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少年少女遊戯  作者: あーの
3/14

平常のような異常少年と異常のような平常少女

メッセージに記された部屋のなかからは物音ひとつしない。

こんなにも騒がしいこの文化祭の学校にもここまで静かな場所があるのか。

これが彼女からの呼び出しでなかったら嬉しい発見に飛び上がって喜んだのに、と溜息が漏れる。

呼び出した本人がいない素敵な空間から外界の喧噪を見下ろす。

物思いに耽っているといきなり背中に衝撃を感じて顔だけ振り向く――なんてデジャビュ。

ただ前と違うのは後ろにあった笑顔が弾ける快活な笑顔ではなく、にやりと意地の悪そうな笑顔だということだ。



ぐっいーぶにん、ことくん!

いつも通りの素敵で揺らぐことのない無表情だね、そんな淡白な姿も私は大好きだよ

朝の在場さんに対してはあんなに笑顔で接していたというのに

……もしかしてテンションの上げ具合が足りていなかったのかい?


どういう問題ですか違いますよ、相手が貴女だからです

あれらは兎も角、貴女相手にわざわざ笑顔を振りまく必要性なんて全くと言っていいほどありませんからね

それともあちらの方がお好みでしたら今後一貫しますが


いやそこまでしてくれなくて結構

ただ私ではあれをお目にかかることが滅多にできないからね、たまには見てみたいと思ったのさ

まあ自然にあの笑顔を出させることが出来ればなお上々だったんだがね

流石に私には荷が重かったようだ


まあそうでしょうね、自然な笑顔なんて僕自身もしばらく見ていませんよ

そもそも本題は何ですか、どうせくだらないことなのでしょうけど

この呼び出しのおかげで先日のあのケーキセット、在場に奢らなければならなくなったんですよ

そういえばあれ持ち帰りOKだと聞きましたよ、貴女の甘いものに対する胃袋は底なしですね


私は甘いものを際限なく愛することができるんだよ

それこそキミの次くらいに愛しているのさ

――ちょっとした冗談じゃないか、そんな怖い顔で睨まないでくれたまえ

そうそう本題だったね、ちゃんと話すよ


本当にそうしてくださると僕も助かりますのですが

貴女は本当に話を長引かせるのがお好きですからね

放っておいたらいつまでも違う話ばかり――僕とお話しするのが好きなのはよくわかりました

でも残念ながら僕は貴女と関わらなくても良いならそれが一番なのですよ


ああなんてこと――そんな悲しいことを言わないでくれ!

……なんて、そんな悲劇のヒロインのように縋り付く真似が出来たらよかったんだけどね

関わりたくなくても関わらなければならない、そんな嫌そうなキミを見ているのも大好きなのさ

とまあ茶番はここまでにして本題に入ろうか

実はキミにお願いしたいことがあるんだけど、頼まれてくれるかい?


お願い?それはまた嫌な物言いですね

今まで貴女がお誘いではなくお願いという場合に碌な内容はなかったと思うのですが

前のお願いはなんでしたっけ――ああ、そうそう

少し知りたいことがあるから職員室のデータを盗んできてほしい、でしたっけ


ふむそうだね、そのようなこともあったかな

そういえばあの時のキミの断りっぷりも一刀両断だったなあ

ふざけないでください僕を犯罪に巻き込むのは止めてくださいどうせまた人を奪う算段に使うんでしょう――なんてノンブレスで言いながら立ち去って行ったよね

だけどその後ちゃんと持ってきてくれたじゃないか


何度でも言いますがあれは不可抗力ですけどね

しかもあの反応は一般的な人間には当たり前、至極当然であるからしてそんな不満そうに言われるような内容ではなかったはずですが

貴女のようなろくでなしと真面目で模範的な僕を一緒にしないでほしいところですね

大体貴女はいつも好き勝手言いすぎです、子どもですか


それは違うよ、こんな子どもがいたら憎たらしいとは思わないかい?

子どもとは何を言っても可愛らしいものさ

私自身そのような可愛さを持ち合わせていないことは自覚しているからね

更に言うと今回のお願いは今までに比べてまともな方だと思うぞ

なぜなら今日のお願いは文化祭を一緒に回ってほしいというものだからね


とても意外な内容ですね、貴女がたかが学校行事に興味を持つなんて

まあでも確かに貴女の好きなカップル達はその辺に沸いていますからね

次の獲物探しでもするのですか?

しかし僕は貴女と並んでいるところを見られたくないのですが


失礼な物言いだね、私は毎回好きになった人にアプローチしているだけじゃあないか

――だたそれが人のものなだけで。ただそれが自分のものになると途端に魅力を失うだけで

まあキミの嫌がる気持ちはわからないが――言いたいことはわかるよ

だから一緒に歩いてくれとは言わないさ、ただ私が行くと買いたいものも買えないからね

一緒に回る、というより買ってきてほしいそして一緒に食べようというお誘いさ


食べよう、ということは何か目的のスイーツが売り出されているんですね

僕は行かなくていいならできればこの喧騒からは離れていたかったんですけれど……仕方ない

ただ僕、自分で言うのもなんですけど大分中心核的キャラクターを演じているので人に捕まること多いと思いますよ

戻るのが遅くなるであろうことを了承してくださいね


大丈夫、それくらい分かったうえでお願いしているさ

しかしキミも人のことがあまり好きでないと思っていたけれど、なんであんなキャラクターにしたんだい?

まあ色々と都合がいいことはわかるけれど

――いやこれも私には無関係なことだったかな


別に構いませんよ、それくらい

まあそうですね、人が好きか問われたらそれは違うと言わざるを得ませんね

しかし嫌いでもないですよ――そう簡単に言えば無関心、興味がないというのが一番正しい表現です

だから生活的にメリットの多いように多いようにとしていたら今となってはこうですよ


全くキミらしい答えだね!

好きでも嫌いでもなく無関心――キミらしさをふんだんにあしらっている言葉だ!

まあそれなら時間がかかっては美味しくなくなる甘味は後半になるようにしようね

見てくれ、キミに説明するためだけにちゃんと文化祭のパンフレットもちゃんと入手してきたのだよ


既に何か所に丸が書かれているんですか

そんなに沢山……いい加減に控えないと将来糖尿病になりますよ

僕が普段付き合っているだけでも相当数を食べているじゃあありませんか

大体毎回僕を誘っているようですけど僕は甘いものがそれほど好きなわけでもないのですが

それに今は一介の高校生なのでお金だって際限があります


それはそれは仕方ないね

でも大丈夫だ、ちゃんと他の食事があるところを今後も選ぶしお金も私が払おう

それなら問題は何もなくなっただろう?

これで何もかも余すことなく解決だ、大団円大団円


はあ……貴女は何故そんなに勝手なんでしょうね

こちらも馬鹿でも学習する回数このやり取りをしていますし、わかりきっていたことですけど

――夙志さん、いい加減希望の場所書き終わりましたか?

面倒なことは早く終わらせてしまいたいんです、さっさとしてください


キミも大概自分勝手に動く性質だと思うけどね

私は優しいから黙っていてあげよう

――待たせてすまなかったね、じゃあまずは焼き菓子系からよろしく頼むよ



スイーツを待ちわびる彼女を置いて僕は穏やかなのに不快だった教室を後にする。

少し離れるとそこはまた今までいた場所とは別世界であるかのように騒がしい。

歩きながら渡されたパンフレットの中身を一通り確認し、彼女の指定したルートを歩き出した。

真如理と夙志願による会話

「文化祭当日昼」

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