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第漆話 邂逅 前編

前回のあらすじ

アサギのお世話をすることになった

 

 楓の街に滞在し始めてから、一週間が経過していた。


 予想通りと言うか、何と言うか……アサギさんは研究に没頭すると、本当に日常生活が疎かになっていた。

 ご飯が出来ても、あたしかミオが部屋まで呼びに行かないとご飯を全く食べないし、放っておくと入浴すらしない。


 これじゃあお世話と言うより、介護……。


 ともかく、アサギさんは研究に熱心だった―――。




 ◇◇◇◇◇




 ほとんど日課となっている夜の散歩を終え、帰路に着く。

 夜は少し冷えるけど、夜空が綺麗だった。

 薄雲はあるけど、月が顔を覗かせていた。


 昼間とは打って変わって、静寂に包まれた大通りを一人歩いて行く。

 あたし以外の気配は無く、昼間の喧騒が夢か幻かのようにとても静かだった。


 するとフッと、月が雲に隠れ、辺りが暗闇に包まれる。

 次の瞬間―――。


 キィィィンッ!! と、甲高い音が大通りに響いた。


 あたしはその気配を察知した瞬間に刀を引き抜いており、身体を回転させながら背後に向かって刀を横一閃する。

 襲撃者が振り下ろした刀と、あたしの振るった刀がぶつかり合う。


 あたしはすぐに襲撃者から距離を取り、相手もあたしから距離を取る。

 刀を正中に構えて相手の出方を窺っていると、雲の隙間から顔を覗かせた月明かりが襲撃者の姿を照らし出す。


 襲撃者は全身黒づくめで、首に巻いた首巻きで口元を覆い隠していた。

 髪も黒く、肩口で綺麗に切り揃えられているのと、身体の線がはっきりしない服装であることから、男女の区別すら難しかった。


 それよりも特徴的なのは、襲撃者の額から生えている二本の大きな角だった。

 額から角を生やす種族なんて――一つしかなかった。


 襲撃者の種族は、妖族と見て間違いない……ハズ。

 それよりも気になるのは、襲撃者の手に握られている刀だった。


 刀は銀色かそれに近い色、極稀に黒色の刀身が普通だけど、襲撃者のソレは数多の血でも吸ったかのように赤く染まっていた。

 いや……実際血を吸ったのだろう。


 目の前にいる襲撃者が、楓の街を賑わせている切り裂き魔であることはほぼ間違いない。

 今夜はちょっと疲れてるのに……勘弁して欲しい。


 と思っていると、襲撃者があたしの呼吸の間隙を縫い、瞬きの合間にあたしの懐へと潜り込んだ。

 そして血染めの刀を、斜めに振り上げて来る。


 身体に染み付いた感覚で、ほぼ無意識に襲撃者の斬戟を自分の刀で防ぐ。

 その時、本当に偶然、襲撃者と目を合わせる。

 それがいけなかった。


 あたしの身体は金縛りにでも会ったみたいに、身体が全く動かなくなってしまった。


「こ……れ、は……!」


 この感覚には身に覚えがあった。

 まだ冒険者として駆け出しの頃に、お世話になっていた先輩冒険者と一緒に行ったクエストで出会でくわした魔物から受けた、石化攻撃と全く同じだった。


 魔物が使う攻撃を、人間が使うことは出来ない――ただ一つの例外を除いて。


「あ……なたは……人造、人間……?」


 そう口にした瞬間、襲撃者の雰囲気が変わった。

 それだけで人が殺せるんじゃないのかっていうくらいに、とても激しく鋭い殺気を纏う。

 そして動けないあたしに向かって、目にも留まらぬ斬戟を繰り出す。


 このままじゃあたしは殺される。

 だから――ある魔法を発動させた。


 その攻撃を避けようと、襲撃者は攻撃を中断してあたしから大きく距離を取る。

 でも、あたしの攻撃の一部が襲撃者に命中した。

 左前腕、右肩、左脇腹、左太腿、右ふくらはぎにそれぞれ命中する。

 だけど、傷はそれほど深くはない。


 ようやく石化の効果が切れ、襲撃者と視線を合わせず、だけど視界に収めつつ刀を構え直す。


 人造人間と言うのは、第二次人魔大戦の折に生み出された、哀しき生物だった。

 その名の通り、人が造り上げたニンゲンだけど、普通のニンゲンとは大きく異なる点があった。


 その最大の特徴は――魔物の生態がその身に組み込まれていることだった。

 目の前の襲撃者を例にすると、石化攻撃をする魔物はゴルゴーンと呼ばれる大蛇の魔物で、その特徴が反映されているっぽい。

 それと、恐らく素体となった種族は妖族……なハズ。


 人造人間が生み出された経緯は、当時の人類側が魔族側に対抗しようとして造った、言うなれば人造の魔族だった。

 でも、そんなことが人道的に許されるハズもなく、人類側の負の遺産として代々語り継がれてきていた。


 けれど、人造人間の製造は裏社会では日常茶飯事らしい。

 だから現代になっても、人造人間はこの世からいなくならない。


 閑話休題。

 襲撃者はとても怒りの籠った目で、あたしを睨み付けてくる。

 また石化でもさせようとしたのだろう。

 けれど、タネが分かれば対抗策も作れた。


 あたしは《人身御供》と言う、妖族しか使えない魔法である固有魔法の妖術魔法を発動させる。

 左腕の裾に入っている人型の紙が、石化を肩代わりしてくれていた。


「なんで、ボクの石化が効かない……!?」


 襲撃者の声は変声期前の少年のような、少し声の低い少女のような不思議な声だった。

 それと、わざわざ自分の手札を明かす必要性はない。


「そんなことより……あなたが巷を騒がせてる切り裂き魔で間違いない?」

「切り裂き魔は心外だ。ボクはボクを拾ってくれた主のために、主の邪魔者を消していただけだ」

「そう……なら、あたしもその主とやらの邪魔者ってわけ?」


 そう尋ねるけど、襲撃者は首を横に振る。


「いいや、違う。お前を標的にしたのは、いずれ主の障害になると思ったからだ」

「……その根拠は?」

「お前がこの街に来てから、街周辺の魔物の数が僅かにだが増えてきている。それにお前は夜な夜な、街の外に出歩いているな? だから……」

「……魔物が増えている原因が、あたしにあると?」


 そう聞き返すと、襲撃者はコクリと無言で頷く。

 この後のことは、容易に想像出来た。


「だから――主の安寧のために、ここで消えてもらう!」


 襲撃者はそう言うと、一陣の風となってあたしに襲い掛かってきた―――!






ファンタジー物の名物(?)、人造人間/ホムンクルスの登場です!




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