第3話 実験しようぜ!!モルモットお前な!!
「ねぇねぇ、偽名を教えるって酷くない〜。本名教えてよライカちゃん〜。」
私がここに来て数日が経った。
「無視しないでよ〜。私は仲良くなりたいだけなんだ〜。」
変わった事といえば、あの私とメシを雑に投げ込んだ野郎が2日目から来なくなった事と、
「ねぇ。ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ〜。」
リリーが部屋の中に居座る様になったことだろうか。理由は偽名を使ったのがバレたからだろう。
やはり、新聞に私の本名が書かれていたのだろうか?いや、名前を聞かれているからその線は無い。
それならやはり、
「ね " え " ?」
「……何でしょうか?」
「名前「断ります。」……。ケチ、減るもんじゃないのに〜。」
いい加減、うざくなってきたので適当に相手をしたら、捨て台詞を吐いてリリーは部屋から出ていった。まあ、また昼過ぎに来るのだろうけど。
◇◇◇◇◇
「ライカちゃんったら酷いんだよ〜。私に偽名を教えたんだよ〜。」
「なんで偽名と分かったんだ?」
「服従の呪いを掛けるのに失敗したから…。」
「出会って早々に呪うとは怖いのぉ。」
「シュン」
「お前が言うなマドワフ。後、可愛く萎れんなイカレ女。」
「「それ程でも〜。」」
「照れんじゃねぇ!!褒めてねぇよ!!」
談話室にて、リリー、マドワフ、ブレイクは談笑をしていた。
「というか、そこは没落貴族なんじゃしヒトの新聞「ヒト……ヒト?ヒト、ヒト……、ヒト」
「「あっ」」
マドワフとブレイクの声が同時に重なった。
「ヒトコロスヒトコロスヒトコロスヒトコロスヒトコロスヒトコロスヒトコロスニクイニクイニクイニクイ───」
「……。」
突如として、ガクガクと揺れながらリリーは静かに発狂し始め、足元には涎か鼻水か、水溜りが床を侵食していく。
「……、どうすんだよ。」
「お開きにした方が良いじゃろ。」
「だな。」
その言葉を合図に2人は部屋を後にした。
「はて?ブレイクに伝えたい事があったはずなんじゃが、なんじゃったかの?ま、忘れたという事は重要な事ではないじゃろうしええか。」
余談だが、その日は10人ほど職員が減ったとのらしい。
◇◇◇◇◇
正午12時、ライカがモキュモキュと昼飯を食べていたところ、リリーが乱入して来た。
「私考えました〜。戦わせて疲れた所で名前を「自分に今言ったので失敗ですね。」
リリーの作戦は一瞬で頓挫した。当たり前である。
「それはそれとして〜、マドワフ君がデータを取りたいらしいから〜、デンカちゃんには戦って貰うよ〜。」
「はぁ、良いですけど。」
ライカは上の空に応えた──
つもりだったがリリーには、天井の灯りを眺めていた瞳がほんの一瞬、自身に向いた事に気付き、仮面の下で笑みを深めた。
「言質取ったり〜。さあ行くよデンカちゃん〜。ハリーハリーハリー!!!!」
──うっせぇなぁ。
そんな事を考えながら、何処からともなく生えてきた蔦にライカは無抵抗に包まれていった。
◇◇◇◇◇
「して、ブレイクはこの対戦どう見る?」
壁の一面がガラス張りになった部屋でマドワフはガラスから下階を見おろしながら隣に立つオークに問い掛けた。
「何とも言えんな。貴族様という事は属性付与は使えるだろうけどよ。12才そこらの小娘が勝てるとは思えんな。」
顎を指の間に乗せながらブレイクは答えた。
ガチャ、バタン「私はあの両手に暗黒の力が宿ってて追い詰められた瞬間に『フッ、少し遊んで演ったがこの程度か。我が力の前にひれ伏せ!!』って言って、手袋バーン!!相手ぐちゃぐちゃー!!脳汁ブッシャァァァアアアア!!ブレイクオロロロォォェオオオー!!だと思うよ」
「吐くのうまいのー。」
「そうだなー(棒」
とりあえず無視しようと、2人は心の中で決めた。
◇◇◇◇◇
──アイツら何してんだ?
自分は冷めた目で観覧席?に居る3人組を見つめていた。というかしれっとオークが居る。
オークって秘境に籠もってる野蛮人のイメージだったんだけど……。アイツが社交的なだけか?
閑話休題。今、自分はリリーに拉致られて真っ白な部屋に来ていた。広さは横15m、縦40m、尚且つ天井は2階まで吹き抜けになっている。
また、2階部分は一面がガラス張りになっており、そこからこちらの様子を見れる様になっている。
尤も、観客席等は無いため工場の視察用の通路に近い。
部屋の中には自分以外には誰も──
「おう、オメーよ。ナメてんのかコラ!!アホ面で何無視してんだよ!!ぶっ殺すぞ!!」
スゥー……。
妙に高くて迫力がない三下へなちょこボイスが正面から聞こえる。
正面に顔を向ければ、世紀末風の名前を言ってはいけなさそうな男が自分にガンをつけていた。
どっから連れてきたんだ?
「……、別に貴方に興味無いので。」
「あ゙ぁ、てめぇナメてんのか?ナメてんだろ。俺が小卒だからナメてんだろ。」
知らねぇよ……。
「てめぇのアホ毛切り落とヂィベラァァアア!!」
「すみません、衝動的に殴ってしまい……お前に敬語使う理由がねえな。ウザいから黙っとけ、オタンコナスの三下が。」
右手の手袋に付いた血をスカートの裾で拭いながら私は吹き飛ばされ地面に這いつくばった男を見下す。
「ほん、へメェ、ナメへんしゃめぇそ!!」
前歯が全滅したアホ面を晒しながら男は必死に吠え、立ち上がった。
「へぇ~、根性あんじゃん。ま、今のはいきなり殴った自分も悪かったな。次はそっちが動いて良いよ、自分は何かされるまで一切動かない。」
腕を組み、仁王立ちで私は堂々と宣言した。
「ましへナメへんしゃねぇ!!ふっほろしちゃー!!!!」
気が抜ける用な声で叫びながら男は右腕を掲げ魔力を集中していく。右腕から溢れ出す白色のオーラが徐々に勢いを増す。
対して自分は変わらず仁王立ちで男の一手待ち続ける。
「こうはいさせへやる!!」
締まらない前口上と共にオーラが激しい烈光に変化する。
裂断魔法 「仏恥斬り!!」
掲げられた腕が振り下ろされた。
放たれた刃は耳障りな音を侍らし、床を裂きながら真っ直ぐ直進し、
「ふん、」
───それを自分は右手で払う。刃は中心からへし折れ、軌道が狂った刃の上部、下部は明後日の方向にすっ飛んでいった。
「「「「っ!!!???」」」」
男だけでなく、3人組も驚愕に顔を─リリーは仮面を着けているので予想だが─染め上げる。
今のはまあまあだった。あんなに自信満々だったのに、自分を飽きさせるなんて
あり得ないよなぁ?
「ふふっ、あはは……アハはハハハははハはハァアアーーーー!!!!まだ、終わんないよなぁ?いや、終わらせねぇ。お前の魔法、もっと自分に見せてよね?」