第弐拾壱話 海の魔物 後編
前回のあらすじ
クラーケンが現れた
ゲーティアさんは起き上がると、あたしの手を掴んであたしも起こす。
「マヤちゃん。戦える?」
「ええ。これでも元冒険者なので」
「頼もしいわね。それじゃあ……行くわよ!」
ゲーティアさんはそう叫ぶと、魔法袋の中から杖を取り出し、右手に剣を、左手に杖を構えた変則的な二刀流となる。
そしてクラーケンの方へと向かっていく。
あたしも刀を抜き、彼女の後に続く。
クラーケンは船体に絡み付き、残った足をウネウネとくねらせていた。
なんでこの船を襲ってきたのかは分からないけど、クラーケンの体が黒い靄に包まれていない事から、ミオの特異体質の片方であるナイトメアの能力の影響を受けていない事だけは確かだった。
クラーケンはあたし達の姿を確認すると、足を振り下ろしてくる。
クラーケンの足は見た目に反して、金属並に硬い肉質なのは冒険者の間では有名だった。
だからあたしは身体を捻って回避したけど、ゲーティアさんはあろう事か、その足を斬り捨てた。
クラーケンもまさか斬られるとは思っていなかったのか、激しく身を捩る。
それに連動して、船がギッタンバッタンと激しく揺れる。
足場が不安定だから、あたしは仕方なく魔獣化して翼を生やし、空中に浮かぶ。
ゲーティアさんは体幹が強いのか、不安定な足場でも二本の足で立っていた。
ゲーティアさんはクラーケンに再度近付くと、自らが切断した足の断面に剣を突き刺す。
何をするつもりか分からなかったけど、すぐに判明した。
「《ギガファイア》!」
火属性上級魔法が放たれるけど、炎はクラーケンの表面ではなく、体内を焼いているようだ。
その証拠に、イカ特有の香ばしい匂いが漂ってくる。じゅるり。
……っと、食欲を刺激されてる場合じゃなかった。
クラーケンは残っている足で、ゲーティアさんを叩き潰そうとする。
「《ブラッディソード》!」
あたしは鮮血魔法を発動してみたはいいものの、クラーケンの足を斬り刻むまでには至らず、せいぜいが足の軌道を逸らすだけに留まった。
でも、残った足がゲーティアさんの身体を絡め取った。
そしてその足は、雑巾でも絞るかのようにゲーティアさんの身体をゴキバキボキンッ! と絞り上げる。
「ゲーティアさんっ!!」
あたしの悲鳴を空しく響き、ゲーティアさんだったモノがポイッと甲板に投げ捨てられる。
身体の至る所が、曲がってはいけない方向に曲がっていた。
誰の目から見ても、明らかに即死だった。
「《付喪紙》、起動!」
あたしはせめてゲーティアさんの敵は取ろうと、妖術魔法も発動させる。
そして赤と白の刀剣を、クラーケンに向けて飛ばす。
足を切断するまでには至らないけど、同じ場所を攻撃する内に、その場所に切り傷が刻まれていった。
あたし自身もクラーケンに接近し、刃が通りそうな目玉へと刀を突き立てる。
幸いにもあたしの予想通りで、ズブリと気色悪い感触を手の平に感じながら、刀はクラーケンの目玉を貫いた。
クラーケンは暴れ回り、あたしは刀を引き抜いてからクラーケンから大きく距離を取る。
「マヤちゃん! そこを動かないで!」
するとあろう事か、クラーケンに絞り上げられたハズのゲーティアさんが、何事も無かったかのように二本の足で立っていた。
そして、彼女の言葉の意味がすぐに分かった。
「――《ボルテクスバースト》!」
クラーケンに向けた杖の先端から、雷属性超級魔法が放たれる。
天罰にも似た雷撃がクラーケンの巨体を襲い、その攻撃に耐え切れず絶命したクラーケンは海の底へと沈んでいく。
脅威が去ったと判断したあたしは甲板に降り、魔獣化を解除する。
そしてゲーティアさんの下へと駆け寄る。
「ゲーティアさん!? 死んだんじゃないんですか!?」
「確かに一度死んだわよ。いや〜、とても痛かったわ」
ゲーティアさんはとても気軽な雰囲気でそう言うと、身体の調子でも確かめるように肩をぐるぐると回していた。
もう、何がなんだか分からなかった。
「え〜っと……ゲーティアさんって、一体何者何ですか?」
「う〜ん……端的に言うと、わたしは不老不死なの。他の人には秘密にしてね?」
ゲーティアさんはシーっと人差し指を立てて片目を閉じ、同性のあたしでも見惚れるほどの笑みを浮かべた―――。
ゲーティアはアレとアレが絡まなければ、基本的には遊び心のある明るい女性です。
アレとアレとは、まあ……アレとアレです(どれとどれ?)。
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