第2話 グヘヘッ今から腹掻っ捌いて謎の黒い物質Aを入れるンゴねぇ~
「フォッフォッフォッ、安心せい。適正者で死んだ奴は居らんわい。」
いや、まず腹切られるのが怖いのですが…。後、マジでその黒いの何?
何かビクビク震えているし。10人中10人が
『キッショ、なんで見せるんだよ?』
と言う事間違いなしだろ。
いやそんな事を考えても仕方ないな。今は人体実験を回避する為にどうにかして逃げなければ。どうやら自分は首と手首、足首に拘束具を着けられ手術台に拘束されているようだ。
感触からして手術台と拘束具は鉄製だ。自分の雷で溶かせる事に賭けよう。爺さんは……そんなに強くないと嬉しい。
よーし、いきますよぉー!、せーのっ!あら〜、魔力が弾かれる〜。
「クソッタレが!!」
「……びっくりしたわい。危うく心臓が止まるところだった、」
思わず声が……。いや、驚かして心臓発作の1つでも起こしてくれた方が良かったのでは?それなら安全を期して腕力で引きちぎって逃げられたのに……。
「この拘束具は魔力を遮断する特別製じゃ。更にお主の食べた食事には即効性の睡眠剤だげでなく、魔臓を止める毒を少量混ぜたのじゃ。……んむ?、魔臓を止める毒は無駄足じゃったようじゃが…、そう簡単には逃げられんぞ?」
右胸に手を置きながら爺さん、もといエロ爺は自慢気に話していた。誰かお巡りさん呼んでくれん?あっでも私とエロ爺のお周りには誰も居らんな?
……寒っ!!
「まあ、逃げられん事も分かったろ?さっさと始めるぞ。」
こうなったら仕方ない。
「あの〜、質問をしてよろしいでしょうか?」
「手短にな。」
甘んじて、実験体にされる事も腹を切るときにワンピースを捲られ下着を見られる事も受け入れよう。
「その…、手に持っている物は何ですか?」
だからせめて、何が入れられるのかは聞き出さなければ。名前さえ分かれば誰かに無力化してもらえる……かもしれない。
「謎の物質じゃが。」
「はい?」
いや、うん、そうか〜、そうきますか〜。何を入れようとしているんですかね〜?この爺さんは。というか、何で適正がわかるんですかね〜?頭がボケていらっしゃりますか?」
「途中から声に出ておるぞ。まあそうじゃな、正確には邪龍の肉片、らしきものらしいが真偽は不明じゃ。少なくとも、この物質を適正者以外に埋め込むと魔力の暴走で死亡。適正者もストレスで体調を崩すと暴走と、散々な結果じゃ。お主は……、図太そうじゃの。期待しておるぞ?」
誰が図太いって〜?こう見えて没落貴族様だぞ。林檎を人差し指でだけで潰したり、50mを5秒で走ったりするぐらいしか出来ない娘だぞ。
せめて、麻酔ぐらい
糸魔法「マイクロ・メス」
「痛っでええぇぇぇ!?」
いや、服ごと裂くんかい!?
「おぉ~、硬いのう。まるでオークみたいじゃ。」
「あ゙ぁんっ?」
「おっと、失言したようじゃ。すまんの?」
いや、絶対に「今の失言だったんだ。とりま謝っとこ」みたいなノリだろ今の。
「これならどうじゃ。」
おお、いとのこぎりだぁ〜。魔法でも医療用具でもねぇ!!
「安心せい。ギコギコはしないからの。ほれ、スゥー。」
いやそれギコギコするや
スパッ!!
「あっ…」
え
えっ…………?
「ありゃ、似た魔道具じゃったか。すまんの、内臓切って───
あれ?なんか声が遠い…いよう………
◇◇◇◇◇
「お〜い、大丈夫〜?」ペチペチ
「……ん~?」
何だか心地よい声がする。これが天使か」
「違うからね〜。私は天使じゃないよ〜。しがない悪魔だよ〜。」
目を開けると無表情な能面が眼前に迫っていた。
「……」
「…?……あっ!!ごめんね〜。起きたら仮面が目の前にあるとか怖いよね〜。でも、これは外せないんだ〜。身バレは犯罪者の天敵だよ〜。でもでも〜、名前なら教えらるよ〜、君は一生ここでくらすからね〜。私の名前はリリー、リリー・アコナイトだよ。貴方の名前は?」
「……私は没落貴族です。調べれば分かりますよ。」
「ええ〜、貴方の口から聞きたいな〜。まあ、事情はそれぞれあるだろうし、無理に言わなくて良いよ。」
「…ライカ、一先ずそう呼んで下さい。」
「ライカ、ねぇ~?……うん、わかったよ。これからそう呼ぶね〜。」
軽やかにスキップをしながらリリーは部屋から出て行った。
場所は私が最初に入れられた監禁室。どうやら、気絶した後にベッドまで運ばれたようだ。
服と腹は縫われていた。特に腹は至近距離まで顔を近づけないと気づけない程綺麗に縫われていた。
「…怖ぇな、アイツ。」
それがリリーと話した私が感じた事だ。
最初は心地よいと思ったが、だからこそ怖い。全面が鉄で出来た暖かみの無い監禁室。
簡素で寝心地は地面に藁を敷いた様なベッド。
隅に置かれたもう訳程度の壁が張られたトイレ。
全てが冷たいこの施設の中で彼女は、自分をモルモット呼ばわりした割には優しすぎる。
それに──
「真名は魔に繋がっている。名は教えるべきではない。」
父からの教えだ。真に信ずる者以外に真名は教えるべきではない。
この世界に自分の真名を教えるべき者はもう居ない。
◇◇◇◇◇
ガチャッ「マドワフ君居る〜?」
「何だリリー、マドワフなら研究室にこもっているぞ。」
所変わって施設に併設された寮の一室、マドワフの部屋をリリーは訪ねたのだが、中には2mを超える全身が緑色の大男がいた。
また、その大男は丸い顔に下顎から伸びた鋭い2本の牙、豚のように潰れた鼻を持っていおり、到底人間とは言えぬ相貌をしていた。
「あれ〜、ここってマドワフ君の部屋だよね〜。何でブレイクが居るの〜?まさか泥棒〜?」
「んなガラクタしか部屋に盗む物がある訳ないだろ。マドワフと廊下ですれ違った時に「儂の部屋に来いっ!!」って急に言われて来てみればなんか色々調べれて、かと思えば俺の事を放置して走ってどっか行ったんだよ。」
「それで嫌がらせに部屋をめちゃくちゃにしたと〜。」
クスクスと笑いながらリリーは床を指差した。
「いや、元からこうだ。ったくこれだからドワーフは。」
「そういう君は野蛮なオークっぽくないよね…?」
リリーの言葉にブレイクは顔を顰めながら応えた。
「あのな、オークは野蛮じゃねえよ。こう見えて呪いのスペシャリストなんだぜ。」
「へぇ~?例えばどんな?」
どうやらリリーは彼の言葉を信じていないようだ。
「例えば俺は、寿命を削る代わりにパワーを上げる呪いを自分にかけているし、他にも万雷の呪いとか死の呪いとか色々あるぞ。」
「つまり、脳筋ってことだぁね?」
「はぁっ!?みんなで頭捻って、魔力を練り合わせて発動するから規模がデカすぎるだけで、……あぁ、もういいや。どうせ、聞いてなんか……。ほらな。」
実際にリリーはブレイクが瞬きをした隙にトテテテッと走り去っていた。それを尻目に、ブレイクは釈明を諦めて勝手に部屋の片付けを始めた。
「ったく、マドワフも部屋ぐらい片付けろよ。」
後に、『勝手に片付けるな!!魔道具がどこにあるか分からなくなったではないか!!』と怒られるのはまた別の話である。
最後の修正をしていたら、また長くなってしまった……。