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第参話 悪夢/秘密

前回のあらすじ

その依頼、断らせてもらう!

 

「え……? な、何故ですか!?」


 あたしの言葉が信じられないようで、シェリル様は驚いた様子を見せる。

 湯呑みに入ってるお茶を啜って喉を潤してから、あたしは答える。


「前戦を離れて久しいですからね。当然剣の腕も鈍ってますよ。そんな状態だと、他のSランク冒険者の足を引っ張る結果にしかなりませんよ。それに……」


 そこで言葉を区切ってから、隣にいたミオの身体を抱き寄せる。

 突然のことにミオは顔を真っ赤にするけど、それを無視してあたしは続ける。


「……あたしには守護まもるべき大切な妹がいますので。妹を泣かせるような真似は絶対にしたくないので、死と隣り合わせの依頼を受けることはしてないんですよ」

「そう、ですか……」


 シェリル様は悲しげに目を伏せると、テーブルの上に置かれていた麻袋を魔法袋の中に仕舞う。

 そしてソファーから立ち上がる。


「非常に残念ですが、仕方ありませんね。それでは私はこれで失礼させていただきます」


 ペコリとお辞儀をすると、シェリル様は去って行った―――。




 ◇◇◇◇◇




 シェリル様が去った後、テーブルの上を片付けていたミオが話し掛けてくる。


「それにしても……良かったの? あの依頼を受けなくても? お金がたくさん貰えたんじゃないの?」

「ぐっ……それは、まあ……そうだけど……」


 ミオの指摘は図星を突いていた。

 ミオとの生活を楽にするためには、お金はいくらあっても困ることはない。

 さっきの依頼だって、お金だけで見ればとても魅力的だった。

 でも……。


「あの皇女様に言ったみたいに、あたしはミオのことが一番大切だから。ミオのことより優先されることなんてないよ」

「そ、そう……」


 ミオはそっぽを向くけど、長い耳は先端まで赤くなり、ピクピクと動いていた。

 嬉しいことがあると耳がピクピクするのが、ミオの癖だった。


 それを微笑ましく思いながら、あたしは湯呑みに残っていたお茶を飲み干した―――。




 ◇◇◇◇◇




「鬼の子め!」

「何故お前だけ生き延びるのだ!」

「近寄らないで!」


 やめて。

 そんなこと言わないで。


「お前は誰にも必要とされないのだ!」

「とっととここからいなくなれ!」

「二度と顔を見せるな!」


 嫌だ。

 そんな目で見ないで。


「お前の居場所などない!」

「早くこの世から消えて!」

「お前が死ぬことが、この世界のためなのだ!」


 お願い。

 殺さないで―――!




 ◇◇◇◇◇



「……っ! はあ……はあ……!」


 悪夢にうなされ、わたしは飛び起きる。

 いつものことではあるけど、全然慣れそうにない。

 ちらりと隣の布団を見ると、マヤおねえちゃんの姿が見当たらなかった。


 おねえちゃんが時たま、夜中に何処かに行くのはよくあることだった。

 でも、あんな悪夢を見た後だと、おねえちゃんにも見捨てられたような気持ちになって急に心細くなる。


 すると襖が開き、おねえちゃんが戻ってきた。


「あれ? 起こしちゃった?」


 いつもの調子でそう言うけど、今はその声だけでもとても安心する。

 わたしは立ち上がると、おねえちゃんへと近付く。

 そしてぎゅっと、おねえちゃんに抱き着く。


 おねえちゃんは何も言わずにわたしを抱き締め返して、優しく頭を撫でてくる。

 それだけで、さっきまで確かにあった嫌な気持ちが消えていく。


「さ。もう寝よう?」


 おねえちゃんに促され、布団の中に戻る。

 でも、またあの悪夢を見ちゃう気がして、おねえちゃんの布団に侵入する。

 そしておねえちゃんの左腕に、ぎゅっとしがみつく。


 おねえちゃんは何も言わずに、右腕をわたしの背中に回してくる。

 おねえちゃんに守られてるような気になって、わたしは安心して目を閉じる。


 あの悪夢をまた見ることはなかった―――。




 ◇◇◇◇◇




 ……やっぱり、ミオの心の奥底にはまだ、あのことが……。


 ミオの安らかな寝顔を見ながら、そんなことを思う。


 ミオは毎晩、あたしに甘えてくる。

 それは決まって、嫌な夢を見たらしい後だった。


 ……なんで分かるかって?

 あんな憔悴し切った顔を見たら、そうとしか思えなかったからだ。


 それに、ミオの嫌な夢の内容も、大体は予想がついている。

 あたしと出逢った時には、ミオは死人のような、世捨て人のような、この世の全てに絶望したかのような顔をしていたからだ。

 それだけで、今までどのような仕打ちを受けてきたのか察してしまった。


 だからあたしはミオを保護して、あたしの妹として一緒に暮らし始めた。

 ここ一年は笑顔が増えてきたけど、最初の頃は本当に酷かった。


 それよりも、今日の昼間にあたし達を訪れたシェリル様に対して、一つ嘘を吐いてしまった。

 これは誰にも……ミオにすら打ち明けていないけど――あたしは『百魔夜行』の原因を()()()()()


 知っていながら、誰にも知らせていない。

 知らせたら最後、この平穏な生活は脆くも儚く崩れ去っていくことは確定的だった。


 だから、あたしは。

 この世の全てを敵に回してでも、ミオのことを守護まもり通してみせる―――。






マヤだけが把握してる、『百魔夜行』の原因とは……?




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