第捌話 邂逅 後編
前回のあらすじ
切り裂き魔と遭遇した
魔法は、大きく分けて四つの種類がある。
一つ目が、攻性魔法。
その名の通り攻撃用の魔法で、火・風・土・水・氷・雷・光・闇の八属性があり、誰でも使える初級、その人の苦手属性以外は使える中級、その人の得意属性だけ使える上級、ごく限られた人にしか扱うことの出来ない超級の四等級に分類されている。
二つ目が、防性魔法。
この魔法が一番種類が少なく、防御・防壁・回復・耐属性の四種類しかなかった。
三つ目が、補助魔法。
攻性・防性に分類されない魔法がコレに分類される。
その分種類も多く、代表的なモノに身体強化、索敵、望遠がある。
最後の四つ目が、固有魔法。
この魔法は特殊で、魔族の中でも第一次人魔大戦以前から存在している旧魔族にしか使えない魔法だった。
ちなみに、かの大戦中に新たに生まれた魔人族、ダークエルフ族、ネガドワーフ族は新魔族と呼ばれていた。
旧魔族の中でも、竜人族は息吹、吸血族は鮮血、獣人族は狂化、そして妖族は妖術魔法を行使出来る。
◇◇◇◇◇
黒衣の襲撃者が、一陣の風となってあたしに襲い掛かってくる。
彼(?)の持つ刀の刀身が月明かりを反射し、禍々しく輝く。
「《エアロ》!」
あたしは足止めとして、風属性初級魔法を放つ。
けれど襲撃者は、その風を物ともしなかった。
向かい風を上手くやり過ごし、刀の届く範囲内に入る。
そしてごく自然な動作で、あたしの胴を真っ二つにするように横薙ぎに一閃してきた。
あたしは真後ろに跳び、凶刃を避ける。
けれど切っ先があたしの着物を捉え、横一文字に斬り裂く。
あと少しだけ避けるのが遅かったら、本当に危なかった。
「《メガサンダー》!」
そんなことを思いつつ、あたしは雷属性中級魔法を放つ。
襲撃者の判断は早く、同じ魔法で相殺してきた。
そうすることは読めていた。
あたしは身体強化魔法で脚力を強化して、一瞬で襲撃者の懐に潜り込む。
そして刀を水平に構え直す。
「月皇流・壱の太刀、『斬月』!」
水平に構えた刀を、半円を描きながら掬い上げるように振り上げる。
襲撃者は刀であたしの斬戟を防ぐけど、月皇流の中で一番一撃の威力の大きい『斬月』を防ぎ切ることは出来ず、相手の刀が弾かれた。
「弐の太刀、『水月』!」
それで止まらず、あたしは振り上げた刀を流れる水のようにスッと振り下ろす。
襲撃者は大きく後ろに跳ぶことで、あたしの『水月』を避ける。
けれど切っ先が彼の服を捉え、左肩から右脇腹に掛けて斜めに斬り裂いた。
服の下に防具を着込んでいたらしく、あたしの刀が襲撃者の肉体を捉えることはなかった。
それと、あわよくば襲撃者の性別もはっきりさせたかったけど……そっちも無理そうだった。
あたしも後ろへと下がり、刀を再び構え直して襲撃者の出方を窺う。
襲撃者の方も刀を低く構え、自身も姿勢を低くしていた。
互いに互いの出方を窺う中、ヒュウッと風があたし達の間を通り過ぎる。
その風が止んだ瞬間、あたしと襲撃者は同時に動き出した。
間合いに入った瞬間にあたしは刀を振り下ろし、襲撃者は刀を振り上げる。
そこから、互いに一歩も引かない剣戟を演じる。
何合、何十合と斬り結ぶ内に、襲撃者の斬戟があたしの着物を小さく、だけど確実に斬り刻んでいく。
それに比例するかのように、襲撃者はあたしの斬戟をだんだんと見切り始めていた。
……このままじゃ!
襲撃者の凶刃があたしの身体を斬り裂くのも時間の問題だと思い、あたしは『剣聖』と呼ばれる由縁の能力を解放する。
「月皇流―――」
そしてあたしは今まで出していなかった全力を解放し、たった一手で襲撃者を圧倒する。
「ガハッ……! そ……の、力は……!」
月を背に見下ろすあたしを、襲撃者は血反吐を吐きながら鋭い目であたしを睨み付ける。
あわよくば石化させようとしたのだろう。
けれど《人身御供》は未だに機能しているので、その攻撃は全くの無意味だった。
「あなたが知る必要はないわ。ここで――終わらせる!」
そう告げ、襲撃者に接近する。
そして刀を振り下ろす――けど、空を斬っただけだった。
襲撃者は素早い身のこなしであたしの斬戟を避けると、近くの建物の屋根の上へと登っていた。
「……今日のところはこれで失礼する。でも忘れるな。ボクはいつでもお前を標的にしていることを」
そう言い残すと、襲撃者は建物の陰へと消えて行った。
あたしは刀を鞘に納め、解放していた力も収束させる。
気付くと、東の空がだんだんと白じんできていた―――。
◇◇◇◇◇
「もうっ、おねえちゃん! 服をこんなボロボロにして!」
「……面目次第もございません」
朝帰りをキメると、朝ご飯の準備をしていたミオにこれでもかと言うほどにこってりと怒られていた。
いや、まあ……非は完全にあたしにある。
切り裂き魔の攻撃を全部避け切れなかったあたしが悪かった。
何度も謝罪の言葉を口にするけど、ミオの怒りは一向に治まる気配がない。
「夜遊びしてそんな風に帰ってくるなら、おねえちゃんの今日のご飯は抜きだよ! 何処かで食べてくるとかもダメ!」
「そ……そんな!?」
死刑宣告よりも重い罰に、あたしは途方に暮れていた―――。
先に断っておきます。
マヤは人造人間じゃないです。
正真正銘、生粋の魔族ですよ。
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