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第拾壱話 本当の二つ名

前回のあらすじ

マヤ、参上!

 

 あたしは正真正銘生粋の魔族だけど、少し特殊な存在だった。

 妖族の血は確かに流れているけど、あたしにはもう一つ、吸血族の血も流れていた。


 ハーフの魔族なんて珍しくはないけど、あたしみたいに両方の種族の能力を十全に発揮出来る者は数少ない。

 大抵はどちらかの種族の能力、もしくは片方の能力は完全に、もう片方の能力は不完全に発揮する場合がほとんどだった。


 だからなのか、あたしの魔獣化は他の人と大分異なっていた。

 背中からコウモリのような翼が生えるのは、吸血族の魔獣化の特徴と一致するけど、その際に額から角が生え、髪色と瞳の色も変化する。


 後者の変化は妖族の特徴だけど、あたしは本来であればマユリさんと同様、通常時から額に角が生えてないとおかしかった。

 と言うのも、スメラギ家のニンゲンの大半は、お伽噺に出てくるような鬼のような特徴を持って産まれてくる。


 稀に妖弧や雪女みたいな、お伽噺でも有名な妖怪の特徴を持って産まれてくるニンゲンもいるけど、それが妖族という種族の特徴だから別におかしくはなかった。


 でもあたしは違った。

 吸血族とのハーフだからそんなことになってると思っていたけど、どうやら違うらしい。


 あたしの妖族としての特徴の元となっているのは、「夜叉」と呼ばれる鬼の上位存在らしい。

 その特徴が、白い髪と赤い目をしていることだった。


 だからか、魔獣化すると、少し、その……内に秘めている凶暴性が顔を覗かせる。

 それにつられるように、口調も少し荒っぽくなる。


 でも、種族の能力としては、最高と言っても過言じゃないほど相性が抜群だった。


 吸血族は固有魔法の鮮血魔法の他に、《エナジードレイン》という相手の魔力を吸収する特殊能力がある。

 この能力があるおかげで、あたしは魔力消費量の多い《付喪紙》を連発することが出来ていた。


 この能力は汎用性も高く、あたしがよく使う鮮血魔法を発動するための魔力を賄うのにも一役買っていた。


 例えば、こんな風に―――。




 ◇◇◇◇◇




 アサギさんの家を発つ時に発動させていた魔獣化を維持したまま、あたしは目的地に向かって全速力で飛んでいた。

 行く手を阻む邪魔物を倒しつつその都度魔力を奪い、あたしは魔力消費をほぼゼロに抑えていた。

 《付喪紙》の刀を十二本にまで増やしていても、残存魔力に余裕があった。


 すると、目的地の付近に一体の邪魔物がいた。

 その魔物はキメラと呼ばれる魔物で、色んな魔物・動物の特徴を掛け合わせているので、同一の個体は存在しないとまで言われていた。


 あたしの目の前に立ち塞がるキメラは、ライオンの胴体にワイバーンの翼、それとポイズンスコーピオンと呼ばれる毒サソリのシッポを持つ個体だった。

 それとやっぱり、全身を黒い靄が覆っている。


「邪魔だ! 《ブラッディソード》!!」


 あたしは《付喪紙》の刀を飛ばしつつ、鮮血魔法も発動させる。

 あたしの発動させた鮮血魔法は単純なモノで、血で出来た剣を生み出すといったモノだった。

 普通は二、三本だけど、あたしは一度に十二本もの剣を生み出していた。


 赤と白、計二十四本もの刀剣がキメラに襲い掛かる。

 あたし自身も刀を構え、キメラに突撃していく。


 キメラは反撃しようとしているけど、赤と白の刀剣が次々とキメラの体に傷を付けていく。

 キメラの背面まで来ると同時に、あたしは刀を逆手に構えてキメラの背中に突き立てる。

 それと同時に、赤と白の刀剣もキメラに突き刺さる。


 ズンッ!! という振動と共に、キメラの立っていた地面が陥没する。

 魔獣化しているから転落死するようなことはないけど、落下時間はそんなに長くはなかった。


 あたしの攻撃と落下の衝撃で、キメラは絶命していた。

 赤と白の刀剣をキメラの体から引き抜き、あたしの握っている刀も引き抜きつつ周囲の状況を確認する。


 目の前には白衣を着た人と、あの切り裂き魔。

 それと、檻に入れられているミオの姿があった。


 ミオがまだ生きていたことに一安心すると同時に、あたしの冷静でない部分が憤怒によって激しく燃え盛っていた。

 あたしは背中の翼を羽ばたかせると、有無を言わさず白衣の人に斬り掛かる。


 けれど、切り裂き魔があたしと白衣の人の間に割って入り、あたしの斬戟を防ぐ。

 だけど、あたしには二十四の刀剣がまだ残っていた。


 それらを操り、切り裂き魔と白衣の人を突き刺すように操作する。


「《ウインドバースト》!」


 けれども、切り裂き魔の放った風属性超級魔法によって軌道を逸らされてしまった。

 これ以上は分が悪くなると思い、あたしは切り裂き魔達から一旦距離を取る。

 そしてミオを守るように、檻の前に立ち塞がる。


 すると白衣の人が、何故だか拍手をする。


「これはこれは……なかなか面白いゲストが来たじゃないか。貴女の噂は耳にしてますよ、『剣魔』殿」


『剣魔』。

 それが、あたしの()()()二つ名だった―――。






今まで書いてきた女キャラの中で二、三を争うくらいには設定を盛っているマヤ。

不動の一位はあの師匠です。




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