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ジャンスの教会


 街につくともう日は暮れていた。

 

 「結構歩くもんなんだな。かなり疲れたし夜になってきたから早く休みたいよ」

 「これでも近道してやったんだ。文句言うな。目的地は教会だったな? もうすぐだ」


 山道を4〜5時間歩きっぱなしで足が棒のようだ。

 教会に着いたらやっと休めるな……

 それにしても街並みを見るとアニメやゲームにある中世のヨーロッパのような街並みだな。

 下位世界って言ってもよくある異世界の景色だ。

 

 「ダイキ、着いたぞ! ここだ! じゃぁ俺は帰るからな!」

 「ええ! お願いだから一緒に中までついてきて!」

 「1人で行けよ…… いくら知らない土地って言っても目的地には着いてんのに。俺は早く帰って部下と飲みてえんだよ!」

 

 そこには想像していた通りのこれぞ教会という感じの建物があった。

 帰りたがるゼントの腕を掴み、無理矢理一緒に中に入ると、大きく広がる部屋の真ん中には奥に向かって赤い絨毯の通路があり、通路を挟むように両端に木の椅子が並んでいる。

 教会の中を眺めていると奥のドアからシスターが1人出てきた。


 「すいません、ここにアリアさんという方がいらっしゃると伺ったのですが呼んでいただけますか?」

 「少々お待ちください。失礼ですがお名前は?」

 「真島ダイキと申します」

 

 目の前にいたシスターが奥の部屋へ入っていった。

 しばらくしてさっきのシスターがもう1人シスターを連れて部屋から出てきた。


 あのシスターがアリアかな?

 

 「あの、ハルカさんからここに来るよう言われて……」


 挨拶の途中で顔を見上げるとそこには見覚えのある顔があった。


 「え!? ハルカさん!?」


 そこには格好はシスターなのだがこの世界まで案内してきたハルカさんがいたのだ。


 「あら、ハルカの知り合いということは向こうの人ですね。初めまして。私の名前はアリア。ハルカを知っているのでしたら顔だけ見て間違えるのも無理はありませんね。」


 無理もないってレベルじゃなく一緒の顔だろ。

 でも別人ってことか。

 ハルカさんは確かに俺を置いて帰っていったしな。


 「すげえ似てますね。ハルカさんに言われてアリアさんを訪ねてきたんですよ。で、こちらがここまで案内してくれたゼントさんです」

 「そうなんですね。見知らぬ人をわざわざご案内してくださるなんて優しい方ですね」


 やはり雰囲気はハルカさんとは全然違うな。

 大人っぽい雰囲気を漂わせてる。


 横にいるゼントを見るとゼントの目はハートになり、アリアさんから目を離せず固まっていた。


 あー…… 惚れた感じか、これ。


 「男として。いえ、人として困った人を放っておけない性格でして。ダイキくんが山で迷っておりましたので案内なんて当然の事をしたまでですよ」


 誰コイツ?

 ダイキ『くん』?

 わかりやすくイケメン風になったな。

 

 「見知らぬ土地に来てすぐに、こんな良い方に出会えてダイキさんは幸運ですね。ご案内ありがとうございました。よろしければゼントさんも泊まっていってください。 ご飯とお風呂ぐらいはこちらでご用意させていただきますので」

 

 帰りたくても帰れなくなりそうな空気だったので


 「いや、ゼントさんは家で部下の人たちが待ってるので教会の中にも無理を言ってーー」

 

 気を遣って帰してあげようとする俺の言葉を遮るゼント。


 「是非。教会の食事というものに前々から興味がありましてお言葉に甘えさせて頂きます」


 悪魔ごと斬ってやればよかったか、コイツ。

 さっきまで早く帰りたいって言ってたんじゃなかったのかよ。


 「まぁ、食卓を囲む人も増えて皆も喜びますわ。ではお2人ともお部屋の方にご案内致しますわ」

 「は、はい……」


 背筋の伸ばし貴族のような歩き方で部屋に向かうゼントの耳元で大きな舌打ちだけしてやった。


 「おい、アリアさんって綺麗な人だな! 俺一目で惚れちまったよ! 帰らそうとすんなよな」

 「オマエが帰りたいって言ってたんだからな! 俺はそのサポートしてやってたのに…… もう好きにしろ!」

 「へへへ……」


 歩き方は貴族だが笑い方は盗賊のような下品な笑いだ。

 ゼントとは別部屋で隣同士の部屋を案内された。


 「ではこちら客間ですので一部屋ずつお使いくださいませ。またお食事の用意ができましたらお呼びに伺います」


 一部屋ずつとはいい待遇だな。

 しばらく俺の部屋でゼントと時間を潰していた。

 

 「あぁ…… アリアさん綺麗だ。ダイキをこの世界に連れてきたハルカって人と似てるのか?」

 「似てるなんてもんじゃない。全く同じレベルだよ。今も同一人物じゃないかと思ってるからな」

 「そんなにか! てことはあんな綺麗な人がこの世界に2人も…… 信じられん」


 正確に言うと世界は違うから2人じゃないんだけどね。

 そんな修学旅行の夜みたいな話しをしていると食事の用意ができたようで俺たちを呼びにきた。

 案内されたのは長いテーブルを囲むように椅子が配置されてある食堂。

 テーブルの上にはパスタのような食べ物とパンのような食べ物が1席ずつ用意されていた。

 案内された奥から二つ目の席につき早速フォークを持ち食べようとする俺とゼント。


 「いただきます!」

 

 パンに伸ばした手を引っ込めるゼントが目に入り周囲を見渡すとシスターたちは食前の祈りを捧げていた。

 それを見ると同時にフォークを置く俺。

 隣である一番奥の席に座る年配のシスターが小さく祈り始めた。


 『天から見守られます神よ。今日も私たちに糧をお与えくださり感謝致します。どうか私たちを悪から御守りください』


 祈りが終わると各々がパンに手を伸ばしたりフォークを手に取り、ざわざわと楽しそうな雰囲気の食事が始まった。

 ゼントは前に座るアリアさんにずっと話しかけている。

 よっぽど惚れたんだろう。

 俺は食欲を満たそうとパンを食べていると先程祈りをしていた年配のシスターが話しかけてきた。


 「あちらの世界から遠いところまでようこそいらっしゃいました。初めての悪魔祓いは大変でしたでしょう」


 俺はここにきてゼントから悪魔を退治した事など話していない。

 驚いたような顔をして年配のシスターを見るとこの教会のことを説明してきた。


 「驚かせてごめんなさいね。我々シスターの中にも悪魔の気配を感じる力を持つ者もいるんです。私は祓われたあとでも悪魔が憑いていた形跡もみえます。そちらのゼントさんに憑いていた悪魔を祓われたんですね」


 どうやらこの年配のシスター含めて数人は悪魔が見える力があるようだ。

 それに人によって見える範囲が違うらしく、この人は祓われたあともわかるらしい。

 それなら俺じゃなくこの人たちに悪魔退治させればいいのに……


 「そうなんですよ! 怖すぎて動けなかったですよ! シスターたちも悪魔退治されるんですか?」

 「いいえ、我々はそちらの世界の人間に比べて力がありません。悪魔を身体から追い出すことができるだけで教会では重宝されます」

 「なるほど…… 力というのは何か特別な力ってことですか? それなら僕もないですよ」

 「特別な力もそうですが、そもそもの力が違うんです」


 悪魔以外と戦ってないからよくわからないがそんなに違うもんなのか?

 

 「あと、この教会以外ではあちらの世界から来られた事はくれぐれも内密にしておいてください」

 「やはり受け入れてくれないからですか?」

 「それもございます。当然ながらこの世界以外に世界が存在するという事を話しても誰も信じません。もし信じたとしたらそれこそ混乱を生じる事にもなります。もし悪魔憑き(デーマー)にでも知られたらダイキさんは必ず狙われる事になるでしょう」

 「絶対話しません」


 悪魔憑きのことはデーマーと呼ぶのか。

 ただでさえ悪魔退治なんてしたくないのに、向こうから狙われるなんてまっぴらだ。

 あとでゼントにも口止めしておこう。


 「しかしなぜこの教会は受け入れてくださるんです? 今までにも何人かきてるとか?」

 「はい、過去にダイキさんのような方が何名か来られてます。それにこの教会を作ったのはあちらの世界の方なので、こういったサポートをさせて頂いているのです。ですのでわからない事があればなんなりと聞いてくださいね」

 

 この世界に来てわからない事だらけだったのでサポートしてくれる存在はありがたい。


◇◆◇◆


 色々と質問をしていてわかった事は、今は主にアリアがハルカさんと連絡を取り合っているらしい。

 そして悪魔は現世とこの世界の狭間にある魔界から流れてきている。

 悪魔には下位悪魔・中位悪魔・上位悪魔と3分類され、更に上位悪魔の中でも第三階級・第二階級・第一階級と3分類される。

 ちなみにさっき戦ったゼントに憑いていた悪魔は下位悪魔らしい。

 魔界とこの世界を繋ぐゲートは言い伝えによると遥か昔この世界の男女の神が魔界に行った時に女性神だけが魔界に取り残されゲートを閉じる事ができないのだという。


◇◆◇◆


 もっと詳しく悪魔の所業を説明してくれたがグロいので割愛する。

 あぁ、食欲がなくなってきた……

 

 「先に部屋に戻って休ませていただきます……」

 「あら、顔色が悪いですね。ご自愛くださいね」


 アンタの話しのせいだよ。

 明日は上手に悪魔祓いする方法でも勉強させてもらうか。


 部屋に戻りベッドに横になる。


 ◇◆◇◆


 ギシギシ……


 ギシギシギシ……


 近くから聞こえる異音で目を覚ます。

 時計はないがまだ外は真っ暗だ。

 身体を起こし異音のする方へ耳を傾けると、どうやら隣のゼントの部屋からだ。

 もしかして悪魔を追い出した後遺症かなにかで異変が起こっているのか!?

 慌てて剣を持ち自分の部屋を飛び出てゼントの部屋に行く。


 「ゼント! 開けるぞ!」

 「え、ちょ!」


 勢いよくドアを開けたらそこにはベッドで裸で抱き合うゼントとアリアがいた。

 固まる俺を見ながら照れ笑いする2人。


 こいつら……

 人が寝てる中、心配して飛び起きたのにヨロシクやってたのか……


 心配した分、腹が立ってきたので剣を抜く仕草をするとゼントが慌てる。


 「待て待て! いきなりなんなんだよ!」

 「変な音がするから心配して飛び起きてみれば…… オマエら2人には人の眠りを妨げる悪魔が憑いてるみたいだから斬ってやるよ……」

 「落ち着け! 悪かった! 静かにするから落ち着け!」


 ギャァァァァァァーーーー


 この教会に寝泊まりしている人たちは皆、その夜に悪魔の断末魔を聞いたそうだが俺はなーんにも知らない。

 

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