平常のような異常少年と弱気のような強気少年と悪人のような善人少年
よお理 遅かったじゃねえか、オレを待たせるなんていい度胸だな
おい夢永もなんか言ってやれよ、お前もう30分以上待ちっぱなしだろ
先輩として言わなきゃならないときははっきり言わねえと舐められっぞ
ええ……俺は大丈夫だよ、勝手に早く来て待ってただけだし……
理くんいつもは遅れてこないしきっと何かあったんだよ
――ね? ほら だからそんな怒らなくても……ああ そんなことしなくても理くんはそんなことしないよ……!
小さくて可愛らしい顔をした男に詰められている僕を庇う体躯の大きな目つきの悪い男。
周りの反応を見るにひたき、夢永さん、僕と並ぶこの様子は少々――いや大きく誤解されているのがわかる。
この図がどうやら周りには夢永さんに絡まれている僕を助けようとするひたき、という図に見えるらしい。
見た目で人は損をするものだと思いながら誤解を解くべくできるだけ普通に、しかし周りに聞こえる程度の声で話し始める。
いやあごめんなさい! 電車ひとつ逃して遅れちゃったんですよ!
連絡入れとけばよかったですよね、ほんとすみません!
あとでちゃんと埋め合わせするんでとりあえず予定してたとこ行きましょうよ、時間も時間だし!
時間も時間にしたのはお前だろうが!
でも確かにこんなとこで時間潰すのはもったいないしな……ま、行くか
代わりにメシひとつ奢りだからな! 夢永も何頼むか考えとけ
おいその顔……今日はこいつ友達って立場だからそんな遠慮なんてしなくったっていいだろ
だって友達っていっても後輩でしょ、やっぱり先輩なら奢るくらいじゃないと……
悪気があったことでもないし……理くん、ひたきの言うことは気にしなくていいからね
今日はひたきに酷いこと言われても俺が味方だから、――役に立てるかはわからないけど
いいぞ言ってやってください夢永さん、ひたきはいつも僕に横暴なんですよね
でも夢永さんも優しすぎますよ、だから逆に誤解を生んでいくんです
もうちょっと見た目に違わぬ横暴さというか、理不尽さ? 出していってもいいと思います
ていうか人通り減ったけどこれ本当に道合ってる?
合ってる合ってる、ここ実は近道なんだよなあ――ほら、あれだろ?
こんな店よく知ってたよなあ、普段こんなとこまでわざわざ来ること滅多にないじゃん
オレはさ 性格バレめんどくさくてこっちまでバイト来てたから分かっけど、お前わざわざこんなとこ来る用事なくね?
つかお前相変わらず見た目と合わねー趣味してるよなあ
俺だって好きでこんな外見じゃないよお、むしろひたきみたいだったら良かったのに……
そしたら甘いもの好きでも可愛いもの好きでも納得してもらえるのになあ
お父さんとか周りの兄さん達もこっちのが似合うって良かれと思って言ってくれてるから断れないしさ
いっそ女の子に生まれたかったよお
そういや夢永さんって何で可愛いもの好きになったんですか?
こう言っちゃ悪いですけど写真見た感じ昔からそんな感じじゃなかったですよね
まあ家柄もあるんでしょうけど……正直僕も最初びっくりしましたもん
あー良く言われるかも、でも何で……うーん……なんだろう、あえて言うならお母さんの影響かな?
ほらうち周りが男ばっかでしょ、だからお母さん昔は自分の用事によく俺を連れて行ってたんだよね
お母さんスイーツとか好きだけど、付き合えそうな見た目してるの子どもの俺だけだったから
まあ お父さんは誘ってもらえなくてめっちゃ落ち込んでたけどね!
父親に対しては突然辛辣になるの何回見ても面白いですよね
まあでも確かに、お会いしたことある家族さんみんなスイーツより肉って感じの見た目してましたもん
そりゃあ可愛いカフェに入った時点でもう存在が営業妨害みたいになりますよねあれじゃ
もしくは場所代取り立てに来てるヤクザ
言いえて妙すぎだろそれ
あ、3人ですありがとうございまーす
お前も気をつけろよ、来る相手によっちゃ親父さんとおんなじ状況なるからな
さっきのおねーさんもこんなヤバそうな人が何でこんな店に?って顔してたぜ
あ~もうあるあるだそれ
そう あとこれももういつもなんだけど、ひたきと来ると注文したもの絶対全部逆に置かれるんだよね
でもさ こういう店来たときにひたきと友達でよかったっていつも思うよ
俺見て一回ん?って顔した後に、絶対ひたきのほう見てああ~って納得してくれるから
んあ? それオレと友達でよかったって思うのそん時だけってことかあ?
この学校一人気者のボクと友達でいれることに感謝しろよお前、自慢案件だぞ
おいコラ理、お前もだぞボクの従弟であること自慢に思えよ
ありがとうと素直に喜ぶ夢永さんを横目に、相変わらず自己肯定感の高い救いようのない人だと心の中で独り言つ。
みんなが彼のように自己を受け入れ前向きに過ごせるのなら、きっと神様はいらないのだろう。
強要される感謝の言葉に薄い笑顔でありがとうと返事をすると、今度は頭に殴られる。
店員が食事を持ってくるまで続けられたこの戦いは、結局ひたきの勝利で幕が閉じられたのだった。
真如理と譲来ひたきと極野夢永による会話
「数少ない友人と」




