第3話
◆王子様
約束をしていたわけじゃないけれど、俺たち三人は示し合わせたかのように並んで歩いて帰る。そして、吸い込まれるように喫茶店に入店した。小洒落た雰囲気のチェーン店、4人席に座る3人。
ああ、俺たちもこんな年齢になったんだな。
「なーんか、平和だね」
一番高い甘い飲み物を飲みながら、柊木がにやけている。余程美味しいのだろうか。
「今年か。魔王の魔力が復活する年は」
ブラックコーヒーを飲む賢人の表情は変わらない。彼は分かりきったことを何度も繰り返す。
「そうだな」魔王復活、というよりも、魔王の魔力が復活する年、というのが正しい表現だ。
俺たちはあの日、魔王を瀕死の状態まで追い込んだ。もうひとりいた仲間の命を犠牲に、奴の身体から、全ての魔力を奪い去った。
最後のトドメを刺そうとした瞬間・・・油断してしまった。魔王の側近が転生術を使用したのだ。負ける可能性を考慮し、切り札として残していたのである。魔王は、この世界に転生した。
魔王の力は17年周期で復活する。
転生から、現在この年が、魔王復活イヤーなのだ。
「ユウキが魔王の魔力を感じる方法って、直接触れないとダメなんだよね?」
「ああ」
「今更だけどさ、そんなんで、魔王見つけられるわけ?」もっともな事を柊木が言う。世界中の人間に触れて回らなければならないわけだ。
「直接は探せなくとも、魔王は自分の力を使うだろう。この世界を支配するために」
賢人は真面目な顔をしている。
「うん。嫌でもなにかしらニュースでその存在を確認することになると思う」と俺。そう。相手から動くに違いない。その時に、確認しに行けばよいのだ。
「もうすぐだな。17年、待ち望んでいたぞ」
賢人の表情は変わらない。
この世界に来て17年か。
そして、魔王との戦いから17年も経過したのか。
前世での、俺たち一族と魔王との戦いは、それ以上の歴史がある。
「ふたりともごめん。あのさ・・・私、ちょっと前世のこと、忘れてきてるかも」と柊木がいう。
実を言うと、俺もそうだった。
「同意だ。でも、目的は忘れちゃいない。なぜ俺らがここにいるのかも、忘れちゃいない」
賢人は悲しい過去を噛み締めるように、少しだけ口角を上げた。
「ああ、そうだな」
破手真央。
同じクラスの巨乳ギャル。
今朝、同じく遅刻してきた彼女と衝突した時、確かに俺は感じた。
魔王の、あの、禍々しい魔力を。そうだ。目的は・・・シンプルだ。
「みんな、聞いてくれ!」立ち上がる俺。
ー〝同じクラスのあの女、破手真央。アイツが魔女なんだ。今すぐ、3人で作戦を立てて、魔王討伐を実現しよう!〟ー
その言葉が、出てこない。
「ん?」
「どうした。急に」
「いや、その・・・」
何故、それが言えない?俺。
明るめの髪の色。
柔らかな笑顔。
パチリとしている目。
巨乳。
M字開脚とパンツ。
何故、言えないんだ、俺は。
「なになに?」と柊木。
「えっと・・・ほら、みんな部活とか、どーすんのかなって?」
「どうした勇気。何故話を変える?」
「えっ?」
賢人の目が鋭い。コイツは頭の切れる奴だ。まさかコイツ・・・何かに気付いていたり、しないよな?
「いやいや、俺らもまた、転生してきたって事、バレたらやべーわけだろ?ある程度さ、普通の人間を演じなきゃって思って、な?」
「饒舌だな。まぁいい。俺はチェス部に入るつもりだ」
「賢人らしいね。私はテニス部かな」
「へぇ。テニスか・・・」
「あのね、仲良くなった子、ほら、真央ちゃん。真央ちゃんがテニス部入るっていうから、私も入ろうかなって」
な、なに!?
破手真央がテニス部、だと!?
エースを狙うたびに、金色の髪、そして胸が揺れるのではないか!?
「勇気。お前はどうするつもりだ?一緒にチェスという手もあるぞ」「テニスだ」「え?」
「テニスだ」
「えっ!?勇気も男子テニス部?」
「ああ。ちょうどテニスの振り方が、剣技を彷彿とさせるからな」
「勇気。さすが王家の血を引く勇者だ。剣技が鈍らぬよう、常に練習を欠かさないということか」
賢人の目が見開いた。見直したぞ、勇者様、と言いたげである。
「ああ。勇者でもあるが、俺は王家の血を引く王子でもある」
「テニスの・・・」
「そういうことだ」
そう、俺はテニスの王子様だ。
[第3話 おわり]