修道院行きは悪役令嬢達が迎えるエンディングの筈でしたが……?
書きたいシーンをどう盛り込むか、中々決まりませんでした。
乙女ゲーム「聖女の選択」。そのストーリーは教会で育つ孤児だったヒロインが神託により聖女と判明し、国の貴族学園に通う事になり、そこで第一王子を始めとする様々な高位貴族なイケメン達と出会い、恋に落ちるーー、と言うものでございます。
そしてこの世界は乙女ゲーム「聖女の選択」そのもの……、私は悪役令嬢の1人として生まれ変わりました。
このゲーム、攻略対象は5人、ライバルである悪役令嬢も5人。各々個別ルートに入ると、攻略対象を巡り、対応する悪役令嬢がヒロインと敵対行動を取るのです。……要はイジメですわ。
悪役令嬢達のポジションは攻略対象達の婚約者ーーではなく、幼馴染と言う設定でした。しかし悪役令嬢達は攻略対象に恋をしていて、何れ彼と結婚したいと夢を見ていて、ヒロインが邪魔になる、と言う動機でしたわね。
……どう言う事なのでしょう。
ゲームでは単なる幼馴染だった、私達悪役令嬢は全員、婚約者となっておりました。幸い、と言うべきなのでしょうか、私達悪役令嬢達は全員が転生者でして、よく話し合いをしておりました。
攻略対象達は王子とその側近候補ですので、彼等は同派閥であり、必然、私達もそうなりますので、仲が良い事に越した事はありません。
「ゲームと現実は違う、と言う事なのかもしれません。」
ゲームに於いては婚約者等存在しませんでしたが、この国ではそもそも高位貴族家や王家は政略により、早くに婚約者を決める傾向にあります。
しかし乙女ゲームに於いて、婚約者を裏切る攻略対象は不誠実と言う事で、略奪がコンセプトでない限り、その様な設定は無い事が多いのです。
つまりゲーム世界は乙女ゲームのルールによって、現実を捻じ曲げていた様なもの……、私達はそう解釈しました。
しかしそうなりますと、ヒロインと攻略対象のイメージが変わりますわね……。
正直、浮気男と婚姻は忌避感が強く、可能ならば婚約を破棄したいと思うのですが、現段階では不可能でしょう。それにまだヒロインは現れてもおりませんから、彼等は浮気の「う」の字もないのです。更にこのゲーム、ハーレム展開はありませんでしたから、順当に行けばーーそうとは限りませんがーー、裏切り者は1人。残り4人は誠実なのです。
言い換えれば悪役令嬢は最期、断罪されて修道院行きとなりますが、それを避けるにしても誰か1人は婚約がなくなるとも言えます。
どうなるにせよ、全てはヒロイン次第になります。
……いっそ始末しても良いのでは?
そう思わないでもありませんが、ヒロインは教会の孤児院育ち。教会はかなり権力を持っているので、そんな処が運営する孤児院に暗殺者を差し向ける等以ての外。現状、私達は何も出来ません。
そしてある日、事態は急展開を迎えました。
王宮に呼び出された私達はこう宣言されました。
「婚約を白紙とする。」
私達は目を丸くしました。そんな私達に理由が説明されます。
「教会から要請があった。神託が出たらしい。」
神託、その言葉に自然、ヒロインの事が頭を過ぎりました。
「示された聖女を我が国に嫁がせよ、と言う内容らしいのだ。そして聖女の夫候補として指示されたのが……、」
攻略対象達、と言う事でした。
教会には王家でさえ逆らえません。苦々しく思っているのは確かです。……成る程、ゲームで私達が幼馴染とされていた理由はコレですか。ヒロインが気に食わない訳です。
理由を考えますと、聖女が選ばなかった4人は元サヤに戻る事になるでしょう。従って、私達は新たな婚約を結ぶ訳にもいきません。何とも中途半端です。
ヒロインと私達悪役令嬢は同じ年。学園に入学する年度は同じで、更にゲーム終了時は学園卒業時。この時点で婚約出来ていない貴族令嬢に将来はありません。
国としてはヒロインを排除したくとも、動けない。貴族家としてもそれは同様です。だから私達が個別に動いて、ちゃちい嫌がらせに終始するしかなかったのかもしれません。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ヒロインも転生者でした。
「へ〜、じゃあ国からは何にも聞かされてないし、RPGギャルゲー『勇者の選択』も知らないんだ。」
其処で初めて知らされたのは神託の意味と、今より30年以上(?)未来を舞台にしたゲームの話でした。
「えっと……、つまり将来、魔王が現れるからそれを討伐する勇者が必要になる、と言う事なのね。」
「そそ、ゲームじゃ最初に勇者を5人の中から選ぶんだけど、誰を主人公にするかでストーリーも変わる様になってて、勇者が攻略する相手も変わっちゃうの。1人の勇者につき、4人の攻略対象がいて、総勢は20人。」
多過ぎでは?
「だからあんまり個別イベントとか濃くないし、RPG部分もお粗末でさあ〜、あ、これは私の感想ね?」
「はあ……。」
「で、この『聖女の選択』は前日譚扱い、要は聖女が選んだ相手との子供が勇者って訳だけど……、5人の中から勇者を選ぶのはストーリー始まる前で、選んだ1人以外の4人は、いざストーリーが始まると影も形も消えちゃう訳。だから例えばギャルゲー勇者Aは乙女ゲー攻略対象Aが父親で、ギャルゲー勇者Bは乙女ゲー攻略対象Bが父親……、って言う感じな訳。でさ、此処って現実じゃん?」
「そうですわね。」
「5人の勇者って其々ステータスに差があるわけよ。タイプ別勇者ね。腕力タイプとか魔法タイプとか。で、仲間達はそれぞれ勇者に合わさったステータスを持ってる訳だけどさ〜。勇者とお仲間5人よりさー、勇者5人の方がよっぽど安定すると思わない?」
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はい?
RPGとしてお粗末と言う事は楽勝だったと言う事でしょう。しかし此処は現実なので、対魔王戦がどうなるか分かったものじゃありません。少なくともパニックを考え、王家も教会も情報を私達にすら秘匿している程ですから、魔王を警戒しています。
魔王討伐の可能性を高くする為に、勇者を全員この世に誕生させるのは決して悪い手ではありません。しかしそれはゲームにはなかったハーレム展開……、貴族社会的にはそれは……。
「大丈夫、結婚なんて必要じゃない、要はタネさえあれば良いデショ? そりゃ待遇の良さは求めるけどぉ〜〜。」
……悪役令嬢の私達は全員、元の婚約者と婚姻は致しました。しかし学生時分に未来の為と、妊娠するまで種馬にされ、妊娠→出産したら「はい、次ィ!」と順番に聖女に絞り取られた彼等は性的行為にトラウマを持ってしまい(当時、憔悴が余りに酷かった)……、子作りのプレッシャーに耐えられず、修道院へと自ら出家なさいました。
ヒロイン? 彼女なら魔王がいなくなった世を冒険者として巡って楽しんでいる様です。
それで……、世界が救われても夫に逃げられた私達はどう救われれば良いのでしょうか……?
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