第弐拾肆話 逃亡者
前回のあらすじ
協力して欲しい
「う〜ん……協力する事自体は吝かじゃないんですけど……二人に危険が及びそうなら潔く身を引かせてもらいますけど、それでもいいのなら」
あたしは左右に座るレイとミオを抱き寄せながら、そう答える。
するとレヴィアさんは、顔を上げる。
「こちらはお願いする立場なので、異を唱えることはありませんよ。それに、マヤさん達には後方支援に徹してもらうつもりでしたから」
「それは、どういう……?」
「アタシ達の背後に『剣聖』がいるという事が重要なのです。流石に彼等も、Sランクの冒険者まで敵に回したくないとは思いますし」
「つまり……あたしの役目は、彼等への無言の牽制って事ですか?」
「そうなりますね」
「……『剣聖』が牽制……ぶふっ」
レヴィアさんが真面目な表情で受け答えしてる隣で、ミアンちゃんはぷるぷると肩を揺らして笑いを堪えていた。
駄洒落になっちゃう事はあたしも気付いていたから、あえて気にしないようにしていたのに……ミアンちゃんは笑いの沸点が低いみたいだった。
こうしてあたしは、レヴィアさん達に協力することになった―――。
◇◇◇◇◇
「ここもダメね。ショボいモノしかないわ」
「そうだね。こんなんじゃ、何の足しにもならないよ」
ゲンブ島のとある寒村にて、二人の少女がそんな会話を交わしていた。
片方の少女は赤い髪をツインテールにし、青と緑のオッドアイをしていた。
もう片方の少女は青い髪をポニーテールにし、こちらは赤と金のオッドアイだった。
そして二人の全身は――この村に住んでいた村人の血に濡れていた。
二人が両手に持つ短剣からも、ポタポタと血が滴り落ちている。
この二人が、ソロモニア王国のドラグナー領にある刑務所から脱獄した脱獄犯だった。
二人はサクラ皇国まであの手この手で逃亡し、そしてこの村まで辿り着いた。
到着した途端、金目の物を奪おうと村人達全員を血祭りに上げたが、結果は空振りに終わった。
ツインテールの少女が、肉塊となった村人の上にドカッと腰を下ろす。
その顔には、嫌悪感の一つも浮かんでいなかった。
「さて……これからどうしようか、ニナ?」
「ニコはどうしたいの?」
「う〜ん……襲えそうな村があったら襲いたいけど……あの竜姫がいないとも限らないからね。あまり派手にヤると感付かれるかも」
「でしょうね。どうせあたし達を追ってきてるでしょうから、この島にいると考えるべきでしょうね」
二人はドラグナー領を脱出するまでに幾度か、ドラグナー家の王女であるレヴィアと交戦していた。
『原初の魔王』の子孫だけあってその実力は高く、実力的にはSランク冒険者相当のニコとニナの二人でさえも、逃げの一手を打つ他なかった。
「どうしようか……」
「どうしようかしらね……」
「ならば、私達に付いてくる気はないかね?」
すると突然、第三者の声が響いた。
ニコとニナは即座に頭を切り替えると、第三者に問答無用で襲い掛かる。
しかし二人の攻撃は、第三者が侍らせていた者によって難なく防がれてしまった。
二人は大きく距離を取ると、警戒を緩めずに第三者を見やる。
第三者は白衣を着たニンゲン―アラハバキだった。
短剣を前に構えたまま、ニコは尋ねる。
「あなた……何者?」
「急に声を掛けた事は謝罪しよう。私の名はアラハバキ。しがない研究者だ。この二人はトウコとトウヤ。私の……助手みたいなものだ」
「そのアラハバキさんが、わたし達にいったい何の用で?」
「雨風凌げる場所を提供しようと思ってね。何、困っている者を見過ごせない性質なんだ」
そう言ってアラハバキは、誰の目から見ても胡散臭い笑みを浮かべる。
それがより一層、ニコとニナの警戒心を際立たせる。
「……わたし達に変な事する気じゃ」
「そんな事はしない。ただのニンゲンには興味が無いのでね」
「……そう言っておいて、あたし達を油断させるつもりじゃ」
「そのつもりは毛頭無い。それにそもそも、君達と敵対するつもりなら、声を掛けたりはしないだろう?」
その言葉は確かに一理あった。
ニコとニナは無言で視線を交錯させ、そして同時に腕を下ろした。
「……あなたの申し出、有り難く受け入れさせてもらうわ」
「だけど……あたし達に変な事をしたら、その時は抵抗させてもらいます」
「良かろう。では、私に付いてこい。私達の根城まで案内しよう」
そう言ってアラハバキは、ニコとニナに背を向ける。
その口元は、三日月のように歪んでいた―――。
アラハバキィ……。
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