第拾漆話 新たな来訪者
前回のあらすじ
マヤとレイが邪魔物退治をした
翌日。
いつも通り(?)お昼過ぎに起きたあたしは、朝食兼昼食を食べた後、ぶらりと街中を散歩する。
顔見知りの人達とすれ違い様に挨拶しながら歩いていると……。
「ど……退いてください〜!」
そんな、切羽詰まったような声が聞こえてきた。
でも……前後左右を見回しても、声の主は見つからない。
するとフッと、影が差した。
思わず上を見上げると――人を背中に乗せたワイバーンが、あたし目掛けて墜落しているところだった。
「《ブラッディスフィア》!」
ただ事じゃないと思い、あたしは赤い球体を生み出して緩衝材にする。
ワイバーンは球体にぽよんと不時着する。背中にいる人も、無事なようだった。
あたしはゆっくりと球体ごとワイバーンを降ろすと、ワイバーンの背中から人が飛び降りてあたしの方に駆け寄ってくる。
その人は赤い髪を頭の後ろ辺りで高く結い上げ、瞳は髪と同じ色、そしてまだあどけなさの残る幼い顔付きをしていた。
けれども、そんな可愛らしさを打ち消すかのように、赤髪の女の子はいかにも性能の高そうな鎧を身に纏っていた。
ガチャガチャと音を鳴らしながら駆けていると、赤髪の女の子は突然転んだ。
「ぶへっ!」
「…………………………大丈夫ですか?」
色々と起き過ぎて感情が追い付いていない頭で何とか無事を確かめる言葉を発すると、女の子は鼻を擦りながら顔を上げる。
「イテテ……はい、大丈夫れす。いつもの事なので」
それはそれで心配になるけど……本人が気にしてないなら大丈夫、なのかなぁ?
女の子はパンパンと鎧と服に付いた砂を落とし、立ち上がる。
そして右手を左胸に当て、堂に入った所作でお辞儀をしてくる。
「先程は助けていただき、誠にありがとうございました」
「いえ……あたしに出来る事をしたまでですよ」
「そうですか。……話は変わるのですが、この街にマヤ・スメラギという方はいらっしゃいますか?」
目の前にいるのがその本人です、とは即答出来なかった。
あたしの名前と顔が一致してないことから、女の子が街の外から来た事は十中八九間違いない。
そうなると問題は、なんでこの街に来たか、だけど……。
「……一応聞きますけど、彼女に何の用ですか?」
「あ〜……え〜っと、それは……」
途端に女の子は口ごもる。
怪しい。怪し過ぎる。
用件を口に出来ないということは、後ろ暗いことなのかな?
そう思っていたけど、違った。
「その……アタシも用件は詳しくは知らないんですよ。アタシが仕えてる主が、その人に用があるからと言っていただけで……」
その言葉に、あたしは思わず膝から崩れ落ちそうになった―――。
◇◇◇◇◇
女の子はミアン・スレイプニルと名乗った。
ミアンちゃんは竜騎士で、あのワイバーンは彼女の従魔らしい。
竜騎士は現代ではとても珍しい、魔物を従える事の出来る唯一のジョブだった。
大昔には魔物使いと言うジョブがあったけど、このジョブは冒険者ギルドから禁忌指定ジョブに認定されているから、何人足りとも名乗る事を許されていない。
そんなミアンちゃんだけど、あんな見た目でもれっきとした成人女性だった。ついでに、あたしと同い年だった。
十五才を迎えれば成人するけど、ミアンちゃんの見た目はどう見ても十二、三才くらいだった。
だけど、鎧を脱いだミアンちゃんの胸元は、大きく隆起していた。
そこだけが、彼女を年相応に見せている部分だった。
それよりも、スレイプニルって言う家名は……。
「粗茶ですが……」
「ありがとうございます」
ミオの淹れてくれたお茶を、ミアンちゃんは笑顔で受け取る。
あの後、あの場にいつまでもいるのも他の人の邪魔になると思い、あたしの家へと案内した。
道中、あたしが彼女の探し人であることも打ち明けた。
ミオの淹れたお茶を一口啜り、あたしはミアンちゃんに尋ねる。
「スレイプニルって言う家名は、確か……ソロモニア王国の御三家の一つ、ドラグナー家に仕える筆頭貴族じゃありませんでしたか?」
「お詳しいですね?」
「これでも冒険者だったモノで」
「そうですか」
ミアンちゃんは納得したように頷く。
「話を戻しますけど……その筆頭貴族に名を連ねる貴女が、どうしてこの街に? ……って、あたしを探してたんでしたっけ」
「はい」
「でも、貴女の主……多分ドラグナー家の方なんでしょうけど、その主があたしを探してる理由は知らない、と……」
「そ、そうですね……」
ミアンちゃんはバツが悪そうに目を逸らす。
「……念のため聞きますけど、その主は今何処に?」
そう尋ねると、ミアンちゃんは姿勢を正す。
「アタシが仕える主は――ゲンブ島に滞在なされてます。可能であれば、アタシと共に来てくださいませんか?」
へっぽこ……訂正、ドジっ子竜騎士の登場です!
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