寿愛瑠【じゅえる】
昔々あるところに陽キャの夫婦がおりました。あるとき二人は待望の女の子を授かったので、村の長老を訪ねてどんな名前が良いか相談することにしました。
「激エモでテンアゲで超きゃわたんな名前でおねしゃす!」
「りょ。とりま寿愛瑠とかどう?」
「「鬼やば!!」」
「恋光彩とかもよくない?」
「「ありよりのあり!!」」
「乙女星もいいっしょ?」
「「エグち!!」」
長老の出した候補は甲乙つけがたく、どれも同じくらい気に入った二人は散々悩みに悩んだ結果、すべての名前を付けることにしました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
十数年後。
「いてっ。おい、どこ見て歩いてんだよ寿愛瑠、寿愛瑠、恋光彩の乙女星、海綾璃好賭の、素照笑和蘭女王富藍西洋将棋華、トイプーチワワにスコティッシュフォールド、大和撫子の小撫子、パリジェンヌ・パリジェンヌ・パリジェンヌのシュークリーム、シュークリームのグレープフルーツ、グレープフルーツのポンポコピーのポンポコナのチョコレートケーキの千陽幸! たんこぶできたじゃねえか!」
「はあ? 嘘、全然腫れてないじゃない!」
「……さ、触んなよ! お前の名前が長すぎるから治ったんだよ!」
「あんたにだけは言われたくないわよ! 寿限無、寿限無、五劫のすりきれ……」
犬猿の仲の二人が、お互いの名前よりも複雑で長い紆余曲折を経て、やがて幸せに結ばれることを今はまだ誰も知りませんでしたとさ。めでたし、めでたし。