第拾参話 剣魔VS人造人間Ⅰ 前編
前回のあらすじ
最高傑作はミオだけじゃない
あたしは油断無く刀を構え、相手の出方を窺う。
「最高傑作? それはミオのことじゃないの?」
「ミオも最高傑作だが、別に最高傑作は一つだけという決まりはないだろう? それにこの二人とミオは、方向性が異なる個体だ。その分、最高傑作が何体も生まれてもおかしくはないだろう?」
「……そうね。おかしいのはアンタの頭くらいね」
そう言った瞬間、トウコと呼ばれた個体があたしの懐に潜り込んできた。
そして大剣を、大きく横に振ってくる。
「《ブラッディスフィア》!」
あたしは鮮血魔法で真っ赤な球体を生み出し、トウコの斬戟を防ぐ。
ぐにょんと球体が大きく歪むけど、それだけだった。
トウコは大きく飛び退くと、怒りの籠った視線をあたしに向ける。
「……主のことを悪くいうな、このクソ女が」
声はとても可愛らしいのに、言葉遣いがとても汚かった。
なんと言うか……顔がミオに似ているからか、反抗期のミオに怒られているような気分になる。
ミオも反抗期を迎えるとあんな口調になってしまうかもと考えると……おねえちゃんはちょっと悲しい。
……いや! まだ大丈夫!
あたしがミオを清廉清楚に育てていけば、何の問題もない!
その前に、ここからミオを無事に救出するという大きな問題があるけども……。
「クソ女とは非道いわね。アタシがクソなら、そこの科学者はドが付く畜生よ」
「……否定はしない。拙も主は世間一般で言うところの外道だという認識だ」
「ちょっと、トウヤ!?」
すると意外なところから援護が来た。
トウコがものすごい形相でトウヤを睨むけど、彼は何処吹く風とでも言うように飄々としていた。
でも、顔は薄ら笑いを浮かべていても、目は笑っていなかった。
「けれど、主には大いなる義と、拙達をこの世に産んでくれた恩がある。その為に拙は主のことを命を賭けて守り通す。主を邪魔する者は、善人だろうと悪人だろうとただただ叩き斬るのみ。たとえそれがSランク冒険者であろうとも」
トウヤはそう言うと、ゆらりと両腕を上げて剣を構える。
その構えに、一分の隙も見受けられなかった。
「トウコ、トウヤ。しばらく『剣魔』殿と遊んであげなさい。私が逃げ仰せるくらいの時間だけでいい」
「承知」
「……レイ姉さんはどうするんですか?」
「『処分』しておけ。アレは私にも、お前達にももう必要のない存在だ」
「分かりました」
トウコが頷くと、白衣の人が影の濃い方へと踵を返す。
「待ちなさい!!」
「待たない。……ああ、そうだ。最後に一つ、言い忘れていたことがあった。私の名はアラハバキ。もし機会があれば、また逢おう。……そんな機会は永劫訪れないと思うがね」
そう言い残すと、白衣の人―アラハバキは闇の中へと消えて行った。
この場に残されたのはあたしとミオ、アラハバキの手の者であるトウコとトウヤ、それとアラハバキに見限られた、未だに地面に縫い付けられているレイだけだった。
すると、トウコとトウヤが同時に動いた。
トウヤはあたしの方に。
そしてトウコは――自らの姉を『処分』するために、レイの方に。
「……っ! 《ブラッディスフィア》!」
もう一度鮮血魔法を発動させて、真っ赤な球体を生み出す。
けれどそれは、トウヤの斬戟を防ぐためではなかった。
トウコの振り下ろした大剣を、真っ赤な球体が防ぐ。
命を救われたレイは、驚いたような視線をあたしに向けてくる。
「なんで……ボクを、助け……?」
「救える……命は……救うのが……信条だからよ!!」
トウヤの斬戟を手に持った刀で捌きつつ、レイの問い掛けに答える。
アラハバキが戦闘能力では最高傑作と言うだけあって、トウヤの剣捌きはSランク冒険者であるあたしにも引けを取らなかった。
そしてトウコもトウヤと同等の能力があるんだから……二人を相手するのはとても骨が折れる。
レイの『処分』は難しいと判断したのか、トウコがトウヤに加勢する。
先にあたしを始末するという算段を立てたのだろう。
そう簡単に始末出来るとは思わないで欲しい。
「《ブラッディソード》!」
再び赤い剣を生み出し、《付喪紙》と共に二人の人造人間の方へと飛ばす。
《ブラッディソード》はある程度あたしの意思で操作出来るけど、《付喪紙》は完全に独立した動きをするから、そんなに負担はない。
けれど、十を超える剣を前にしても、トウコとトウヤはとても落ち着き払っていた。
その理由がすぐに分かった。
二人は、あたしの目でも辛うじて捉えられるくらいの速さで動き回ると、赤と白の刀剣を一本残らず叩き折ってしまっていた。
その速さを目の当たりにして、あたしは驚きを隠せないと同時に、一筋の冷や汗が頬を伝う。
……あの二人、あたし一人だけで抑えられるかな?
Sランクの魔物と直面した時以上の緊張感を、あたしはひしひしと感じていた―――。
アラハバキの性別は……読者の想像に任せます。
評価、ブックマークをしていただけると嬉しいです。