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第陸話 新しい依頼(?)

前回のあらすじ

衝撃的な出会いをした

 

「いや〜、助かったよ! ありがとう!」


 お腹が膨れて調子を取り戻したらしいマユリさんの友人さんは、満面の笑みを浮かべてそう言う。

 対してあたしとミオは、何とも言えない表情を浮かべていた。


 倒れ伏すほどの空腹だから、お腹に優しい雑炊にしたんだけど……。

 土鍋に入っていた雑炊を一人で丸々平らげるだけでなく、同じ量を二回もおかわりしてきた。


 空腹だったにしても、流石に限度というモノが……。


「それで……君達は何処のどなた?」


 そう尋ねられ、まだ名乗っていなかったことを思い出す。

 これも全て、最初の衝撃が原因だった。


「あたしはマヤ・スメラギで、この娘はあたしの妹のミオです。マユリさんに頼まれて、貴女宛ての書物をお届けに参りました」

「それはご苦労様。……っと。まだ名乗ってなかったね。ぼくはアサギ・ハルカゼ。マユリちゃんの親友だよ」


 アサギさんは野暮ったい眼鏡を掛け、焦げ茶色の長い髪は手入れされていないのかボサボサで、着古しているらしい着物も所々よれていた。

 顔付きは知的な雰囲気があり、身形を調えれば誰もが振り向かずにはいられない美人になるのに……。

 正に、「残念美人」という言葉がピッタリ(?)な女性だった。


「それで……ぼく宛ての書物は?」

「こちらになります」


 あたしはそう言い、魔法袋の中からマユリさんに預かった書物を取り出し、ちゃぶ台の上に置く。

 それを素早い動きで受け取ると、アサギさんはとても輝かしい笑みを浮かべる。


「やっはーーー!! とうとう待ちに待ったモノが届いた!」

「あの……そんなにすごいモノ何ですか?」


 放っておくとその場で小躍りしそうなほどに気分が高揚しているアサギさんに対して、あたしはつい質問してしまった。

 するとアサギさんは、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに口角を緩める。


「ぼくは歴史学者なんだけど、最近は第一次人魔大戦前後に起こったとされる世界的な事件を調べてるんだ。君達は第一次人魔大戦について、どれくらい知ってる?」

「詳細なことは何も。一般常識程度の知識しかないですね」

「わたしも……そんなには」


 第一次人魔大戦というのは、『原初の魔王』ノヴァが引き起こしたとされる世界規模の戦争のことだった。

 この大戦が終結した年から、今使われている「人魔暦」が始まった。


 そして、「第一次」という冠がなされている通り、過去に何度か人類と魔族による全面戦争は引き起こされていた。

 最後に起こったのが約五百年前の、当時の『魔王』アリュシーザと『勇者』アレクシスが何度も相争った第三次人魔大戦だった。


 それから、小競り合いは起きつつも、大きな戦争になるようなことはないくらい、比較的平和な時代を迎えていた。


 閑話休題。

 アサギさんは頷き、話を続ける。


「その程度の知識で十分だよ。因みに聞くけど、メラスレ王家の御三家は知ってる?」


 メラスレ王家というのは、西大陸にある魔族の国であるソロモニア王国を統べる王家のことだった。

 その王家は『原初の魔王』の血を絶やさないためか、三つの家系が存在していた。


「一応は。『ブロッサム』、『ヴァンプル』、『ドラグナー』ですよね?」

「そう。そしてぼくが調べた所、メラスレ王家には失われた四つ目の家系があるみたいなんだよ」

「……えっ? 本当ですか?」


 思わずそう聞き返すと、アサギさんは自信満々に頷く。


「本当だよ。『原初の魔王』には四人の妻がいたらしいんだ。でも現代まで血が繋がっているのは御三家だけ。もう一つ、家系があったことは確かだろう?」

「でも、それって……あたしの記憶が確かなら、『原初の魔王』とその妻の間に子供が出来なかったから、っていうのが通説じゃありませんでした?」

「それは()()()()()()だよ」


 なんだか、とても含みのある言い方だった。


「人類側……? それじゃあ、魔族側の歴史は違うってことですか?」

「それを確かめるために、マユリちゃんに無理言ってソロモニア王国で流通してる歴史書を取り寄せてもらったんだ。君達が届けてくれた書物がソレだよ」

「そうだったんですか……。それじゃあマユリさんのお使いも済んだので、あたし達はこれで失礼……」

「ちょっと待ちたまえ」


 アサギさんから静止の声が掛けられ、あたしは浮かせていた腰を再び座布団の上へと降ろす。

 するとアサギさんは、神妙な面持ちで口を開く。


「君達も目の当たりにした通り、ぼくは研究に没頭すると日常生活が疎かになってしまうんだ。ご飯を食べることを忘れてしまうくらいにはね。だからお願いします。お金は払うんで、ぼくの研究が一段落するまでこの家に居てください」


 それはそれは見事な土下座だった。

 そんなことをしなくても、依頼ならちゃんと引き受けるのに……。


「どうする、ミオ?」

「わたしは良いよ。それにこのお姉さん、なんだか放っておけないし」


 ミオの意見には全面的に同意する。

 放っておいたら、アサギさんはまた空腹で倒れるに違いなかった。

 そんな予感がビンビンしていた。


「……分かりました。しばらく身の回りのお世話をさせていただきます」

「ありがとう! 報酬はたんまりと弾むからね!」


 こうして、しばらくの間アサギさんの家に滞在することになった。

 彼女の体調も、楓の街を賑わせている切り裂き魔のことも心配だけど、それよりも最優先で心配しなきゃいけないこともあった―――。






なんか、見知ったような名前が次々と出てきましたねぇ……。




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