心に刻んで、目的を果たさなければならない」


「お、おう。そうだな」


 国王の血を引く俺には、賢人のすんでいた貧民街の事は知らない。コイツは多くを語らないから、幼少期の事なんて知らない。


 でも、コイツが魔王討伐に必死な理由は分かる。突如、爆発的なエネルギーを放って現れた魔王。その爆発に巻き込まれた、人達。賢人の家族。



「あ、あのさ・・・賢人」

「どうした」


「た、例えばだぜ?そうだなぁ・・・クラスメートが魔王だったとするだろ?」


 何を言ってるのだ、という顔をする賢人。


「どうしたんだ急に」

「もしも、そいつが魔王でしたー!ってなったら、お前どうすんだよ」


「喜ばしいな。すぐさま、殺せるだろう」


「だっ、だよなー?それぐらい簡単な話だといいんだけどさぁ!魔王討伐ってな!」



 そうだよな。

 俺だって、父上を殺されている。



[第5話 おわり]

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