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第伍話 到着

前回のあらすじ

お使いを頼まれた

 

 特に予定が狂うような事態は起こらず、あたしとミオは無事に楓の街へと辿り着いた。

 楓の街はビャッコ島の各街を繋ぐ街道の中継地点になっているという背景から、ビャッコ島でも五指に入るほどに栄えた街だった。


 欠伸をしながら馬車から降りると、それをミオに見咎められた。


「もうっ、おねえちゃん! また夜出歩いたの?」

「うん……まあね」


 事実ではあるし、別に隠すようなことでもなかった。

 でもミオはそんなあたしにお怒りなようで、腰に両手を当ててぷんすことあたしを叱る。


「何度も言ってるでしょ! 夜はきちんと寝て、出歩いちゃダメだって!」

「……眠れないから散歩してただけだけど……」

「それでも! ちゃんと寝ないから、昼間眠いんだよ!?」

「……仰る通りで」


 正論過ぎて、ぐうの音も出なかった。


 ちらりと辺りを見ると、あたし達のやり取りを見ていたらしい人達が微笑ましいモノでも見るような視線をあたし達に向けていた。

 端から見ると、ダメな姉を叱るしっかり者の妹という構図なのだろう。

 まあ……その評価はあながち間違ってはいない。


 でも、あたしが夜に出歩くのには、きちんとした理由がある。

 あるけれど、絶対にミオに知られるわけにはいかなかった。


「……さ。マユリさんの友達の下まで行きましょう?」


 ミオの手を掴んで、その場を後にする。

 ミオは突然のことに戸惑った様子だったけど、ぎゅっとあたしの手を握り返してきた―――。




 ◇◇◇◇◇




 マユリさんから事前に、友人宅の住所を教えてもらっていた。

 だから時々、人に尋ねながら目的地へと向かっていたんだけど……なんだか街の様子がおかしかった。

 ちょっと気になったので、三番目に道を尋ねた八百屋のおばちゃんにその原因を尋ねる。


「あの……なんだか街の様子がおかしい気がするんですけど、あたしの気のせいですか?」

「お嬢ちゃん達は街の外から来たんだよね? なら時期が悪かったとしか言えないねぇ……」

「時期が? どういうことですか?」


 そう聞き返すと、おばちゃんは内緒話でもするかのように声を潜めて告げる。


「……最近、正体不明の切り裂き魔がこの街を賑わせてるんだよ。つい昨日だって、若い夫婦の斬殺死体が見つかったところだしね」

「斬殺、ですか……穏やかじゃないですね」

「ああ。だから領主様から、夜に出歩くことを禁じられてるくらいだからね。切り裂き魔が現れるのは決まって夜らしいから、仕方ないっちゃ仕方ないけど……早く捕まって欲しいものだね」

「そうですね。おちおち夜も眠れないですしね。……それじゃあ、あたし達はこれで。色々教えてくれてありがとうございました」

「ああ。アンタ達は若くて可愛いんだから、くれぐれも事件に巻き込まれないように気を付けるんだよ」

「忠告痛み入ります。では」


 おばちゃんに一礼し、その場から立ち去る。


 そして教えてもらった目的地へと向かっていたその時――あたしはバッ! と素早く背後を振り返った。

 身体に染み付いた動作で、ほぼ無意識に右手は腰に差している刀の柄へと伸びていた。


「おねえちゃん……? どうかしたの?」


 あたしの突然の行動に、ミオが怪訝そうに尋ねてくる。


 ……気のせい? いや、でも……間違いない。

 アレは――血の臭いだ。


 そう断じるけど、その原因となる人影は人混みに紛れて判別出来なかった。

 ミオに余計な心配を掛けないよう、あたしは努めて笑みを浮かべて、彼女を安心させるように右手で頭を優しく撫でる。


「何でもないわ。さ、行きましょうか」


 そう言い、ミオの手を引いて目的地へと向かった―――。




 ◇◇◇◇◇




 目的地であるマユリさんの友人宅は、大通りを外れた閑静な場所に建っていた。

 確か歴史学者とか言っていたから、静かな環境の方が研究とかするのに好都合なのかもしれない。


 そんなことを思いながら、玄関の扉の横に設置されている呼び鈴を鳴らす。

 チリンチリンと心地良い音が響くけど、家人が出てくる気配が一向に訪れなかった。


「こんにちは〜」


 引き戸を開けて中に入るけど、やっぱり家人が出てくる気配はない。

 失礼します、と小さく告げ、履き物を脱いで家の中へと上がる。


 人が暮らしてる痕跡はあるから、住んでいないってことはないとは思うけど……。


 と思っていると、居間でうつ伏せで倒れている女性を発見した。

 急いで駆け寄り、女性を抱き起こす。


「だ……大丈夫ですか!?」

「…………………………ぉ」

「「お?」」


 あたしとミオが声を揃えて聞き返すと、女性はうっすらと目を見開く。

 そしてさっきよりもはっきりとした声で、続きを言う。


「お腹………………空いた………………」


 それを聞いて、あたしは思わず真顔になる。

 見ると、ミオもあたしと同じ表情をしていた。


「……ミオ」

「……何、おねえちゃん?」

「……さっきの八百屋さんで、材料を買って来ようか?」

「……うん、そうだね」


 女性を床に寝かし直し、あたしはミオを連れてさっきの八百屋さんまで戻って行った―――。






まさかのファーストコンタクト。




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