表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/26

第拾弐話 剣魔

前回のあらすじ

マヤは吸血族と妖族のハーフ

 

「……その二つ名で呼ばれるのも、随分と久しぶりね」


 油断無く刀を構えつつ、あたしは相手の出方を窺う。

 切り裂き魔の方は白衣の人を守るように立っており、白衣の人も何処か余裕綽々な態度を崩さないでいた。

 隠している手札があることは、確定的に明らかだろう。


「それで……そんな『剣魔』殿がこんな所にどういった用事で?」

「白々しいな。アタシはミオを助けに来ただけよ。ついでにミオを誘拐したアンタらを血祭りに上げることくらいね」

「お転婆と言うには少々野蛮では?」

「どうでもいい。アタシはミオを助け出して、アンタらを殺す。ただそれだけの話よ」

「だが……貴殿が救出しようとしているそこの少女は……」

「……っ!? おねえちゃん! 聞かないでっ!!」

「人造人間だって言うんでしょう? 知ってるわよ、それくらい」

「えっ……?」

「は……?」


 あたしの返しが意外だったようで、ミオと白衣の人はすっとんきょうな声を上げる。

 切り裂き魔も声は出していないけど、驚いている様子だった。

 そんな彼女達を放っておき、あたしは続ける。


「ミオがワイバーンエンプレスとナイトメアの能力を掛け合わせて造られてることくらい、ミオと出逢った時に気付いてたわ。そして――『百魔夜行』の原因であることにも」

「そう、なの……?」


 あたしの告白に、ミオが信じられないといった様子で呟く。

 あたしはミオの方を振り向き、妹を安心させるために笑みを浮かべる。


「安心して、ミオ。あたしがミオのことを絶対に守るから。『百魔夜行』の原因だとしても、誰にもミオに手出しさせないから」

「――それは生きていたらの話だろう」


 すると、切り裂き魔があたしの懐へと潜り込んでいた。

 そして短剣を突き出してくる――けど、《付喪紙》が自動で防御してくれた。

 あたしは切り裂き魔の方を振り向き、意識を瞬時に切り替える。


「……せっかちね。そんなにアタシに殺されたいの?」

「殺されるのはお前の方だ! 《ウインド……》」

「《ブラッディランス》!」


 切り裂き魔が魔法を唱えるよりも早く、あたしは鮮血魔法を発動させる。

 赤い剣が槍の形へと変化し、切り裂き魔の身体に突き刺さる。


「がっ……!?」


 魔法の発動を中断され、切り裂き魔は血反吐を吐き出して地面に仰向けで倒れる。

 あたしは続けざまに《ブラッディソーン》を発動させ、今度はツタへと変化した槍が切り裂き魔の四肢を拘束する。


 鮮血魔法は、一つの鮮血魔法が他の鮮血魔法発動の起点にもなるから、使い勝手の点で言えば、あたしは攻性魔法よりも使いやすかった。


「レイが手も足も出ないとは……『剣魔』の異名は伊達ではないということか」

「おだてた所で、アンタを殺すことに変わりはないわ」

「おだてているわけではないよ。事実を確認したまでだ。やはりレイは、試作品は試作品でしかないというわけか。そこの私の最高傑作と違って」

「あ、るじ……? 何を、言って……」


 切り裂き魔―レイが仰向けのまま、自らの主にすがるような眼差しを向ける。

 けれど白衣の人は、ゴミでも見るような眼差しをレイに向ける。


「レイ。お前は用済みだ。何処へなりとも行き、そして朽ち果てるがいい」

「用済み……? ……嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!! ボクはまだ戦える! まだ役に立つ!! だから主、ボクを見捨てないで!!」


 レイがそう泣き叫ぶけど、白衣の人の耳には届いていないようだ。

 ほんのちょっとだけ、レイのことが気の毒だった。


「さて……私は退散したいのだが?」

「……はいそうですかって言って、見逃すとでも思ってるの?」


 刀を肩の高さまで上げ水平に構え、あたしはそう告げる。

 するとあたしの言葉を予想していたのか、白衣の人はわざとらしく肩を竦める。


「思わないな。だから――手を打たせてもらう」


 白衣の人がパチンと指を鳴らすと、あたしの背後から急に人の気配が現れた。それも二つ。

 《付喪紙》が一斉に背後の気配へと襲い掛かるけど、手応えはなかった。


 その隙にあたしは地面を蹴り、翼を羽ばたかせて最短最速で白衣の人へと接近する。

 そして速さの勢いも乗せた突きを繰り出す――けど、大剣と二振りの長剣によって防がれてしまった。


 あたしは瞬時に距離を取り、新たな人影へと目を移す。


 大剣を構えているのは、ミオと何処と無く似ている、ミオよりも少し年上の少女だった。

 その少女の背中からは、鳥のような翼が生えていた。


 二振りの長剣を構えているのは、竜の翼を生やした、片目を前髪で隠している少年だった。

 年の頃は、大剣の少女とそう変わらないだろう。


 白衣の人は、まるで我が子の自慢でもするかのように両腕を大きく広げる。


「『剣魔』殿に紹介しよう。この子達は製造番号十五番と、十八番。個体名、トウコとトウヤだ。戦闘能力を極限まで高めた、私の最高傑作達だ。そして――製造番号三十番、個体名、ミオの兄姉きょうだいでもある」






別に最高傑作は一つだけとは言ってませんよね?




評価、ブックマークをしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ