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第弐拾弐話 到着

前回のあらすじ

ゲーティアは不老不死

 

「マヤおねえちゃん!」


 名前を呼ばれたので声のした方を振り向くと、部屋にいたハズのミオが甲板へと出て来ていた。

 ミオだけでなく、レイとミアンちゃんもいた。


「ミオ……わっ、と……」


 ミオが勢い良く抱き着いてきて、あたしは少し姿勢を崩す。

 でも、しっかりとミオの身体を抱き留め、抱き締め返す。


「どうしたの?」

「船が大きく揺れて、でも……おねえちゃんの姿が見当たらなかったから心配で……」

「心配掛けてごめんね?」


 謝罪しつつ、あたしは慰めるようにミオの頭を優しく撫で回す。

 ミオはあたしの胸元に顔を埋めたまま、あたしにされるがままに身を委ねていた。


 すると背後から、ぽすんと軽い衝撃が加わる。

 振り返ると、レイもあたしに抱き着いてきていた。


「心配した」


 ややぶっきらぼうな言い方だけど、本心からあたしのことを心配してくれているのだろう。

 あたしはレイの手を取り、正面から彼女の身体を抱き締める。

 そしてミオにしたように、レイの頭も優しく撫で回す。


「ふふふ……ちゃんとお姉ちゃんしてるのね?」

「からかわないでください……」


 ゲーティアさんの指摘に、あたしは少し顔を赤くしながら答えた―――。




 ◇◇◇◇◇




 船の損壊はほとんど無く、そのままゲンブ島の港に入港した。

 その港のある街は蒲公英たんぽぽの街と呼ばれていて、ゲンブ島の玄関口でもあった。

 だからか、港はこれまで見た所よりも大きく、また、菊花の街に負けず劣らずの賑わいを見せていた。


 船を降りた後、ゲーティアさんがあたし達に別れの挨拶をしてきた。


「それじゃあわたし達はここで」

「はい。色々とお世話になりました。お元気で」

「貴女達もね。……行こっか、スラちゃん」


 スラさんは頷くと、ゲーティアさんと一緒にあたし達の前から立ち去った。


「さて……あたし達も移動しようか? ミアンちゃん。案内してもらってもいいかな?」

「任せて。私の仕える主も、まだこの街に滞在してるハズだから」


 そしてあたし達は、ミアンちゃんを先頭にして街中へと繰り出した―――。




 ◇◇◇◇◇




「……スラちゃん。ずっとその姿のままだったけど、何処か体に異常はない?」

「うん。大丈夫だよ」


 わたしの問い掛けに、スラちゃんはへにゃっと笑顔を浮かべながら答える。


 スラちゃんもわたしと同じ不老不死の存在―『理外者』だけど、本来の姿はスライムだった。

 この人型の姿は、『理外者』となった事で獲得した擬人化能力で変化しているだけに過ぎなかった。


 本来の姿は魔物だから、擬人化しているとストレスが溜まってくるらしい。

 それが心配だったから尋ねたけど、まだまだ元気そうだった。

 それでも、無茶してもいいという理由にはならないけど……。


「それで……この島にいるの?」

「でしょうね。ヤツの痕跡はこの島で途切れてるから」


 マヤちゃんにはちょっとだけ、嘘を吐いてしまった。

『百魔夜行』の原因を調べてるとは言ったけど、それは手段であって目的じゃなかった。


 わたしの目的は――この世界に災いをもたらす疑惑のある、アラハバキという存在の排除だった。

 その為に、ヤツが活動を始めたのと同時期に発生した『百魔夜行』の原因を調べていた。


 本当なら、わたしが手出しすることじゃない。

 でも、今のこの世界の基盤を築いた『原初の魔王』ノヴァ――()()()()()として、世界の敵となる存在は野放しにしてはおけない。


「ゲンブ島は広いからね。早く移動しようか」

「うん」


 スラちゃんは頷き、わたしはマントのフードを深く被りながら人混みに紛れていった―――。




 ◇◇◇◇◇




「待ち合わせの場所はここなんですよ」


 そう言われてミアンちゃんに連れて来られたのは、この街の冒険者ギルドの建物だった。

 中からは、微かにどんちゃん騒ぎの音が聞こえてくる。

 何かしらの宴でも開いているのだろうか?


 その理由は、すぐに判明した。


 建物の扉を開けて中に入ると、最初に感じたのは濃密なお酒の匂いだった。


「うっ……」

「臭い……」


 レイとミオは鼻を押さえて、顔を顰めている。

 あまりお酒は飲まないけど、それなりに酒精に強いあたしでも、この匂いはちょっとアレだった。


 それと、よくよく観察してみると、酔い潰れたとおぼしき人達が床に転がっていた。

 そして、この馬鹿騒ぎの中心には……。


「アタシちゃんと勝負する奴はもういないのかぁ〜……ヒック」


 ……顔を真っ赤にして酒樽を抱えている、銀髪の残念美人が木製の机の上に立っていた。


「え……えぇ〜……」


 あたしがその人の姿に呆気に取られていると、ミアンちゃんが彼女の方へとツカツカと足音をわざとらしく鳴らして近付いて行く。

 ……気のせいじゃなければ、ミアンちゃんの目がとても据わっていたような……。


「レヴィア」


 ミアンちゃんが名前を呼ぶと、銀髪の女性はビクッ! と肩を揺らす。

 そして恐る恐るといった風に、ミアンちゃんの方を振り向く。


「…………………………ミアン?」

「何やってるの、この馬鹿主!!」


 残念美人―レヴィアさんの襟首を掴んだと思ったら次の瞬間、彼女の顔を机に盛大に叩き付けた。

 威力が大きかったようで、レヴィアさんはひび割れた机に顔を埋め、ビクンビクン! と震えていた。


「え……えぇ〜……?」


 さっきとは別の意味で呆気に取られていると、ミアンちゃんがあたし達の方を振り向いて、ペコリと頭を下げてくる。


「見苦しい所を見せちゃってごめんなさい。コレが私の主の、レヴィア様です」


 ……その主を机に叩き付けてもよかったの?


 そんな言葉が出かかったけど、なんとか呑み込んだ。

 口は災いの元って言うしね―――。






一応一国のお姫様なんですけどね、レヴィア……。




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