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少年少女遊戯  作者: あーの
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平常のような異常少年と異常のような平常少女

理くん――私はふと思ったのだけれど、人間長い物には巻かれろと言うだろう?

しかし巻かれてしまうといとも容易く人間は死に至ってしまうとは思わないかい?


それは意味が大きく変わってきませんか

「長い物には巻かれろ」というのは、権力や勢力のある強い者には敵対せず大人しく相手の言いなりになっておくほうが無難で得策だということでしょう

そんな物理的な話ではないはずですが?


ふむまるで辞書のような返答で有り難いが――生憎私は屁理屈が大好きでね

怪力乱神かつ亀毛兎角、空中楼閣な物事こそが素晴らしいと考えているのだよ

その所為かもしれないが世の中で無意味と思われることにも興味を抱いてしまう癖があってね

キミはどうなんだい?


僕ですか、そうですねあまり考えたことはありませんでしたが……

まあ平凡陳腐かつ安寧秩序、平々凡々なものを好んでいますよ


あああ――ああキミはなんてつまらないことを言うんだ!

そんなもの夢も希望も何一つとしてありやしないじゃないか!

一体キミは何を楽しみにこの世界を生きているというのだね!


その言い方はあまりに酷くないですか?

流石に傷付きますよ、それに楽しみの一つや二つ僕にだってあります

何より標準的かつ普遍的であるということは良いことでしょう

普通こそが幸せ、それを理解できていない人が多すぎるだけなのですよ


幸せ?――ああ確かに何もないことが幸せかもしれないさ

しかしそれではあまりに退屈すぎるのだよ

何の変化もなく日々を繰り返すことほど陶犬瓦鶏なことはないと思わないかい?


解釈の不一致というものですね

僕は天才や秀才――兎にも角にもそういうものでないことが幸せなのではないか、と言っているのです

人間は自分より優れたものを忌避しますからね


まあ確かにそのようなことも一概にないとは言えないね

しかし嫌にリアルに話すな、キミもそのような立場になったことがあるのかい?

まあキミはそういうものだったろうからね――いやはやすまない、深入りしない約束だったね

過去のことなど私には微塵も欠片も関係ない、それが約束だ

危うく破ってしまうところだったよ


別に破ってくれて構いませんよ、その方が僕にとっては都合が良いですし

何より貴女と会わなくなったところで僕の生活には何の支障もないですからね

まあでも仕方ない、今回のところはセーフということにしておいてあげましょう

それで?貴女は一体どう考えているのですか?


私?ああ、私の考える幸せのことかい?

そうだな、ちゃんと考えたことがなかったけれど

ふむ――そうだね、やはり自分が幸せだと思えることが一番の幸せだね

そのためなら他の幸せの芽が摘まれることも仕方なしということさ


これはまた何とも自分勝手な発言ですね

自分さえよければそれで良いなんてエゴイスティックな考え方にも程があります

貴女のその傍若無人な態度はいつか自らの身を滅ぼしますよ――なんて、今更ですか

もう少し周りのものを気にした方が良いですよ


何を言っているんだい

私はいつも他者の――キミのことばかり考えて行動しているじゃあないか!

この間も私が見ていたおかげでキミを助けてあげられただろう?

忘れてしまったとは言わせないよ!

この間だけじゃない初めて会った日も、半年前のあの日も、数カ月前のあの日も、つい先日もそうだね


恩でも売りたいんですか?

残念ですがそう思うほど僕は殊勝な考え方を持ってはいませんよ

大体どれもこれも貴女が勝手にやったことでしょう

それを恩着せがましく言わないでください


恩義を感じろ、だって?――否、否!

私がそんなこと思っているわけがないじゃあないか!

相も変わらず言い方がキツいなキミは

私はキミが大好きだからね、何でもしてあげたいだけなのさ


そうですか、それはどうも――まあ感謝なんてしませんけどね

他者のためだなんて言ってますけど僕のことしか考えていないじゃないですか

それは周りとは言えないでしょう

僕以外で考えたらどうですか


そんなもの決まっているじゃあないか!

今はキミ以外どうでもいい、そんなものは対岸の火事にすぎない

私にとってキミとはそれほど大きな存在なのだよ


僕としては全く嬉しくない理由で、ですけどね

正直そんなことで好かれたくありません

寧ろあのようなこと本来は忌避される理由になれども好意の理由にはならないものですよ


理くん、そんなに悲観しないほうがいい

キミのそれはとても美しく――崇拝されるべきものだよ

それについて誉に感じることはあれどキミ自身で否定することはいけないな


そのように考えるのは貴女が異常だからですよ

せっかく貴女自身は至極普通な人間だというのに――まあ今更どうしようもないことですね

しかしその異常さに僕を巻き込まないでほしいものです


ふふふそんな否定的なキミのことも私は大好きだよ

――ああ、そういえば明日は学園祭当日だったね

何も起こらず平和に太平無事な一日を過ごせれば良いが


本当にそう思うのなら何もしないでくださいね

貴女なら事件を起こしかねませんしその上で僕を巻き込みかねませんから

その場合僕は貴女との関係を全否定しますので


もちろん!何もしないよう努めさせてはもらうとも!

ただし保証はできないがね――私は縛られるのが嫌いなんだ

理くん、キミは明日早いんだろう?早く眠らなくていいのかい?


貴女の方から電話してきたんじゃないですか、本当に勝手な人ですね

では勧められた通り眠るとしますよ

おやすみなさい、夙志さん


ああおやすみ、理くん

キミが至幸で万福な夢を見られますように――



通話が切れて暗くなった画面を見ながらしばらく動きが止まる。

決して友好ではない彼女との会話はいつもと変わらずとても穏やかで酷く不快だった。

僕はいつまでこうして過ごさなければならないのだろう。

自分の顔を映しているその黒に繰り返すように小さく呟いた。



――貴女にも至幸で万福な夢を


真如理と夙志願による会話

「文化祭前日夜」

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