第4話
◇それぞれの夢
夢を見た。
17年前の夢。
この世界に来る前、転生前、いうならば前世の記憶といったところか。
魔王討伐の日、その前日。
魔王城の結界のすぐ外。
皆で、焚き火を囲んでいた。
「なぁ。この国に平和が戻ったら、お前たちはどうするんだ?」
俺は3人に問いかけた。
「私はそうだなぁ。病院でも作ろうかなぁ?あっ、でも、平和になったら病院なんていらないかな?」
「図書館再建。子どもたちが勉強できる環境をつくる」
「私はね・・・いや、内緒」
「なんだよそれ」
「平和になったら、言えることだから」
「なんだよそれ」
◆学校へ行こう
・・・妙にリアルな夢だった。大体、夢で過去を思い出すっと仕組みがよくわからない。
起床。
人差し指に魔力を込めて一振り。
俺の身なりは整う。これは魔法の力だ。
制服姿の俺。結城勇気。スマホで垂れ流していた動画を止めた。
「いってきます」
家には誰もいないけれど、俺はいう。俺たちは、都合よく孤児院で育てられ、都合よく、高校生活を送っている、という設定である。
これらは、様々な魔法でやりくりした結果だ。
俺たち3人は、同じマンションに住んでいる。
408号室が俺。外に出る。
「あっ、ユウキ。おはよー」
時を同じくして、隣の407号室から現れたのは、福祉柊木。
しかしまぁこいつはなんというか・・・
貧乳である。失礼ながら。
「今日も遅刻ギリじゃねー?」スマホの時刻を確認。
「まぁ、間に合うよ」と柊木は余裕の表情だ。
406号室を通り過ぎていく。
この部屋には、九楽賢人が住んでいる。
もちろん、その扉が開く雰囲気はない。
「賢人はもう、学校行ってるよね?」
「うん」
勤勉な奴だ。アイツの長所であり、短所でもあるような、そんな感じがする。
◆トライアングル
並んで歩く。
「来週からは、テストだよね」
「実力テストだよな?」
「はぁ、ほんと嫌かも」
「頑張ろうぜ」
学校へと、とぼとぼ歩く。
遅刻ギリギリの時間帯なので、学生の数はまばらだ。それでも、存在するということはギリギリ間に合うという安心感があった。
「ねぇ、なんかさぁ」
柊木が控えめに語りかけてくる。
「なんだよ」
「なんだかんだで、私たち、毎日一緒に登校してない?」
「ん?まぁ、そうだな」
「って事はさぁ・・・なんというか、その・・・」
「なんだよ」
「私たちその、もはやカップ」「おはよぉ!」
後ろから声が聞こえて、俺たちは振り返る。
破手真央が自転車を立ちながら漕いでこちらへ近づいて来た。
柊木のそれが平原だとすれば、彼女のそれは東京ドーム2個分である。ペダルを漕ぐたびに、それが揺れている。
「あー!まおちゃん!おはよう!」手を振る柊木。
「おはよぉ!ひーらぎちゃん!ユウキくん!」
タイヤの歪な自転車を漕ぎながら、彼女が近寄ってくる。金髪の巨乳ギャル。
「あれれぇ?なんか、邪魔しちゃったかなぁ?」
真央が俺たちを微笑みながら見ている。ぱちりとしている、大きな目が細くなっていた。
「邪魔?なんのことだ?」俺たちクラスメートだろ?
「そそそそ!そんな事ないよ!何言ってんのよまおちん!」柊木の耳が赤い。
「じゃ、みんなで学校へいこっかぁ!」
3人で並んで歩いていたけれど、いつの間にか俺は2人の背中を見て歩いていた。女子ってのは、仲良くなるのが早いものだ。ずっと昔からの親友の様に、ふたりは微笑み合っている。
後々わかることだけれども。
・・・このふたりは、敵同士なんだ。
なんて、残酷な事なんだろう。
もし、柊木が、真央が魔王であると認識したら・・・。柊木は容赦なく真央に立ち向かってくれるのだろうか?
柊木は〝あのこと〟を忘れている。あのことを思い出せば、より、憎しみは増すのかもしれない。
彼女だって、魔王を倒すという使命はもちろん持っている。賢人は分からないけど、それでも柊木は迷うのではないだろうか。少なくとも、彼女が魔王を倒す未来は見えない。
やはり俺が、聖剣を召喚して・・・。
笑顔の柊木。
笑顔の真央。
やばい、どんどん・・・。
殺せなくなっちまう。
どうしたらいいんだ、ミチカ。
◇魔王討伐の日
「勇者様ッ!」
魔王城の玉座。
最終決戦。魔王の魔力は、質量を持ち、大きな剣となって俺に斬りかかる。それを剣で防御しているとき、後ろからミチカの声が聞こえた。
少し離れたところでケントとヒイラが倒れている。気を失っていた。
「どうした?ミチカ」
「私、あなたの事が好きよ」
「は?」
今は戦いの最中だぞ!ミチカ!
「聞いて。私の最後の力を使う」
「最後の力?封魔術か!?」
「うん。魔王の魔力を、封印する」
「今が、封魔術の使いどきって事か!?」
「うん。でもね、ごめん、言ってなかったんだけど、私も死ぬの」
「は?」
「ごめんね。隠してたの。ケントとヒイラは知ってる」
「なんだよそれ?」
「勇者様。あのね、今から、ふたつの魔法を使うんだ。魔王の魔力を封印する魔法と〝あなた達の記憶を消す〟魔法」
俺たちの記憶を消す魔法?
「そうすれば、私が死んでも、悲しい事なんて無いでしょ?」
剣を振り切って、一旦退がる。
魔王はまだ、余裕の表情。
「そんなもん、使うな」
「使わせてちょうだい」
・・・あの時、言えなかった。
魔王の魔力を封印する魔法を使うな、と。
圧倒的な力を前に、俺はミチカを頼りにするしかなかった。
いや、ミチカも封印魔法を使わない、という選択肢は無かったはずだ。
文字通り、俺たちは死ぬ覚悟を持って来たから。ミチカは封魔師。その末裔だ。その使命を果たしに来たのだ。
「・・・誰がお前の墓を立てるんだよ。俺に内緒にして来たんなら、今度は逆だ。俺だけの秘密にしてくれ。ケントやヒイラの記憶は消していい。俺の記憶に、残って・・・生き続けてくれ」
ミチカは涙を流していた。
「忘れないでね」
[第4話 おわり]