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少年少女遊戯  作者: あーの
12/14

平常のような異常少年と異常のような平常少女

やあ キミにしては遅かったじゃないか

とはいえ流石の私もあんなことがあった後だから来てくれないのではないかとひやひやしたが、信じて待ってみるのもいいものだね

そうだね大体3時間くらいか、自分の容姿がそれなりに良い自覚はあったが初めてだよ

6回、そう6回もいかにも軽薄そうな若者やご飯に誘ってくるおじ様に声を掛けられたんだ

こんな体験はもう二度とすることはないだろうね



そう3時間ものあいだ、僕は彼女との待ち合わせ場所に行くか悩みに悩み 悩み抜いて――行く宛もなく彷徨った結果、最終的にやはり足は待ち合わせ場所の方に向かって動いていた。

そういうふうに僕はもう出来てしまっているのだ、ああ なんて恐ろしい。

本当は来たくもなかったという気持ちを込めてこの上なく嫌な顔をしながら彼女の顔を見る。



そんな顔をするなよ、今日も大丈夫さ安心したまえ

いくらあの後だからもう一緒にいるところを見られても良いだろうと思っていても、私は気を遣える女だからね

ちゃんと今日の場所のことも考えているよ

ああ 今日は灯っていう古民家カフェに行こうと思っているんだが、キミも知っているかい?


貴女の大丈夫という言葉の意味は僕が知っているのとは違うのかもしれませんね

確かに少し離れているかもしれませんが、うちの学生が一定数そこに行っているのを知っていますよ

よくそんなところを指して誰にも見られないだとか大丈夫だとか言えたものですね

いつの間にそんなに馬鹿になったんですか?

そろそろ死に目が近くなってきましたか、ありがたいことですね


今日はいつにも増して言葉の棘が鋭利だね

ああ あんなに優しかったキミは――私のことを一番大切にしてくれたキミは一体どこへ行ってしまったんだい!

ちょっとふざけただけなのにそんな露骨に嫌そうな顔をしなくてもいいじゃないか

灯のオーナーとは馴染みでね、今日は頼み込んで開店前にお邪魔させてもらうことにしたのさ

なあ これなら誰にも会うことなくデートすることが出来るだろう?


珍しく本当に他人のことを考えて動いたんですね、まあデートではないですけど

それでも私利私欲以外で貴女が動けるだなんて――明日は世界の終わりでしょうか

とはいえそこまでされたのなら仕方がない、僕も行くしかないですね

もしこれがこの後人混みのど真ん中、学校前のカフェに行くのであっても僕に拒否権はないのですが


そうだね キミは私の優しさの下で生かされているんだ、ふふ感謝してくれてもいいよ

……というのは冗談さ、本当だよ?

周りにキミは私のものだということも見せつけられたことだし、今後は近づくのもまた自重しよう

そうしたらキミも少しは安心するだろうしね



そういって僕らは目的地までまたいつも通り生産性の欠片もない会話を連ねていく。

先日の件について、学校生活について、これからの関係について、未来について。

繋がっているようで繋がっていない、これは会話というよりいっそのこと言葉の羅列と言うべきだ。

ひたすらに人気の少ない道を歩いていた僕らは目的地を前に立ち止まる。



ああ やっと着いた、いつもより遠回りをしなければならなかったから何だか遠くに来たみたいだね

こんにちは燈子さん、今日は色々と都合つけてもらって申し訳ない

遥奏さんと希屋くんにも手間をかけてしまったと思うのでよろしく言っておいてくれ

……今日はあっさりしたものの気分だからベリーソースのレアチーズケーキをお願いしようかな

キミは何にする?


ええ そんな急に言われても……そうですね、ええと シャルロットケーキにします

今日は色々お手間を掛けたようで、夙志さんがご迷惑をおかけしました

あ、いや 夙志さんとは友人でして決して彼女ではありません、ええ 決して

むしろ冗談抜きで彼女とだけは付き合いたくないです


私はそういう勘違い方向で一向に構わないのだけど、彼はいつもこう言うんだ

キミが大好きな私としてはそう言われるのが願ったり叶ったり、狂ったように喜び舞い踊るのだけれど

ふふ――まあまあそんなに冷たい目をしないでくれたまえよ

キミも心が狭くなってしまったんだね、とても悲しい限りさ


心当たりがないとは言わせませんよ、たった二日前の話です

……ああ、ありがとうございます

心が狭くなったわけではなく貴女が僕の信頼――いや信頼はしてないですね、僕のことを裏切ったからの対応です

なのでこれはいつもと何ら変わりのない対応という認識で間違いありませんね


こうもはっきりと言われてしまうとそうだったかもしれないと勘違いしそうになるよ

いつものキミ、はもっと優しかったはずなのにね

よし こんな嫌になる話はやめにしよう――そうだ、キミは知っているかい?

そのケーキ、シャルロットの名前の起源を


底部が少しすぼまった円柱形の型というのがシャルロットだということは先日聞きかじりましたが

なのでその型を使用していることでケーキの名前になったんじゃあないですか

これは在場からの受け売り豆知識ですけどね

僕がそんなに博識なわけがないじゃないですか


キミは相も変わらず辞書的な、面白くない返答しかしないものだね

それは女性の帽子に見立てて作られているんだよ

イギリス王妃のシャーロット妃の名にちなんだとか、ゲーテの小説「若きウェルテルの悩み」の登場人物の名前から取っただとか

名前の起源は諸説あるんだけどね

いざ調べてみると物事には色々な意味や由来があって面白いものだよ


そうですか、いろいろご高説いただきありがとうございます

でも余計なお世話ですよ、僕はそんな些末なことに興味がないので

在場も貴女もそうですけどそういう細かい、どうでもいいことを知ることが好きですよね

とりあえず僕は今を普通に生きられればいいだけなのでそういう無駄な知識は不要です


普通をいう枠に囚われるというのは正にキミみたいなものを指すんだろうね

……ああ 気が付かなくてすまない、燈子さんありがとう

どうだい理くん、私のケーキもとても美味しそうだろう!

このぷるんとした白い光沢の上に艶めく赤いソースのコントラスト、ちょこんと乗った果実とミントが何とも可愛らしい!


確かに美味しそうだとは思いますが、毎回のことながらたかがケーキに何故そこまで気持ちが昂るのかはよくわかりませんね

ケーキなんて言ってしまえばただの嗜好品じゃあないですか

まあ幸福度を上げる一環としての価値はもちろんあるでしょうけれど

――ああ、でも確かにこれは美味しいですね


そうだろうそうだろう!

このチーズケーキもだね、甘すぎずしかしもったりとした食感にソースの甘酸っぱさが何とも言えない素晴らしさなのだよ

そっちのクッキーの香ばしさとしっとりとしたムースが口の中で溶け合って美味だろう?



そうケーキを一切れフォークに刺して、不安定なままそれをくるりと回して口の中に放り込む。

いつもと違い邪気のない笑みで好きなものを語る彼女はいつもより少し――ほんの少しだけだが好感が持てた。

正直僕にはよく分からない感覚だが、ふと自分のフォークに刺さったケーキを見つめてみる。

やっぱり大した感情も持てず、それを口の中に放り込んだ。

真如理と夙志願による会話

「Sweety Life」

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