ねこのぱん
私には、大好きなパンがある。
ふっくらしていて、丸っこく…、思わず指でつんつんしたくなるような、コッペパン。
それは、『ねこのぱん』。
……猫の前足である!!
猫が畏まって私を見上げる時、たまにパンが二つ現れる。
猫の前足はパンではないが…どう見てもパンにしか見えない瞬間があるのだ。
先端だけがちょこっと丸くなっていて、ぷっくり膨らんでいるのが…まさにパン。
毛に覆われた前足のホクホクとした見た目、それはさながら…焼きたてのパン。
美しく見せようとして巻いたり切ったり成型したりしない、素朴な丸みを帯びた…コッペパンのフォルム。
天然の丸みが心地いい、見ているだけで腹が膨らんで大満足するような…コッペパンの面影。
焼き立てパン屋に並んでいようものなら、値段を見ずにトングでトレイに移し替えにかかるであろう、魅惑の一品である。
猫の前足をパンと認識したその瞬間…、オートモードが発動する。
しゃがみこんで、パンとの距離を縮める。
覗き込んで、間近でパンに魅入る。
指先でパンをつついて、悶絶する。
ピュアな眼差しで私を見上げる猫を前に、へらへらとした笑みを浮かべる。
言葉にならないおかしな声を漏らし、猫の頭をひと撫でする。
猫が移動を始めてしまえば、パンは消えてしまう。
猫の前足は、ずっとパンに見えるわけではないのだ。
貴重な、貴重な…『ねこのぱん』。
連日で見かけることもあれば、しばらく見かけなくなることもある。
どのタイミングで『ねこのぱん』に出くわすかは、運次第なのだ。
……今週は何回くらい、お目にかかれるかな?
もふもふの腹毛を丸出しにして寝転ぶ猫を愛でながら…、焼き立てのコッペパンにバターとあんこを塗り付けつつ、豪快にかじる私なのであった。