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第弐話 依頼

前回のあらすじ

依頼主が来た

 

 この世界には、冒険者という存在がいる。

 彼ら彼女らは様々なジョブに就いて、ソロで活動したりパーティーを組んだりする。


 一般的なジョブとして、剣士や魔法使い、弓使いやレンジャーなど多岐に渡る。

 その他にも禁忌指定ジョブなんてモノもあったりするけど……それは割愛しよう。


 そしてあたしは便利屋を営む前は、冒険者として活動していた。

 一応剣士のジョブだったけど、愚直に剣の道を極めていたら、冒険者達の頂点であるSランクにまで駆け上がっていた。


 昔は、Sランク冒険者はそのジョブの『王』と呼ばれていたけど、第一次人魔大戦の後にその制度が変更された……らしい。

 そして変更後は、Sランクに昇格した冒険者個々人に、冒険者達を束ねる組織である冒険者ギルドから『二つ名』が贈られることになった。


 それであたしが冒険者ギルドから賜ったのが――『剣聖』という二つ名だった。

 ……少なくとも、()()()は―――。




 ◇◇◇◇◇




 ミオが淹れてくれたお茶を啜り、喉を潤す。


 ……茶葉を変えたのかな? いつもより少し渋い。


 そんなことを思いつつ湯呑みをテーブルの上に置き、異国から訪れた依頼主の顔を真っ直ぐに見据える。


「……人違いじゃないですか? あたしはこの繁盛してない寂れた便利屋の、しがない女主人ですよ?」


 自分で言って何だけど、少し泣きたくなってきた。

 冒険者時代に貯めに貯め込んだ貯金があるから、まだどうにかなってるけど、先行きが不透明なことには変わりなかった。


 ……いざとなったら、身体で稼いで来よう。

 まだ冒険者カードは有効だった、ハズ……。


 そんなある意味どうでもいいことを考えていると、帝国のお姫様は姿勢を正してあたしの顔を見つめ返す。


「ご謙遜を。貴女様の勇名は帝国まで轟いておりますよ。凛とした佇まいは、まるで黒百合のようだと」

「……凛とした?」


 シェリル様の言葉に反応して、ミオが怪訝な視線をあたしに送ってくる。

 ミオの言いたいことも分かるけど、あたしも影でそう呼ばれてたなんて初耳だった。


 ミオの視線を半ば無視しつつ、シェリル様に用件を尋ねる。


「……それで、シェリル様。本日はあたしにどういった用件で?」

「マヤ様は、『百魔夜行』という言葉をお聞きになられたことはございますか?」

「噂程度ですが」


 百魔夜行というのは、最近巷を騒がせている怪奇現象のことだった。

 温厚な性格の魔物が突如凶暴化したり、本来の棲息域を大きく逸脱した個体が次々と現れるらしい。


 その様子から、サクラ皇国で昔から語り継がれている物語の一つである『百鬼夜行』に掛けて、『百魔夜行』と呼ばれるようになった……らしい。

 又聞きの又聞きだから、詳しいところは分からない。


「それで十分です。我が国でも百魔夜行は発生していて、長らく原因は不明でした。ですが……その原因と目される魔物を発見することが出来たのです。……偶然ですけどね?」

「それで……その原因となった魔物とやらは?」


 あたしはテーブルの上に置かれているお茶請けの容器から、煎餅を一枚取り出しつつそう尋ねる。

 するとシェリル様の口から、予想だにしない名前が飛び出してきた。


「ナイトメア」

「………………は?」


 相手が高貴な身分のお方だということを忘れて、あたしは素で聞き返していた。


 ……いやいや、そんなまさか。何かの聞き間違いでしょ、きっと。


 そう願いつつ、あたしは煎餅を容器に戻してからもう一度聞き返す。


「すみません。上手く聞き取れなかったみたいです。もう一度言っていただけませんか?」

「ええ、いいですよ。百魔夜行の原因と目されているのは、ナイトメアと呼ばれる魔物です。冒険者であったマヤ様には、聞き馴染みのある名前では?」


 シェリル様の仰る通り、とても聞き馴染みのある名前だった。……悪い意味で。


 冒険者に最高ランクのSから最低ランクのEまでランクが分かれているように、魔物にも危険度ごとにSからEまでのランク付けがなされている。


 その中でも最も危険度の高いSランクの魔物は、Sランク冒険者が十人単位でパーティーを組んで、ようやく討伐出来るかどうか五分五分となるくらいには危険な魔物だった。


 代表的な魔物としては、グリフォンやワイバーンエンペラーがいる。

 そしてナイトメアも、そのSランクの魔物だった。


「そしてここからが本題です。私達は近々、各地のSランク冒険者を招集してナイトメアを討伐したいと考えております。……ですのでマヤ様。私達が結成する討伐隊に参加していただけませんか? 報酬は弾みます。これは前金です」


 そう言ってシェリル様は、腰に吊るしたなんでも収納出来る機能を持った魔法袋の中から、一つの麻袋を取り出す。

 それがテーブルの上に置かれると、ゴトリと重々しい音とカチャカチャという金属音が響いた。


 確認するまでもなく、大金が詰まっていることだろう。

 目算だけど、ミオとの二人きりの生活が多少は楽になるくらいには。


 でも……。


「お断りします」


 あたしはキッパリと、拒絶の言葉をシェリル様に告げた―――。






マヤの意図とは……?




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