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少年少女遊戯  作者: あーの
4/14

幸運のような不運少女と不運のような幸運少年

図書室に入るとそこには男の子ひとりしかいなかった。

今日は普通の平日だから放課後には様々な目的の生徒がこの静かであるべき空間を賑わせているはずなのに。

いつもならカウンターに座っている先生も今日は不在で、静けさがまるで世界に二人しかいないような錯覚すら感じさせた。

座っている少年のことは知っている。

私は目的の本を棚から取り出すと貸し出し処理を済ませてから彼の前の席に座った。



……なんだよ、俺に何か用でもあるのかよ

全然席は埋まってねえんだから他のとこに座ればいいだろ

迷惑だから失せろよ


えーそんな悲しいこと言わないでよう!

誰もいないからこそ一緒に座るんだよ、だって一人だと寂しいもんね

それよりねえねえ何読んでるのかな?

なんだかとても難しそう!


俺は寂しくなんかねえから離れろよ、うぜえな

あんたこそ不思議の国のアリスの――それ原文ままか?

そっちの方が大分難しいじゃねえか

俺のは日本訳の小説だからお前の読んでるのより全然簡単だろ


んっふ、みいはこれでも勉強できるのでので!

日本語訳された小説だと表現変わってるところもあるから原文のまま読むのも楽しいよお

今度会うときには家にあるおすすめ持ってきてあげるね!

楽しみにしてて!


いやいらねえし、ていうか次なんてねえし

俺は今一人で静かに本読んでるんだよ――この意味がわかるか?

わかるならさっさと荷物まとめて違う席に行け

それかお前が動かないなら俺が出ていく


ふえー!?やだやだ!

だって折角誰もいないんだよ!?先生すらいないんだよ!?

なんてふりーだむ……!

図書室でおしゃべりするなんてすりりんぐなこと滅多に出来ないんだからあ!


あーあーわかった、お前が動く気ないことはよーくわかった

じゃあ俺が出てくからお前は思う存分一人悲しく喋っとけ

――って付いてくるな!

わざわざ付いてくる必要性なんてねえだろ、俺は一人がいいんだ!


えーそんなのつまんないよう、一人より二人の方が絶対楽しいよ

だから一緒にお話ししよ!

そういえばこの前文化祭だったでしょそれでね――って 聞 い て よー!

もおそんなんじゃ本の寄生虫になっちゃうんだからね!


本の寄生虫!?なんだそれ気持ち悪くなってんじゃねえか!

さっき頭良いとか自分で言ってたけどお前ただの馬鹿だろ

にこにこ笑ってんじゃねえ……だあ!もう!マジ付いて来るんじゃねえよ!


だあってえ――まさかちゃんと突っ込んでくれるなんて

そんな怒らないでよう、ちょっとしたおちゃめじゃなんだからあ

ほらほら、ね?可愛いでしょ?

……ったー!叩かないでよう!暴力反対!

これがどめすてぃっくばいおれんすっていうのねっ!


何が家庭内暴力だ、これは煽ってくるお前への正当防衛だわ

てめえマジでいい加減にしろよ、俺の噂聞いたことねえのか?

それともお前も興味本位でってか?

なら本当に知らねえぞ、何かあって傷つくのはお前の方だからな


あっは、みいの心配してくれてるの?優しいねえ

噂は勿論知ってるよ、いろいろたくさん聞くけど散乱しててもう真偽がわからないよね

でもカザくんと関わって人間関係壊れてるのは確実みたいだから大変だあ!

だけどみいは大丈夫――なんてったってラッキーガールだしそんなの全部吹き飛ばしちゃう!


……うるせえなお前のこと心配して言ってるわけじゃねえよ

ラッキーガールだか何だか知らねえけど、俺はお前がどうなっても責任負わねえぞ

それでもいいなら好きに喋ってればいいさ

勿論俺は聞く気ねえからお前一人でだけどな


もおそんなこと言わないの、あからさまに嫌な顔もしない!

お話は楽しいよお――ってねえ見て見て、あそこ!

なんかすっごい人が集まってるよ、有名人でも来てるのかなあ?

折角だし行ってみよっか!


嫌に決まってんだろ、俺には関係ねえし

……そんな期待に満ちた目で見ても俺の返事は変わらないぞ

だから嫌だって、勝手に行けって、離せ、やめ――ああもう!わかった!行けばいいんだろ行けば!


うふふやったあ!

さっすが気宇壮大で豪放磊落なカザくんですな!好き!

あーあー行くのはね、そっちじゃなくてあっち!ちょっと遠回りしよ

大丈夫、人だかりもそう簡単になくならないと思うしお話しながら歩こ

安心してこのおねいさんについていらっしゃい!


いやこんな安心できないお姉さんもそうそういねえからな?

俺は面倒事をさっさと終わらせて読書に勤しみたいんだよ

だからこっちの最短ルートで行く

引っ張っても力で勝てると思うなよ、すぐにやること終わらせて俺を解放しろ


だって……だってそれじゃあお話しする時間がなくなっちゃう……!

折角お話しする機会が出来たのにまだ全然話してない!

やだー!あっちから行くのー!うわーんひどいよおー!

ひゃん――痛いっ!また叩いたなっ!


年甲斐もない言動はやめろ、その上履き俺より年上だろうが全く

うちの幼馴染はもっと落ち着いてるのになんでこう――って俺は育児に悩む母親か!

くっそ今までにないくらい変な奴に絡まれちまった……

マジで早く終わらせるぞ、おらおらとっとと歩けきびきび歩け


むあー手痛いよ、ぐいぐいぐいぐい引っ張るんだもん!

女の子の肌はやわやわなんだよ、繊細な硝子細工のように扱って!

ほらあ赤くなっちゃった!

責任もって今日はみいに付き合ってもらっちゃうんだからね、うふふ


ほっ……ほんっとお前……嫌な……嫌な責め方するよな……!

楽しそうで何よりだよ――ある意味尊敬もんだわ

引っ張ったのは悪かったけど……自業自得だろそれ

だからやっぱり遠回りはしないし最後まで付き合う理由には――理由にはならねえよ


あっはそこでちょっと悩むあたり優しいよねえ、カザくんは

まあ赤くなった痕もすぐ消えるくらいだから、ちゃあんと気を付けて掴んでることくらいわかってるよお

でもまさかこんなにお話してくれるとは思わなかったや

こうしてお友達になれただけ進歩進歩なんだよねっ!

――あ、見えてきた!


こうしてお友達になった覚えはないんだよなあ……

やっとこれで解放されるのか……なんかここまですげえ遠かった気がする

まあそれもこれも全部お前の所為なんだけど――って聞いてねえし

おいどうした?そんなカエルみたいに跳ねて……はあん、背ぇ届かないんだろ


ちょっとカエルって……もっと可愛く!そうウサギさんとかにしてよう!

ずっと意地悪みたいに言う、みい虐めてそんな楽しいのカザくん!

それにみいの身長は平均くらいだもん

男の子がみんなおっきすぎるんだよう!


またそうやって誤解を招く言い方する――ん?

そういやお前ずっと当然のように名前呼んでたよな

今まで名前までは知られてなかったのに……ついにそこまで広まったのか?

お前もしや俺のストーカーじゃねえだろうな?


はう!とうとうカザくんが反撃し始めたんだね!

名前までは広まってないけどみいは友達からカザくんのことは聞いててね

ずっとお話してみたいなあって思って……て……ぅあ……え、


おい――おい、どうした?顔真っ青だぞ

あ?人混み?あの中に何があるってんだ……よ……



それを遠巻きに囲う生徒達はみんな恐怖と悲しみと興味に支配されていた。

直視した俺もその現実に耐えられず言葉を失いその場から動けなくなるほどの衝撃に襲われる。

そこにはいつも自信にきらめいていた瞳を濁らせ、セーラー服を自身の血で真っ赤に染め上げた俺の幼馴染が倒れていた。


在場みいと藤波風による会話

「偶然か必然か」

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