第9話 ついにラブロマンスが幕を開ける!?
「ほら、自分がしっかりリードしますからもっと近づいて下さい。」
「こ……こんくらいか?」
「もっとです。トイレをダメにしたいのですか?」
「うう……こんくらいか?」
「そうです。そのくらいです。」
ようやく自分はファル君と───
手を繋ぐ事ができた。
「やっぱ、恥ずかしいぞこれ。」
「いくら、男ばっかの家族とはいえ初心が過ぎませんか?」
ファル君の顔は真っ赤に染まっており、今にも蒸気を耳から吹き出して昏倒しそうだ。
「はぁ!?妹いたんだが!!お兄ち「はいはい、そうですか。」
どうでもいいのでぶった斬っておく。
「それではいきますよ。「ちょ、ま、」1,2,3,4,ハイっ!!。」
自分の掛け声に合わせ、繋いだ手から互いに魔力を送り合う。
「ふむ、勢いが強すぎますね。もう少し抑えて。」
「ライちゃんが、勝手に始めるから──」
「もっとです。このままでは死に急ぎになりますよ。」
ある意味、間違いないだろう。魔法は発動者のメンタルが大きく作用する。
ファル君の出力の勢いが凄い要因は魔力出力に慣れていないからというのも要因の1つではあるが、1番の理由は焦っているからだろう。
焦っているが故に星魔法で鍛えた魔力制御も禄にできていない。こんな状態で脱出に彼が踏み入っていたら、犬死にした死に急ぎの愚者として後世で語られる事に間違いない。
そこで、自分は落ちついて制御してもらう為に合体魔法の練習を提案した。どれだけ焦ろうが相手に「……おい」ペースを「ライちゃん!!」合わせ──
「これやばくないか!?」
ん、なんか視界が白い……
ボガアアアアァァァァァァン!!!!!!
◇◇◇◇◇
「すみません、思考に耽っていて気付きませんでした。」
「……勘弁してくれよ。」
チリチリになった髪を弄りながらファル君は答えた。
ファル君と戦った時もそうだが、自分は魔法か戦闘の事になるとどうにも周りが見えなくなる癖がある。直したほうが…いいんだろうな。
「というか、ライちゃん。」
そんな事を考えていると、何故か自分の髪とは目に視線を行き来させながらファル君が話しかけてきた。
「なんか白くなってないか?」
「ああ〜、道理で体の動きが鈍いと思いましたよ。」
試し腕を上げ下げしてみると、いつもより反応が遅い。
納得している自分に対して、ファル君は首を傾げていた。
「自分、特異体質と言いますか、魔力量に対して漏出量が低いのですよ。」
「どういう事だ?」
「魔臓は心臓と同じ様に常に動き、魔力を生産します。しかし、魔力の蓄積には限界が有る為に余剰分は身体から漏れ出るのですが、自分の場合はそれが殆ど有りません。その対策で身体強化魔法を常に掛けて消費していて、その影響か髪や目が翠色に染まっていたのですが……」
さっきの爆発の際に持ってかれてしまっ……
──スゥッ!!
「なんで今腕隠したんだ?」
「何の事でしょうか?」
っぶねぇな!?今、腕丸出しだったぞ。何とか誤魔化さないとな。う〜ん、あれだッ!!
「……もう8時ですよ。ファル君も眠いでしょう?」
実際に時計の針は2/3を過ぎている。だから、さっさと眠れ!!
「いや俺さ、全然眠たくないんだよ。だから後もうちょっとだけで良いからさ、な?」
ああ、たぶん操られてた時は意識が眠ってたのか。で、久しぶりに起きたから夜更かししたいと。クソがッ!!
「ふわぁぁぁ、自分、眠たいです。」
「いや、キャラブレてないか?」
知らん、早よ眠れよ。
くっ、こうなれば仕方あるまい!!喰らえ我が奥義!!
「自b……、ライちゃん、とっても眠たいのです。眠っちゃ駄目ですか〜?」
『ぶりっ子ブライト』!!この技は自分の尊厳を代償に相手をぶりっ子口調で堕とすのだ。
何より、魔力消費は驚異のゼロ。代わりにMPは大幅に削られるが致し方無し。
ダメ押しで上目遣いも喰らえ。女慣れしてないファル君にはオーバーキルだろ!!
──余談だが、ライカは美形ではある。顔のパーツや配置は美しい。
ただ、隈が濃く目つきは鋭い。更に言えば、誰かに媚びるという行為は生まれてこのかた初めてであり、まして上目遣いをした事もないのである。
結果、今ライカは俯き短い前髪の隙間から相手を睨み付けている。
これに本人が常に無意識に発している『近づくなオーラ』が掛け合わさった結果、
「ヒュッ…………」
「うん?ファル君?大丈夫ですか!!ファル君ー!!」
──P.S.レーファル・スター、永遠なる眠りを──
「いや俺生きてる「夜だから眠って下さい。」ゴッ!!
ふう、何とか眠らせられたけどどうしようか?流石に丸焦げの手袋は……、
「大きな音がしたんじゃが、何事かね?」
おお、都合よく爺が来たな。
「実は──」
◇◇◇◇◇
うん?目が覚めたんだが周りが真っ暗だ。明かりを消したからじゃない。まるで、何もない空間かのように真っ暗だ。
周りを見回してみると、ほのかな光が浮いている。何も手がかりがないのでそちらに足を進める事にする。
「はぁ、……はぁ、……おかしいな、息が。」
何もない平坦な空間の筈なのに息が苦しくなってくる。まるで、酸欠を起こしている様だ。
それに、でかい。思っていたより光がでかい。近づけば近づくほど、はっきり見えてくる。
でかい光、いや炎が揺らめいているのがはっきり見える。
炎の中には3人の人影、いや焼け焦げた骸が佇んでいた。こちらに来いと手招きしてくる。
だけど──
「行けないよ。まだ、行けない。自分はまだ地獄を生き地獄を見足りない。だから、今はこれで赦して。」
炎にそっと手を伸ばし掬い上げる。手が焼かれて心地よい。ああ、罪に汚れた腕が浄化されて逝く。
熱くなるどころが手の感覚が消え、冷たくなっていく。これで、これでいいんだ。
──その時、誰もいない筈なのに手を握られ、温かい感触が伝わってきた。
瞳を開ける。目の前には心配そうな顔で、手袋越しに自分の手を握っているファル君がいた。
「……何してんの?早よ、寝なよ。」
「眠くないって言っただろ。ベッドに寝っ転がってたら、なんかライちゃん魘されてたから握った。」
「訓練の時は恥ずかしがってた癖に。眠ってる女には触れるんだ。キモッ。」
キモいのは自分だろ、こんド畜生
「良いよ、俺の事嫌っても。嫌われるのを怖がって助けないよりは気分がいい。」
「……まだに……いや、何でも「分かってる」…?」
「暫くは一緒に居るから安心しろ、ライちゃん。」
ファル君は分かってないよ。自分はそんな事されて良い人間じゃないのに。
「ほら、早く眠れ。」
そう言って、ファル君が右手で頭を撫で始めた。
涙が………、そう、前髪が目に入って涙が溢れ出したじゃねぇか。
だから、その、独りは辛かったよなみたいな表情を……辞めてくれ……。
──その裏で──
「リリー、どうした?夜飯を作ってやったんじゃないのか?」
厨房に戻るとブレイクがエプロンを着て鍋を煮込んでいた。明日のご飯の仕込みをしているらしい。中々に家庭的、いや職人的?なオークだ。
「いや〜。なんかいい感じの雰囲気になってて入り辛かったんだよね〜。」
私が料理を作っている間に、イチャラブしやがって、マグナムドラゴン・ブレスを持ってやる。
「俺が食ってやろうかっ……てなんだコレ?」
「スッポンの丸焼きだよ。男女が同じ部屋に居るなら精を付けなくちゃだからね〜。」
「……チョイスが偏見盛々だし、何をどうなったら丸焼きが虹色に光るんだ?」
「適当に元気が出そうな秘薬を50、いや200種?だったかな、」
「今すぐその劇物捨てろおおぉぉぉぉ!!!!」