修練場
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木剣を構え目の前の男に向かって全力で走り出す。
「おりゃああああ!!」
一瞬で目の前に木剣をもった相手が近づいてきた。
俺もびっくりしているが相手の男もびっくりしている。
走りながら木剣を振りかぶっていた為、間髪入れずに攻撃を繰り出す。
相手の木剣に攻撃を当て木剣を弾き飛ばそうとしたが、目の前をみると相手の木剣は折れて先ほどまで目の前にいた男は修道場の壁まで飛んでいた。
「あれ……?」
周りにいる屈強な男たちも目と口を開けっ放しで驚いている。
そんな中アリアだけがいつもと変わらない笑顔でこの状況をみていた。
「ア、アリアさん…… これって……?」
「あら、ご存知ありませんでしたか? 院長に我々との力の違いのお話しされてたでしょう?」
そういえば
『特別な力もそうですが、そもそもの力が違うんです』
って言っていたな……
そういう意味だったのか……
「人によりますが、こちらの世界では現行世界で発揮できる力の50~100倍増幅すると考えてもらって構いません。なので単純な力という部分に関してはダイキさんは敵なしですね」
50~100倍!?
「そんなチート能力もらってるならこんな練習いらないんじゃ?」
「チート? なんですそれは? あくまで力が強いだけですので剣の技量が上がっているわけではございません。なのでこちらできちんとした剣の練習をして技量を高めてください」
なるほど……
ここまで力があれば技量なんてどうでもいいレベルだと思うんだが自衛団の試験でもあるんだろう。
「わかった。痛い思いをしなくていいのは嬉しいし、練習頑張るよ」
「ご理解ありがとうございます。それよりこの世界の方の何倍もの力強さ…… 一度私と夜の営みをーー」
「それはいらない」
このサキュバスシスターの頭にはそれしかないのか。
とにかくこの修練場でやるべきことはハッキリとしたので先ほどゼントを倒した筋肉質の男にお願いすると、条件付きではあるが快諾してくれた。
「ここまで強いと我流でも十分に通用すると思うがダイキの言いたいことはわかった。俺のことはブライと呼んでくれ。一応この修練場の場長をしていてここの流派の師範もしている。それと、剣を教える代わりと言ってはなんだが、一年に一度開催される流派同士の剣術大会がある。うちで教わるからには召集されたらその大会にも出てくれ」
たしかにここで教わるからにはブライの流派に入るから大会にも出ないといけないのは筋が通っている話しだ。
「わかった。それでいい。よろしく頼むよ」
◇◆◇◆◇◆
一ヶ月後ーー
修道場からは木剣のぶつかる音と男臭い声が響く。
ーー カン! カン!
「次!」
俺は皆伝試験の50人組み手の途中だった。
力に差があるのでハンデとして手足に20kgの重りを付けさせられている。
それでもハンデとしては軽いが力任せの剣捌きにならないようブライが用意してくれたのだ。
50人組み手も残り1人となり師範のブライが出てきたが手に持っているのは木剣ではなく真剣だった。
驚いた俺はブライに向かって異議を唱えた。
「ブライ! 卑怯だぞ! それ真剣じゃねえか! 当たったら斬れるだろ!」
ブライは真剣な眼差しで俺の異議に答えた。
「確かに卑怯だな。だが戦場で会った敵が自分の武器より優れていたらオマエは今のように武器を変えろと言うのか? それにオマエの力なら木剣は当たってもさほど痛みは感じず今まで練習してきた。しかし皆は痛みを伴って日々鍛錬してきている。斬られたら死ぬ。そのプレッシャーを超えるのも試験だ。不服ならここで試験をやめるんだな」
ブライの言うことはもっともな意見だった。
本来このチート能力がなければ木剣で殴られただけでも痛みはあるし酷ければゼントのように気絶もする。
ブライが俺のことを真剣に考えた上での行動というのが伝わり俺も真剣に向き合う。
「よし! わかった! そのまま真剣でいい!」
「よく言った! いくぞ!」
俺が木剣を構えるとブライも真剣を腰に構えた。
「はじめ!」
開始の声と共に俺は飛び出した。
当然基礎能力の高い俺の方が早く相手の懐に入るのだが様子がおかしい。
ブライは開始位置から一歩も動いていなかったのだ。
目線を上げるとブライは身体を逆に捻らせて腰の鞘に構えた大剣を握る拳に力を込めていた。
このままガードをすると木剣ごと斬られることが容易に予想できたので慌てて後方へステップして剣の軌道範囲外まで逃げた。
全力で振り回された大剣の軌道を避け再度踏み込もうとした瞬間、大剣から斬撃のようなものが飛んできた。
慌てて木剣でガードしたが俺の持っていた木剣の八割は切断され地面に落ちた。
そのまま壁際まで走り、壁に掛けられている木剣を再度手に取った。
なんだ今の斬撃は!?
あんなの食らったら真っ二つになってしまう……
やばいやばいやばい……
怖い怖い怖い……
死を目の前に感じた俺は手が震え木剣をうまく握ることができない。
首から下げるネックレスを握りしめ心の中で (落ち着け、落ち着け)と自分に言い聞かせる。
ブライは見たかと言わんばかりに大声で笑いながら声をかけてきた。
「ガッハッハッ! どうだ! 死の恐怖を感じただろう! 実際の戦いでは予想もしない技が飛んでくる! だが咄嗟に木剣を取りにいった判断は良かったぞ! 簡単には皆伝試験は通らさんぞ!」
よく言うよ。 いくら基礎能力があるって言ってもこんなの反則レベルだろ。
くっそ…… やってやるよ。
沸々と湧き上がる怒りにより気がつけば手の震えが止まっていた。
ブライはまた腰の鞘に大剣を納めると俺に対し向かってくるよう声をかけてくる。
「どうした!? 腰が引けちまったか? 掛かってこい!」
挑発気味に煽られた俺はさっきと同じように全力でブライの懐まで入り込む。
待っていたと言わんばかりのブライはまた大きな身体を捻り大剣を握る拳に力を入れている。
俺が狙うはこの大剣を握る拳の一点のみに決めていた。
ブライが大剣を抜こうとした瞬間を狙い大剣の柄を力一杯木剣で叩いた。
「グッ……!」
ブライは抜こうとした大剣が鞘に戻り身体のバランスを崩した。
力一杯木剣で叩いたからか俺の持っている木剣は折れていたがチャンスは今しかない。
木剣の柄でブライのアゴを狙い全力で突き上げると、大きな身体が宙に浮き大きな音を立てて地面に落ちてきた。
「はぁ、はぁ…… 」
目の前で白目を剥き倒れているブライを見て、やっと死の恐怖から解放された気持ちになり手に持っている折れた木剣を地面に落としその場に腰を落とした。
◇◆◇◆◇◆
殺し合いのような試験から数時間が経過してやっとブライが目を覚ます。
決死の覚悟でアゴに思いっきり打ち上げたので、もしかすると殺してしまったかと本気で心配していた。
しかしそんな事は隠しておこう。
心配していた素振りを全く見せずにブライに問いかける。
「ブライ、気が付いたか?」
ブライは意識が朦朧としているのか、起き上がりながら話し始めた。
「んん…… 俺はやっぱり負けたのか……」
「まぁギリギリの所だったけどな。俺の咄嗟の判断と狙い通りの武器破壊でな」
心の中ではブライが起き上がったことに歓喜していたが自分の見え方がいいよう立ち振舞った。
ブライがその場に座り直すと俺の肩を掴んだ。
「これでダイキも我が流派、虎刀流の師範代だ。おめでとう」
厨二病くさい流派の名前に疑問を残したが、やっとこれでこの修練場ともお別れだ。
修練場の壁に掛かっている道場生の名前の一番上に俺の名前が書かれた板をかけられた。
修練場のみんなに見送られながら一度教会に戻ることにした。