表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年少女遊戯  作者: あーの
13/14

異常のような平常少女と善人のような悪人少女

おや 今日はどうやら体調が良いようだね、母さんに良い報告ができるよ

最近はどうだい? 例の彼とは上手くやっていけそうなのかい?

なにせ学校に通えていない状況で進展も何もないかもしれないけどね

でもキミのことだ、どうせ何かしているんだろう?



荷物が溢れた生活感のある真っ白い部屋に横たわる彼女は、私の訪問に気付くとにっこり笑って起き上がった。

大きく伸びをする彼女はいつもより顔色が良く、テーブルに置かれた昼食も半分くらい食べられている。

残った食事の乗ったトレイを返して部屋に戻るとお礼を言って彼女は戸棚からお菓子とペットボトルの紅茶を取り出した。

私は従姉である彼女――和をもう何年もベッドの上にいる姿しか見ていない。



いらっしゃい、今日はとても調子がいいの 願ちゃんの顔が見れたから余計かもね

確かにもう3年くらいは病院か家のベッドかのほぼ2択だから……でも ふふ そうね 上手くいってるわ

彼ね、学校で周りの人との関係が上手くいってないみたいなの

相談が来るんだけど、私もアドバイスしてて彼も頑張って修復しようとしてたんだけどなかなか根が深いみたい


そういえば中学もそれで転校してしまったんだったね

環境が変わってもなお上手くいかないとなると相当人間関係が苦手なようだ

なんだか私と似ていて仲良くなれそうじゃあないかい?

キミの想い人を探すのもこれまた楽しそうだしね……ああ そう怖い顔をしないでくれよ


えっ そんな怖い顔していたかしら、恥ずかしいわ

でも願ちゃんもいけないのよ、私の好きな人にまで手を出そうとするから

あなたの好みはわかってるから私も誰だかは言ってないの

それくらいわかってるんでしょう?


もちろんわかってはいるけどね

キミが動揺することってあんまりないじゃないか、面白くてついね

まあでも私も今は理くんに夢中だから他の人に手を出す気はないし、そこは安心してくれて構わないよ


そう 理くん、願ちゃんが珍しく追いかけてる好きな人よね?

どうなの、進展はないの? とても明るくて社交性がある素敵な彼だって聞いたわ

ああ 聞いたのはりあちゃんからなんだけどね

彼女はちょっと天邪鬼さんだから、直接的にこう言ったわけじゃないんだけど……まあ意訳するとそう言ってたわ


ははっ 確かにあの誠來さんがストレートに彼を褒めるイメージはないね

理くんはね、人気者になろうとしてはいるけれど隠しきれない水底のような仄暗さが滲み出てるんだ

聡い人間にはそりゃあバレてしまうに決まってるじゃないか、ねえ?

けどそれを彼自身はバレてないと思ってるんだよ、まあ そんなところも可愛いんだけれど


こんなにベタ惚れな願ちゃん本当に初めてだわ!

好きな人の条件すらも変えてしまうような素敵な人に会えて本当によかったわね

よく2人でお出かけとかもするの?


もちろんだよ、ちなみに今日持ってきたこれ――今出すのかという感じだけれど

このお菓子はこの間理くんとデートしたときに買ってきたんだよ

チョコだから重たいかと思いきやオレンジソースがさっぱりしていて、キミでも食べやすいと思ってね


こんな美味しそうな焼き菓子久しぶり!

お母さんはこういうの身体に良くないからってあんまり持ってきてくれないの

でもデートに行く仲なんだったら結構親密なのね

申し訳ないけど前言ってた感じだともっと距離があるのかと思ってたから……


まさか 私と理くんに距離なんてあるわけないじゃないか!

――と言いたいところだけどそうだね、まさにその通りだよ

どうやったらキミ達みたいに頼り頼られ合う素敵な関係を築けるのだろうね

キミの想い人はお見舞いには来てくれるのかい?


ええ もちろん――とはいっても彼も忙しいからそんなに沢山は会えないのだけど

でも今何をしているのかとかは共有してくれてるのよ

さっきも図書館に行ってたみたいでね、その後近くの公園に来てたキッチンカーでアイスを買ったんですって

甘いものなんて好きじゃなさそうな見た目だから……そういう可愛いところを学校でも見せていけばいいのにね


和の好きな人は不良なのかい?

悪そうな人が優しい、可愛いものや甘いものが好きっていうのは定番のギャップだからね

そういう攻め方は悪くないと思うよ――ああ そういえば私の知り合いにも何人かそういうのがいるな

正確には私じゃなくて理くんの友人に、なんだけれど



そのまま話を続けていくがふと和の相槌が聞こえなくなったことに気付き顔を上げる。

そこにあったのはいつもと何ら変わりのなく見える、うつろな笑みだった。

きっと親でも見分けられないような些細な歪み、しかしそれは私の大好きな表情なのだから見間違えようもない。

この私が相手を知らないだなんて本当に思っているのだろうか。



おやもうこんな時間だ、そろそろ看護師さんが呼びに来てしまうね

名残惜しいが今日はこれで帰るとするよ

次は来週の休みに来る予定だけど、何か欲しいものはあるかい?

おばさまには内緒にしておくよ


本当? とても嬉しい申し出だけどすぐには思いつかないの

思いついたら連絡してもいいかしら?

じゃあ申し訳ないけれどそれで――じゃあまた来週、楽しみにしてるわ

夙志願と若月和による会話

「おはよう、眠り姫」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ