有能のような無能少女と不運のような幸運少年
俺とりあは俗に言う幼馴染というやつだ。
元々父親が親友同士で、俺の父はりあの親父さんの会社で働いている。
また母達も気が合うらしく頻繁に家を行き来していたため、りあは血の繋がりがなくとも俺にとっては姉同然だった。
家が裕福なこともあり昔からりあはお嬢様扱いされるのが当たり前で、大分偉そうな態度なのは今と変わっていない。
しかし俺は中学生まで今とは違う、普通より少し気弱で泣き虫な性格をしていた。
そしてその中学生になった頃から俺の周りは少しおかしくなっていったような気がする。
もう いつまで泣いているのかしら、いい加減になさい!
全く……男の子でしょう、もう少し我慢強くなろうとは思いませんの?
まあ この際泣くのはいつものことですものね、仕方がないわ
ですけど もうかれこれ2時間は泣いてますわよ、いい加減に落ち着きなさい
うっ……うう……だって、だってえ……
みんな、みんな俺のせいだって言うんだ……俺がいるといつもみんな変になるって……
俺別に何もしてないのに、なんでいつも俺ばっかり……なんで……
今回は一体何があったんですの、よくもまあ毎回毎回問題起こしますわね
その泣き虫もよくありませんわ、いい加減直したほうがよろしくてよ
まあまずはあなたがそうなった経過をお話なさい
聞いて差し上げますから、それからどうしたらいいのか考えましょう
う、えっと、――昨日なんだけど、うちの部活のマネージャーに鈴木さんっていう人がいて
それは普通に買い出しで、まあ普通、普通に話しながら買い物してたんだ
勿論いつもお世話になってるスポーツ用品店で、あっちのショッピングモールじゃなくて
帰ろうとしたら店の前で彼女に会って――あ、言ってたっけ?
あなたの彼女さん?聞いてますわ、渡辺さんでしょう?
わたくしも委員会で一緒ですもの、彼女の方からご挨拶されましたわ
あなたも彼女が出来たときすぐにわたくしに言いに来たじゃありませんの
落ち着いた雰囲気の真面目な方ですわよね
あれ、そうだったっけ?何かあったらりあに言うのが癖になってるから……
じゃなくて、そう、美穂に店の前であったのは別にいいんだけど様子がおかしくて
なんでか美穂はそれが浮気だと思ってるし、鈴木さんも自分のことが好きだって言ってたじゃんって言い出すし
浮気した覚えもないし好きって言ったこともないから――ホントもう何がなんだかわからなくて
本当に心当たりはありませんの?
例えば買い物だけじゃなく普段からも鈴木さんと関わることが多かったり、渡辺さんといるときに鈴木さんを優先したり
例えば些細な話のときに鈴木さんへの印象が良いことを伝えるのに好きと言ったり、渡辺さんの相談を鈴木さんにしたり
そういう小さなことの積み重ねが誤解に繋がることだってありますわよ
そんな……そんなこともなかった、と思うんだよな……
根本的に鈴木さんとだって正直そんなに仲良かったわけでもないし、前にも誤解されたことあるから注意してたつもりなんだけど
結局鈴木さんにも美穂にも泣かれて周りからも最低のレッテル張られて……そう!今日だって!
今日って――他にも厄介なことがまだありますの?
ああもう……ええ、いえ、大丈夫ですわお続けになって、面倒だなんて思っていませんわよ、そう 決して
少しこのくだり何回するのかしら、と思っているだけですわ
別に好きでこんな面倒なこといつもやってねえよ!
俺の周りなんかいつもおかしいんだよ、今日のもクラスでちょっとした泥棒騒ぎがあったんだけど
偶然その時見ちゃったんだよ、ちょうど移動教室の時だったんだけど俺忘れ物しちゃってさ
なんとなく展開が読めてきましたわ……誤解されたんでしょう?
あなたが盗んだ犯人だと思われて学級裁判にかけられた、とそういう話じゃありませんの?
分かりやすい展開だろ?でもそうなんだよな……
そりゃあ盗んだところを直接見たわけじゃないけど、どう考えてもその移動教室のタイミングしか盗める時間ないし
犯人かもしれない人を見かけたならそりゃあ言うだろ、怪しいんだから
けどいざ荷物を探ってみたらなくて、代わりに出てきたんだよ――なぜか俺のロッカーから
いきなり怖い話でも始まりました?それとも罪の自白ですの?
まああなたが泥棒だなんてそんな度胸がないのはわたくしが一番知っていますわ
相手があなたに見られていたのに気づいていた――ってそんなことはないですわね
どうしてそんなことになってしまったのかしら
それが本ッ当にわかんないんだって!
とりあえず俺も頑張って説明したけど物証がこっちにある分不利だしさ
阿部の――そのクラスメイトの言い分は支離滅裂だし話にならなくて
今年になってからちょくちょくこういう訳の分からないことで人に嫌われて……
でももう決定的だ、明日から俺絶対居場所ない……
庇うにしてもなかなか難しい展開ですわね……
わたくしはあなたがそんな度胸がないと信じますけれど、物証もありますし
ですけれど誰かの、何らかの悪意が働いているのは間違いありませんわね
悪意……やっぱり俺のせいなのか?誰かに何かしてたのか?
俺どうしたら……これからずっと皆から泥棒のレッテル張られて、冷たい目で見られて
今までこんなことなかったのに……
だからもう!泣かない、と言っているでしょうに!
ただ泣いていても現状は変わりませんわよ、たまにはご自分でどうにかする努力をなさいませ!
もし、――もしその努力をしても現状がずっと変わらなければ……そうですわね
そう それで無理でしたら転校してしまいましょう、環境ごと変えてしまえばいいのですわ
もちろんわたくしもご一緒しますから安心なさい
え けどりあはもう来年には受験が……ていうか根本的に転校する理由なんて……!
それに入ったばっかの中学から転校したいとか、親になんて言えばいいか
今回の泥棒騒ぎでもだいぶ呆れられたのに……
あなたの親のことはわたくしも一緒に説得いたします、わたくし考えがありますのよ
それに転校についても問題ありませんわ
もし変わるなら元々受験予定の高校に附属中学校がありますの、そこなら転校するなら価値がありますわ
うん、――ありがとう、りあ
俺とりあえず頑張ってみる、なんかあっても絶対の味方がいるのもわかったし
……ちょっと安心した
しかしそこから半年、少しでも誤解を解こうと関係を修復しようと努力したつもりだが何も変わらなかった
何も、変えることができなかった。
どうしようもなくそのまま転校して今に至るが、今も誤解を生む生活は続いている。
何が原因かもわからないが、俺はもう一人でいることにも慣れてしまっていた。
誠來りあと藤波風の会話。
「きみといっしょ」




