第7話 若葉杯
アルストロメリア魔法学校、入学して間もない1年生はある話題で持ちきりだった。志望者による、実力試しのトーナメント戦である若葉杯。
「おい、皆んなは若葉杯どうする?」
「遠慮しとく、優勝と準優勝が決まってるようなもんだ」
「恥かくのは御免だぜ」
出場するかどうか、はたまた誰が出場するか。ただ、入学初日にあったバイトの連勝劇、それに完勝したエンリルを恐れ、志望者はかなり絞られていた。
オルトは図書室で、イヴを元に戻す手がかりを探している最中、トーナメント戦のについての会話が自然と耳に入ってしまう。
(これだけ広大な学校での図書室だ、取り締まるにしても広すぎて手間だろうな……)
オルト自身も出場するにあたって、他の出場者が気にはなるものの、今は人間の魔法道具について調べるのに集中したかった。しかし、収穫はほぼゼロ。
(遥か昔の神々との争いに、人を魔法道具にして戦ったとされている。曖昧なうえに、神話となると創作交じりがほとんどだ。歴史をなぞるより、似たような論文探すにしても……)
魔法を道具に込めるなどはいくらでもあれど、人体そのものを魔法道具にするという非道徳的な研究は、公には存在しない。戻す手段を試しようがなかった。
(唯一の成功例はイヴのみ……魔獣などを魔法道具化して模索していくしか……いや、本人が望む呪法をかけてようやく成功したのに、他で上手くいくのか? ……そもそも、同じ条件にしないと……)
数々の案を考えては、矛盾に気付いて否定する。思わず頭を抱えてしまうほどに。
(奴等と同等の真似はしたくない……! けど、他に手立てが……!)
「どうした? 体調でも悪いのか?」
「うわっ!?」
話しかけられたこと、すぐ近くに人がいたことに素っ頓狂な声をあげてしまう。
「……図書室では静かに」
ボサボサで紺色の髪に疲れてそうな細目、着衣も乱れてる男子生徒に注意される。
(上級生か……?)
「す、すいません……」
「困ったことがあれば、先生と我々生徒会を頼ってくれ」
男はそれだけ言うと、のらりくらりと去っていった。
(生徒会……選りすぐりの実力者だけが所属してる自警組織。いつの間にか、辺りも静かになってるな……流石だけど、言ってることはまともだった割に、だらしない人だったな……)
悩みに悩んでいたが、オルトは平静を取り戻して本を棚に戻していく。
(考えても解決しそうにないなら、今は時間を浪費するだけだ。イヴを元に戻すのは魔法協会に期待しておこう……どのみち、深く足を踏み入れるにはそれなりの資格が必要だ)
頭を切り替え、オルトは図書室を出ていく。若葉杯のエントリーをするために、向かったのは教員室だった。
「あっ」
「ん!? こいつ若葉杯のエントリー用紙持ってるぞ! 出場する気だ!!」
出会ったのはバイトと男子生徒達。
(タイミングが悪かったな……あまり目立ちたくなかったのに)
「…………ってか、こいつ誰?」
「訓練場じゃあ見ねぇ顔だなお前、普通科か?」
(いや同じクラスだが……無理もないか、男子のほとんどはバイトと絡んでて、訓練場に入り浸ってる。おかげで全員の魔法は知れてるけど)
「オルトだ、若葉杯で当たったらよろしくね」
オルト手早く挨拶を済ませ、足早に通り抜けようとするが、阻むようにバイトが前へ立つ。
「なぁ、だったら今の内手合わせしねぇか?」
「いいじゃん! あのバイトさんと直々にやれんなんて光栄だぜ!」
「……悪いけど、断らせてもらう」
(手の内を知りたがってるようには見えない……誇示したいだけだろうな)
「おいおい! お前さぁ、バイトさんはご貴族様なんだぜぇ、そのお誘いを断るなんてさぁ!」
「せっかくの機会なんだ、考え直せって!」
「若葉杯までは誰とも戦わないって決めてるんだ」
「なんだそりぁ!? やる気あんのかよ!?」
「まぁ待てお前ら。なかにはいるんだよ、自分の固有魔法が知られるのを恐れちまう奴、とかさぁ」
「……そう解釈してくれても構わない」
(経験豊富なだけあるな……)
「なら忠告しといてやるぜ、手札が知られてるうえで戦うっていうのも、魔法使いとして必要な過程だ。それにお披露目していざ負けたら、恥ずかしいったらありゃしないぞ」
「たはっ、言えてる!」
「……ご忠告どうも」
(基礎魔法さえ使えてれば、そりゃ経験を積むさ……固有魔法の劣化のみ、しかも人には使えない。晒すのは致命的なんでね、挑発にはのれないな)
「ちょっと男子ぃ! 道を空けなさいよ! 邪魔じゃない!」
女子生徒が怒りの声を浴びせ、一同は声のする方へ顔を向ける。
橙色のポニーテールを靡かせ、可憐な瞳で睨みを利かせていた。
声の主はシャルール・パシオン。その隣にはエンリルもいた。
「エンリルじゃねーか!」
「ちょっと! 注意してんのはアタシ!」
「あぁえっと……失礼、戦ったことのない奴は覚えてなくてね」
「フン! 貴族だかなんだか知らないけど、あんまり威張ってると痛い目みるよ」
「どうかな。こいつにも言ったが、普段から戦ってない奴が本番で実力を発揮できるのは難しいぜ。それよかエンリル、今度はリベンジさせてもらうぜ!」
バイトにとって、エンリル以外は眼中にないよう語り、シャルールは怒りを滲ませる。
「……エンリルだけ見てたら、足元掬われるわよ」
「いやいや、ちゃんと気がかりな奴はいるぜ。入学試験で校長お手製のゴーレムと対峙したろ? 噂によると破壊できたのは2人だけらしい。1人はエンリルだろうけど、残り1人がいるはずだ」
(ん? そのゴーレムを破壊できたのはそんなに少ないのか……でも確かに、攻撃魔法で攻略するのは厳しいか)
「……あ、私は壊せなかった。あれは流石に硬すぎ」
「な、何!? お前じゃないのか!?」
「フッフーン! あたしは壊せたわよ」
エンリルが否定したことにバイトが驚いていると、横からご満悦な顔でシャルールが割って入ってくる。
「な、なんだと!?」
「あらら〜? ひょっとして見る目がないの、君って?」
「う、うるせぇ!」
「まぁまぁ、シャルもその辺にしておいて」
「そうね……大人げなかったわ、誰かさんと違って」
「て、てめぇ……! 若葉杯で泣かない準備をしとくんだな」
「どうかしら、優勝して嬉し泣きしちゃうかも」
2人が一触即発のなか、オルトは止めるべきか悩んでいたら、エンリルが仲裁に入る。
「2人とも落ち着いて……」
「売られた喧嘩は買う主義なんでね……!」
「こっちも舐められるのは性に合わない……!」
「どうせ勝つのは私だから」
「「いい度胸してんな!?」」
(思いのほか、強気だな彼女……)
結局この後、一同は教員から注意を受けて事なきを終えた。




