表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年少女遊戯  作者: あーの
7/14

平常のような異常少年と異常のような平常少女

全く……キミの現実主義には辟易してしまうよ

もう少し人並みに夢を持って生きるということはできないのかい?

世界は自分を中心に廻っているといっても過言ではないと、そう私は思っているんだがね



深い紫色をした髪を束ね、クリップで留めながら彼女は突然僕に話題を振る。

その言葉はあまりに自然に発せられたので違和感を持たなかったが、今この状況にはあまりにもそぐわない話題だった。

目の前では大勢の人が家庭科室を囲って所謂料理バトルをしている二人を応援している。

木を隠すなら森の中とでも言うかの如く、人混みの中でさも他人のような顔をしながら僕達は会話していた。



それはそれは、とても頭が楽しそうで良い考え方だと思いますよ

しかしそれはあくまで貴女の勝手な妄想ですよね

なぜなら世界は何が起きても変わらず廻り続けるんですから

でも貴女がそんなに自己顕示欲の強い人間だとは思っていませんでした

寧ろそういうものには興味がないのかと思っていましたけど


私だって人間だからね、自己顕示欲も自己承認欲求だって大いにあるさ

人間は己の存在価値を常に求めながら生きていくものだ

人間というものは進化の過程で色々なものを失い手に入れた――そうして世界で最も美しく醜い生き物になったのだよ

キミは人間が嫌いかい?


別に嫌いではありませんよ、興味はないですけれど

それに人間を否定するということは今の自分をも否定することになりかねないですから

――ああ、でもこの自己否定を避けたいことも承認欲求のひとつなのかもしれないですね

というか何度このくだりするんですか


ははは、バレてしまったね!

いつかキミから人間に興味があるという言葉を引き出したいのだけど難しいものだ

まあ今回はキミから些細な矛盾を引き出すことが出来て満足だよ

大分人間らしさを手に入れられたじゃあないか


僕はちゃんと、ずっと、変わらぬ普通の人間ですよ

こんなところであらぬ誤解を生むような発言は控えてください

いくら周りが若菜達に気を取られているとはいえここでは誰が何を聞いているやら


いやはやすまない、今後気を付けよう

それにしても何の話をしていたんだったかな――そうそう、世界の中心は自分にあるという話だ

キミと話していると盛り上がってしまってつい主題を忘れてしまうよ


盛り上がっている?――暴走しているの間違いでは?

全く、妄言もほどほどにしないと現実に戻れなくなりますよ……ああ手遅れか

ええと――世界の話でしたね、世界は自分のためにある

僕ら人間はとてもちっぽけでいくらでも代替が可能な生き物にすぎません

そんな些末な生き物の、更に一個体が世界の中心だなんて――なんと傲慢な


ふむ……人間は代替可能な生き物、か

格言のようで確言のようなことを言うんだね、でも確かにそうかもしれないな

もしかしたら今私とこの話をしなくても、キミは在場さんや誠來さんとこの話をしたのかもしれない


もしかしたら貴女の興味の対象が僕ではなく若菜や藤波くんだったのかもしれません

まあ僕個人としてはそうであったほうがどれだけ良かったことか

本当にあれは過去最大の失敗でしたよ

僕はあの時軽率な行動は時に身を亡ぼすと教訓として心に深く刻みつけました


そうかそうか、しかし私にとってそれは多大なる幸運だったことを伝えておくよ!

私にとって親しくなりたいのは若菜くんでも藤波くんでもなく、そんなキミなのだから

だからそうだね――私にとってキミは代替不可能な存在なのだよきっと


ああそうですか、ちっとも嬉しくありませんね

僕にとって貴女は代替するどころか寧ろいなくなってくれた方が嬉しい存在ですよ

実際軽い足枷のようなものですからね、貴女の存在は

……なんですかその顔は、この発言を受けてのその笑顔なら貴女は大分おかしいですよ


相も変わらず冷たい発言だなキミは

しかし私がキミの足枷になっているなんてとても素敵な話じゃあないか

キミは全否定しようとしているようだが私はキミにとっての代替不可能な存在となっているのだろう?

喜びで舞い踊りそうだよ


そういう受け取り方をされてしまいましたか……失敗した

貴女はどんな言葉も無駄にポジティブに受け取りますからね

その変換能力をもっと良い方向に使ってくれればいいんですけれど

――まあそんなたらればの話は無駄でしたね


そうそう無駄さ、私は私の好きなように生きるのだからね

――いやはや話に花が咲いているうちに二人の勝負が終わったようだ

クッキーのとても香ばしい匂いがここまで漂ってくるよ

確か若菜くんの料理は絶品だとキミは言っていたね、勿論スイーツも

さあ私達も早速ご相伴に与ろうではないか!


貴女わざわざそのためにこんなところまで来たんですか

周りに人達にいい迷惑ですよ、みんな貴女と関わり合いたくないんですから

だから僕だって他の人にバレないよう貴女とこうやって関わっているんで……って、腕を掴むのを止めてください

袖を引っ張るのも止めてください


この際バレてしまうといいじゃないか、私としてはそちらの方が楽だしね

丁度キミの偉大さをもっと周りに知らしめるべきだと思っていたところなのさ

何をそんなに心配して――ああ、そうか、安心したまえ

私がキミに一途なところを見せれば周りの見る目も変わるさ

それにキミはそれくらいで周りに嫌われるような立ち位置の人間ではなかろうに


そんなことを、心配してるんじゃ、ありません!

僕は目立ちすぎず目立たなすぎず、ただこの生徒という群衆の一としてあと二年を過ごすつもりなんです

いくら貴女であろうともそれを邪魔する権利はないはずでしょう


そんな詰まらないことを言うものではない、人間は色々な可能性を持っているのさ

それを皆に理解してもらおうという私の心意気じゃあないか!

さあサクサク進もうきびきび進もう

キミに拒否権というものは存在していないのだよ


だから嫌です、やめてくださいと、言ってるじゃないですか!

貴女どこからこの力出してるんですか、普段こんなに力ないでしょう

いい加減にしないと貴女といえど関係なく吹っ飛ばしますよ!



キミにそんなことできるわけがない、と確信めいた意地の悪い笑みを浮かべて彼女は僕の腕を引いていく。

彼女の接近を見た生徒達は彼女と共にいる僕を見て驚いたような顔をして、しかし声を掛けることもなく道を譲る。

やっと立ち止まって見上げた先には驚いたような、困惑したような同級生二人の顔があった。

真如理と夙志願による会話

「代替不可能な物語」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ