第拾伍話 新しい・・・
前回のあらすじ
トウコとトウヤが撤退した
トウコとトウヤが飛び去ったのを確認した後、あたしは魔獣化を解除する。
それに伴って、紙色と瞳の色が元の黒色へと戻った。
それから《付喪紙》の媒介となっているお札を回収し、ミオが閉じ込められている檻の方を振り向く。
「ちょっと待っててね」
そう告げてから、刀を振り下ろして錠前を破壊する。
バキンという音と共に真っ二つになった錠前が地面を転がり、檻の扉が解放される。
そこからのろのろと、ミオが出てきた。
「おねえちゃん……」
「大丈夫、ミオ? 怪我とか、変な事とかされてない?」
「うん、大丈夫。でも……わたし、本当に『百魔夜行』の原因なの? そんな存在が、生きてていいの……?」
今にも泣き出しそうな顔をしているミオを安心させるように、あたしは彼女を優しく抱き締める。
「生きてていいのよ。いや……生きてて欲しいの。ミオはあたしの大切な、とても大切な可愛い妹だから」
「うん……」
ミオはあたしの胸元に顔を埋め、背中に腕を回してぎゅっと抱き着いてくる。
しばらく抱擁した後、あたしはレイの方を向く。
レイは虚ろな目をしたまま、空を眺めていた。
まだ戦闘意欲があった場合に備えて刀はまだ納めていなかったけど、その心配も無さそうだった。
《ブラッディソーン》を解除してレイの拘束を解くと、彼女はのろのろと上体を起こす。
「なんで……ボクの拘束を解いたの?」
「貴女にもう敵意がないように思えたから。それに、いつまでも女の子を縛り上げておく趣味、あたしにはないから」
「……拘束を解いた瞬間、襲い掛かるとは思わなかったの?」
「そんな酷い顔をしてる人に、そんな気力があるとは思えないわよ」
「そっか……」
そう呟くと、レイは持っていた短剣を逆手に構えて、自分の喉元に……って!? ちょっと待って!?
あたしは慌てて、《ブラッディソーン》でレイの腕だけを拘束する。
「ちょっ……ちょっと!? 何してるのよ!?」
「何って……主に見限られたから、自害しようとしただけだけど……」
「……レイは悔しくないの? 自分を見限ったアラハバキに復讐したいとか、そう思わないの?」
「思ったところで、どうせボクは試作品なんだ。トウコやトウヤ、ミオみたいな正規品に比べれば……ボクは、弱い」
「なら、あたしがレイを鍛えてあげる」
そう言いながら、レイの前に膝を着く。
そして《ブラッディソーン》を解除し、短剣から彼女の指を一本一本剥がしていく。
「だから、こんなところで死んじゃ駄目」
「でもボクは……出来損ないの人造人間だし……それに、切り裂き魔だし……」
「確かに罪はいつかは償わなくちゃいけないわ。でもそれは、別に後回しでも良いの。今しか出来ないことをやった後に、きちんと償えばいいの」
「いいの……? 出来損ないの人造人間が、見限った主に復讐しようとしてもいいの……?」
「いいのよ」
レイの手から短剣を取り上げ、あたしは優しく微笑む。
レイはくしゃっと顔を歪めると、ぽろぽろと大粒の涙を流す。
レイの身体を優しく抱き締めながら、彼女の気の済むまで胸を貸していた―――。
◇◇◇◇◇
「そんな事があったんですね……事情は大体理解しました」
「あはは……」
三ヶ月後。
予想よりも長いお使いから戻ってきたあたし達は、お使いが無事に完了した事をマユリさんに報告していた。
マユリさんはあたしの左隣を見てニヤニヤと、あたしは苦笑いを浮かべる。
レイの攻撃で一部損壊したアサギさんの家は再建され、ついでにちゃっかりと部屋を増築していた。
抜け目がないというか、なんというか……。
勿論増築分も、あたしがちゃんと支払った。
迷惑料にしてはやや高額だけど、仕方ない。
必要経費として割り切る事にした。
レイは、あたし達についてくることになった。
それ以来、楓の街に切り裂き魔が現れることは二度と無かった。
でも……。
あたしはちらりと、左隣に目を向ける。
レイはニコニコと、あたしの左腕に抱き着いていた。
あの日以来、レイはあたしの事を「ねえさん」と呼び、慕ってくれていた。
それは良いんだけど、レイは片時もあたしの傍を離れようとはしなかった。
食事時やお風呂、就寝時はまだいい。
あたしが厠に用を足しに行く時にも、レイはついてきていた。
流石に見過ごすことは出来ず、その時はレイを軽く叱った。
その結果、レイは厠までついてくることは無くなったけど、それ以外の時に甘えてくることが多くなった。
だからなのか、レイとミオはしょっちゅう姉妹喧嘩をしている。主にあたしに甘えることについて。
姉としては二人共仲良くして欲しいけど、喧嘩の原因があたしにあるから何とも言えなかった。
現に今も、あたしを間に挟んでひそひそと言い争いをしている。
「……レイおねえちゃん! マヤおねえちゃんにくっつき過ぎ!」
「……ミオだって、ねえさんにくっつき過ぎじゃないの?」
「……わたしはこれが普通だもん!」
「……ボクだってこれが普通だよ」
「「……む〜……」」
……喧嘩はあたしのいない所でやって欲しい。
そんな思いが顔に出ていたのか、マユリさんが面白可笑しそうにくすくすと笑う。
「モテモテですね、マヤさん?」
「仲良くして欲しいんですけどね……」
それから雑談をした後、あたし達はマユリさんの下を後にする。
そして新しい家族が一人増え、あたし達は我が家へと帰って行った―――。
次回から新章です!
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