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少年少女遊戯  作者: あーの
5/14

平常のような異常少年と有能のような無能少女

放課後、僕は図書室にいた。

いつもならいる図書委員も今日は何故かおらず、ここには僕と彼女のふたりだけでとても静かだ。

前に座る年齢にそぐわない矮躯の少女はノートを優雅に広げてゆっくりとページをめくっている。

しばらくその内容に目を走らせたかと思うとぴくりとその可愛らしい顔を不快に歪ませた。



これ――この内容は一体どういうことか説明願いますわ

内容を読む限りですとわたくしが死んでいるように思えるのですけれど?

とうとう貴方の殺人小説に現実の人間が登場してしまったかと思うと悲しい限りですわ


殺人小説なんて人聞き悪い、毎回こんな内容じゃないだろ?

偶然思いついたから偶発的に会った知り合いを登場させたらこうなっちゃっただけで

実際在場と藤波くんが会って話して校内を歩き回ったところまでは本当の話だぜ

最後は君が死なずに在場が先生に捕まって別れたっていうのがその時だけど


そこは別にただあの二人がお話ししていただけですもの、大した問題ではありませんわ

わたくしが何故そこで死ななければならなかったのかということが問題ですの

しかもそれを本人に見せるだなんて……大した度胸ですとお褒め差し上げますわ

まさかこれを読ませるためにお呼びたてなさったのかしら?


それはマジでごめん、悪かったよ

いつも読んでもらってる君を出すのはどうかとも本当は少し考えたんだけどね

このメンツで一番出てくるのが自然なのは藤波くんの幼馴染である君くらいだったからさ

他に共通点あるやつなんていないだろ?


共通点だけで言えばそうかもしれませんわね

というより根本的にこのような内容が多いことが一番の問題でしてよ!

この精神も肉体も健全であるべき学生がこのような不健全な内容を書くなんて教育者達が泣きますわ


あはは、相変わらず厳しいなあ

まあでも毎回書いてるこれは僕の趣味というより人からのリクエストだからね

相手が大まかなテーマを決めて持ってくるからこの内容はそっちの好みだよ


こんなものをリクエストするなんて相手の方はよっぽど歪んだ精神をお持ちですのね

そうでなければこのようなものを希望するなんてありえませんわ

ちなみにどなたか伺ってもよろしいのかしら?


そこまで言われてるのに相手を言うわけにもいかないだろ

一応守秘義務があるのでと言っとこうかな、そんなのあってないようなもんだけど

で本題だけどこれの感想ってもらえないかな?

思ったことをとにかく言ってくれたらいいからさ


駄目駄目ですわ、どの駄作以上にも駄作ですわ

この世から出来るだけ早く抹消したほうがいいほどの駄作ですわ

見た方の目が腐り落ちてしまいそうなほどの駄作ですわ

今すぐそれを破り捨てたほうがよろしくてよ


……酷評がすごいな!あまりの酷評に心が折れそうだよ!

正直内容と人選に色々と言われることは予想してたけどここまで言われるとは予想の範囲外だったな

ここまで言われると仕方ないからこれは棄ててしまうとしようか

次はいつも通りオリジナルの登場人物で書くようにするよ


それがこの問題を解決するのに一番適切な方法ですわね

最もわたくしに見せる前にご自身でお気付きになられるのが一番でしたでしょうけれど

まあそこまでは求めませんわ――貴方にそれを望むのは酷ですものね


いや本当に……有り得ねえくらい辛辣だな……

まあこればっかりは勝手に殺した上にそれを読ませた僕のほうに非があるんだけど

この話続けたら僕にいいこと何もないな、折角だし何か違う話をしよう

そうだな何か――ああそうだ、これはこないだ話題になったことなんだけどな

”悪は善のことを知っているが、善は悪のことを知らない”って言葉知ってるか?


ええ勿論知っていますわ、フランツ・カフカの言葉だったかしら

それがどうかしましたの?


へえ流石は誠來、何でも知ってるなあ

これは本当に思い付きの話題だからどうでもいい話だし、どうにでもなる話なんだけど

この言葉、根源には孟子の性善説があるとは思わないか?


まあそれは分からなくもないお話ですわね

善がはじめに存在することが前提の言葉に聞こえますもの

そうね何と言えば――ああ 善が変化して悪となるから善は悪のことを知らない、とでも言えばいいのかしら

性悪説なら逆になってしまいますものね


僕も似たような意見なんだ

けど知り合いの捻くれ者は全く逆のことを言うんだよな

「善を作り出したのは悪で、だから作り出された善は悪のことを知らないのさ」なんて――とんだ戯言だよ


物の捉えようですもの、それも間違っていませんわ

人によって同じ言葉でも受け取り方が違うという良い例ですわね

どの考え方が正解でどの考え方が間違っているなんていうことはありませんもの

貴方とわたくしでも色々と違うことは先程充分お分かりになったでしょう?


それはその通りで……誠來には本当に頭が上がらないな

流石はうちの学年で一番頭が良くて何でもできる超万能少女なだけあるよ

僕だったらあんな意見すぐに切り捨てて言い合いになるけどちゃんと考えて中立を保とうとするなんて


それは事なかれ主義だとでも言いたそうなニュアンスですわね

まあいいですわ、聞き流してあげます

わたくしちゃんと学んでますもの、知識としては何でも知っているつもりですわよ

でも個々人の感情や考えまではわかりませんもの――だから分かり合うための話し合いが大切ですのよ


まあそれもそうなんだけどね

で?その何でもできる誠來さんはまだ家事が全くできないの?

あの君が家庭科の時間中だけはいっつもボロボロだもんな

まあでも人間欠点のひとつでもあったほうが可愛いんじゃないか?


あらそれはわたくしのことを可愛いと言ってくださっているのかしら?

それとも可愛くないとおっしゃっているのかしら

でも欠点が欠点ですもの、女としては致命的だとお母様にもよく言われますし――駄目ですわね


あー確かに家事ができない女の子っていうと少しイメージ良くない人もいるよな

でも誠來は仕事をちゃんとしてそうだから別にいいんじゃないか?

家事は女の仕事っていうのは一番典型的な男尊女卑だろ

別に今時男が家事をしても、夫婦で分担してもおかしくないんだし


……まあそうですわよね、誤った発言をしましたわごめんあそばせ

それにしてもだらだらと本当に無為な会話を続けようとされますのね

わたくしで暇を潰そうだなんていい度胸ですわ

気が付かないとでもお思いで?


あーバレたか、流石よく分かったな

実はこの後約束があるんだけどまだまだ時間があってさ

暇で暇でしにそうだったから丁度いいし声かけたんだ

そっちも暇かなと思ってね


ええまあ――暇と言えば、そう暇ですわね

わたくし塾や部活動に時間を割く気なんてございませんもの

しかし今日は少し、やりたいことがありましたのよ

貴方の駄作のおかげで貴重な時間が削れてしまいましたわ


ああうん 知ってる知ってる、また勝負申し込んだんだって?

今回は何だっけ、料理勝負って言ってたかな

僕らの学年では有名だからねこのイベン……勝負は

明日は何を作るかもう決まってるの?


それが分かっててお誘いなさるなんてなんて意地の悪い……!

嫌がらせでも兼ねているのかしら

まあこの程度で支障をきたすわたくしではこざいませんけれど少々不快ですわ


悪意があって誘ったわけではないから許してくれよ

君の意見が一番忌憚なくて重宝しているし変に言いふらしたりしないからさ

信頼して選んでると捉えてほしいな

暇つぶしに付き合ってもらって悪かった――明日は勝てるよう精一杯応援しているよ


そのやる気のない声援に感謝申し上げますわ

まあ貴方のこの暇つぶしも少しは気持ちを落ち着けるには丁度いいですもの

文章の内容はともかく今後も誘ってくださってもよろしくてよ


そっか ありがとう、今後もよろしく頼むよ

じゃあ呼び出して悪かったけど僕はもう行くから君も頑張ってね

じゃあな、誠來


ええ また明日お会いいたしましょう



彼女は僕が帰るというタイミングで同じように席を立ち、にこりと笑って僕とは反対方向に歩みだした。

これから彼女は帰って今の優雅さとは真逆の姿を見せるのだろう。

彼女がとても努力家だということは同級生の誰もが知っていることだ。

彼女の軽くウェーブされた髪が歩みに合わせてふわふわと揺れている。



真如理と誠來りあによる会話

「殺人小説作家」


有能と無能の定義には語弊があります

ここでは有能(勉強ができる)、無能(生活能力がある)ですので注意

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