第8話 備え故に
若葉杯1回戦翌日、オルトはハンズとマンツーマンで特訓していた。
ハンズが魔弾を出すと、すぐさま劣化させて発射中に潰えていく。
「……相変わらず、とんでもねぇ速さだ。精度も上がってるとはな」
「恐れ入ります。どうしても対人戦は、1人じゃあ練習の仕様がないので」
「その割にはバイトをあっさりと負かしたじゃないか。まぁ、首絞めによる失神なんて思いもしなかったがな……関節技で勝利するなんて魔法学校史上初だぞ」
「仕方ないんですよ、劣化させる以外に頼れるのは自分の肉体だけなので……そこで先生、肉体を強化する方法が知りたいんです」
「……魔法使いなんだから魔法を鍛えろ、と言いたいとこなんだが……」
苦い顔で視線を向け、言葉に困るハンズ。
「身体能力のみで魔法と渡り合う……それがどんなに茨の道か、お前ならわかるだろ?」
「先生、何もパンチやキックで倒そうだなんて思ってないですよ」
「そうだよな、関節技だったもんな」
「そうじゃなくて! 僕は基礎魔法による防御ができませんので、逃げたり、多少喰らっても耐えられる身体がほしいと言いたいんです!」
「なるほどねぇ……」
「あくまで理想論ですが、少しでも勝率を上げたいので」
「そうか……じゃあ筋トレしてだな……」
「やってます」
「……食事はタンパク質とビタミンをだな……」
「摂ってます」
「……じゃあもういいじゃん」
「先生諦めないでください!!」
「と言ってもなぁ、その様だと肉体強化の基礎魔法はダメなんだろ?」
「えぇ。強化どころではなく、下手したら自分の身体が劣化する可能性が高いです」
「そもそも永続じゃないし、身体の負荷は大きいから敬遠される魔法だしな。他に手立てがあるとするなら……」
ハンズは一呼吸沈黙を置いて語る。
「呪法だろうな」
「それは……!?」
自身にとっての何かを犠牲にして成す魔法。イヴの魔法道具化はこの呪法を元に行われたため、オルトにとって因縁深いものだった。
「知ってんだろ? 犠牲にする対価が大きければ大きいほど恩恵を得られる」
「……禁術じゃないですか」
「どうせお前なら辿り着くだろうから、予め言っといたまでさ。ちなみに、発覚したら厳罰対象だ。無茶させないようにと、使用者はいずれも碌な目に合わなくなったからな」
「……そうですよね」
「ま、そういうこった。せっかくの魔法学校なんだから、魔法を鍛えんとな」
「……では先生、神級魔法は使えますか?」
「……お前と話していると、予想外の質問ばっかくるな」
水を飲もうとしたハンズが動きを止めて面食らう。
「下級、中級、上級魔法と分類されるなかでさらにその上……世界に数えるほどしか使える者がいない、人智を超える神級魔法。参考にして目指すとしても、飛躍しすぎじゃないか?」
「基礎魔法が使えない僕にとって、劣化の魔法を昇華させるしかないんです。多芸に秀でるより一芸を極めるしかない」
「極論だな……だが、お前の劣化は上級クラスだ。次のステップへ行くとしたら妥当かもしれんが、分厚すぎる壁になるぞ」
「それで先生に聞きたかったんですけど……」
「あ、そうだったな。マスター候補だからそりゃ使えるよ。まだまだコントロール効かない奥の手だから、お披露目はできんけどな」
「コツとか経緯とか……」
「難しいな……修行で酷使し、散々死線を超えた末に身につけたからなぁ。固有魔法となると、鍛え方も個々で異なる。簡単に教えられんのよ」
「そうですか……でも、体得してる人の貴重な意見を聞けたのはありがたいです」
(しっかし、劣化魔法の先ねぇ……一体どう化けるのやら)
「ついでに、若葉杯2回戦の持ち込む魔法道具をチェックしていただけたら」
「はいはい、どれどれ」
オルトが提示したのは160cm程の杖に、防護性の高いコート。
杖は魔力の出力と精度を上げる。装飾や付与によって様々なカスタマイズができるが、オルトの杖は一切飾りつけなく、シンプルな棒状式。
「へぇ、今回は随分オーソドックスな組み合わせだな。杖にしちゃあ、ちと長めだが」
「魔力を奪われる以上、同じ手は使えないですからね」
「ふむ……コートの防御性能も適正内だな。問題なしだ。さて、そろそろ俺は次の相手をせんとな」
(おそらく、エンリルだろうな)
「ありがとうございました」
「次の試合、楽しみにしてるよ」
片付けをし、オルトは訓練場から出る。どのようにして戦うかは決めていたが、1回戦のように明確な勝ち筋は見出せていなかった。それでも、相手に情報を一切知られていない時点で有利ではあった。
抜かりがないよう、他の代案がないか模索しようと図書館に行こうとすると、見知らぬ男子生徒達に取り囲まれる。
「よぉ、あんな卑怯なやり方で勝って嬉しいか?」
パッと見ただけではわからなかったが、言われた内容でオルトは察する。バイトに取り繕っていた連中だと。
「正々堂々とやっていたらバイトさんが負ける筈ねぇ! それをお前って奴は……!!」
「かもね。だから有利な状況を作ったんだ」
(本当はこれから戦う相手に、魔法を見せたくなかっただけなんだけど)
「一丁前に言いやがって……これが実戦だったら__」
「__実戦だったら、死んでたのはどっちだろうね?」
「は、はぁ!?」
「ルールなんてありやしない。僕らがいずれ戦うのがもし凶悪犯だったら? 惨忍で、負けたらどんな目に遭う? 自分以外にも取り返しのない事態に陥ったら? たらればで、悠長なことは言ってられない。負けないように最善を尽くすべきだ」
「い、いやそんな……流石にそこまで考えるかよ……」
「おいお前ら!!」
言い淀む生徒達に一喝するのは、慕われているバイト本人だった。
「俺の顔に泥を塗るつもりか!? 外野がとやかく言うんじゃねぇ! 失せてろ!!」
「「「す、すいません!!」」」
揃って謝り、颯爽と去っていく生徒達。それに目もくれずにバイトは話しかける。
「悪いな、俺の舎弟達が。手間を取らせたな」
「……いや、ありがとう」
正直に謝られ、オルトは少し困惑する。負けた相手、それも真っ当ではない戦い方したのだ。同様に、少しは反感を買うと思っていたからだ。
「なんだよその表情、俺が文句を言うとでも思ったか?」
「……うん、かなり」
「素直かっ!! 確かに負けた時の記憶はねぇが、あの視界不良のなかで俺のケルベロスを撒いたか、伏せられたんだ。たとえ煙を使われなくても、負けを疑う余地はねーよ」
「ど、どうも……」
「次も勝っちまえよ」
バイトはそれだけ言い残し、背を見せて軽く手を振りながら去っていった。




