第拾捌話 船旅
前回のあらすじ
ゲンブ島に向かおう
ビャッコ島からゲンブ島まで向かう経路は、大きく分けて三つ存在する。
一つ目は、海峡を渡りつつセイリュウ島経由で陸路で向かう経路。
これはとても時間が掛かるから真っ先に除外した。
二つ目は、セイリュウ島の西を回る海路。
時間的には最速で目的地に着くけど、その海路は波が荒々しい事で有名だった。
あと、その辺りの海域は海賊がよく出没する事でも有名だった。悪評と言ってもいい。
三つ目は、スザク島とセイリュウ島の港町を経由して、東回りで向かう海路。
西回りの海路より少し時間が掛かってしまうけど、道中の危険はほぼ皆無だった。
と言うのも、自警団を称する海賊が、その辺りの海域を支配していたからだった。
敵対的な行動をしない限り手を出してこないので、西の海賊よりは幾分かマシだった。
まあ……通行料として積み荷を幾つか持っていかれる事もあるらしいけど、自分の命と天秤に掛けたら安いモノだろう。
そんな訳で、あたしは三つ目の経路を選択した。
とある問題から目を逸らしながら―――。
◇◇◇◇◇
三日後―――。
「「うぷ……」」
レイとミオは顔を真っ青にして、欄干に手を付きながら盛大に船酔いしていた。
こうなる事は予想していたから、お詫びも兼ねてあたしは付きっきりで二人の妹の介抱をする。
あたし達はゲンブ島行きの客船に乗っていた。
他にも乗客はいるけど、船酔いしてるのは見たところレイとミオの二人だけのようだ。
すると、軽装のミアンちゃんがあたし達に近付いてきた。
「あの……その二人はどうしたの?」
「乗り物酔いする体質だから、絶賛船酔い中なの」
レイとミオの背中を擦りながら、あたしはミアンちゃんの質問に答える。
同い年だからと、ミアンちゃんからお互いに敬語は無しで話そうという提案を受けていた。
その提案を、あたしは快く引き受けた。
あたしの返事を聞き、ミアンちゃんはうんうんとしきりに頷いている。
「そうなんだ。……あ。だったらコレが効くかな?」
そう言うと、ミアンちゃんはごそごそと魔法袋の中をまさぐる。
そして薄い紙に包まれた粉薬を二つ取り出す。
「最近、アタシ達の国で流通し始めた、乗り物酔いに効果があると言われてる粉薬なの。その二人に効くかどうかは分からないけど、使う?」
「そんな魔法みたいな薬があるの!? あ……いや、でも……そんな薬、お値段が張るんじゃないの?」
恐る恐るそう尋ねると、ミアンちゃんは首を左右に振る。
「ううん。そんな事はないよ。ソロモニアだと、一般家庭にまで普及してるから」
「……最近流通し始めたんだよね? 普及速度速くない? というか、供給速度は追い付いてるの?」
「そこが不思議でねぇ……。ある日突然流通し始めたと思ったら、今の今まで供給が滞った事が一度として無いのよ。そこが不気味と言えば不気味かな? ……でも安心して。この薬におかしな成分が配合されてない事だけはもう確認済みだから」
「……それじゃあ有り難くもらうね」
お礼を言って、ミアンちゃんから粉薬を受け取る。
レイとミオの介抱を少しの間ミアンちゃんに任せ、あたしは食堂に向かい湯呑みに入ったお水を二つ貰ってくる。
そして妹達の下へと戻り、お水を渡してから粉薬を飲ませる。
二人共とても苦そうに顔を歪める。
良薬は口に苦しとも言うし、少しは我慢してもらおう。
薬の苦味を掻き消すように二人はお水をごくごくと勢い良く飲むと、さっきよりも幾分か顔色が良くなっていた。粉薬は即効性もあるらしい。
……ホント、いったい何処の誰がこんな夢のような薬を開発したんだろう?
直接感謝……は言えないから、念だけ送っておこう―――。
◇◇◇◇◇
マヤおねえちゃんがミアンさんから貰ったお薬が効いてきたのか、船酔いは大分楽になった。
それと、少し眠くなってきた。
レイおねえちゃんと一緒に、わたし達の客室へと向かう。
マヤおねえちゃんは心配そうな顔をしていたけど、わたしもそこまで子供じゃないから客室までは自分の足で戻れる。
そう思っていたけど……。
「うっ……」
壁に手を付き、目をゴシゴシと擦る。
目を開けているのも辛いくらいに、強烈な眠気に襲われる。
見ると、レイおねえちゃんもわたしと似たような状態だった。
「大丈夫?」
すると、いつの間にそこにいたのか、わたし達の目の前に桃色の髪をした、とても綺麗な女の人が立っていた。
彼女の背後には、同じ顔をした、透き通るような水色の髪をした女の人も立っていた。双子、なのだろうか……?
「えっと……大丈夫……」
大丈夫です、と答えようとした瞬間、船が大きく揺れた。
その拍子に姿勢を崩して、二人して前のめりに倒れる――けど、桃色髪の女の人がわたしとレイおねえちゃんの身体をしっかりと抱き止めてくれた。
「本当に大丈夫? 良かったらわたしが、貴女達の部屋まで連れていってあげるけど?」
「……お願いします」
知らない人に付いていっちゃダメだよって、マヤおねえちゃんからは言われていた。
でも、この女の人からはそんな危ない人のような気配はないから、女の人の提案を受け入れた。
それから、女の人に身体を支えられながら、わたしとレイおねえちゃんは無事に客室へと辿り着いた。
そしてすぐに布団に横になり、身体を休める。
……あ。あの人の名前を聞くの忘れちゃった……。
眠りに就く間際、そんな事を思い出していた―――。
ええ、はい。
とうとうこの作品にも、例のあのキャラが登場です。
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