表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/23

第4話 命のやり取り

 オルトが教会に迎え入れられて1ヶ月が経ち、すっかり子供達とも意気投合していた。食後の食器洗いをしていると、早速催促される。


「オルト兄ちゃーん、遊ぼうよー!」

「ごめんよ、今日はこの後シスターに用事があってね」

「えー!! お姉ちゃんとも遊ぶなんてずるい!!」


「あはは、遊びではないんだ。終わったらやろっか」

「うん! 約束だよ!」


元気に返事をして、庭へと走っていく子供達。その会話を聞いて、隣で皿を拭くソルダが質問する。


「しっかし、あんだけ否定してたのに、よくシスターに魔法を見てもらえるようとり付けたな?」


「……ちょっと躓いちゃってね。原因はなんとなくわかってるんだけど、念のため答え合わせがしたくって。こればっかりは、有識者がいないと進まなくてさ」


「ほーん、たまには善行をするんだな」

「ちゃんとお酒奢ったけどね」

「聖職者辞めちまえアイツは」


食事の片付けを終え、フェアラートと共に森の中へと行く。ソルダも面白半分で見学に来ていた。


「で、アタシに何を見てもらいたいの?」

「基礎魔法全般なんだ」


オルトは、小石程度の魔弾を生成する。


魔力の消費は少ないうえ、形成と操作を基本とするため、訓練として最適でもある。闘う魔法使いならば誰もが通る道で、熟練の魔法使いであろうと愛用し、極めて損はない攻撃魔法。


「あ〜、なるほどね。じゃあこっちに撃ってみなさい」


フェアラートはその魔弾を見て何かを察するとともに、まるでハイタッチを待つかのように片手を挙げる。


通常であれば怪我をしてもおかしくない行為。それをわかったうえで、オルトは魔弾を放つ。


パフッ。


衝突した音すら弱々しく、怪我どころか受けた反動は極々微小。


「ガキの泥団子の方がまだマシね。魔壁は作れんの?」

「うん、一応は」


次にオルトは自身の前方へ、半透明な薄い壁を作る。魔弾と対を成す基本の防御魔法である。


「パッと見は良さげじゃん。あっ」

ソルダが近づいて魔壁をノックすると、あっという間にひび割れて崩れ落ちていく。


「脆っ……!!」

「そう、これが悩みなんだ。全体的に質が悪すぎる」


「……そうね、基礎魔法の習得は諦めなさい」

フェアラートは真面目な表情できっぱりと告げる。


「おいおい、それはあんまりじゃあねぇか? ちゃんとアドバイスしてやれよ」

「最善な答えよこれが。オルトも薄々気付いているんでしょ?」


「うん……固有魔法の劣化が、全ての魔法に作用してしまってる」


「その通り。正確に言うと、魔力そのものに劣化する作用が付属してる。オンオフができないわね、工夫して基礎魔法が使えるようにっていう考えは、捨ておいたほうが賢明よ」


「やっぱりそうか……魔力を込めれば込めるほど脆弱になるから、おかしいと思ってたんだ」


「おいおいそれって、かなりハンデあんじゃねぇか……?」

「ソルダが何言ってんのよ、アンタは()()()()()()()使()()()()()()()()くせに」


「え!?」

「お、おい! 言わんでもいいだろ!」

「別に隠さなくてもいいじゃない」


「そ、それって、マスターのエレス・ノアみたいに……」

「やめろやめろ! 俺はそんな大層なもんじゃねぇって!」


「丁度いいわ、ソルダはこれから仕事でしょ? オルトを連れていきなさい、きっと参考になるわ」

「マジかよ……」


「仕事って……?」

「少なくとも、見学するような所じゃないんだが……」


「いいから行った行った!」

「……へーい」

「あ、あの、結局何をしてるの?」


「……行きながら説明するわ」

渋りながらもソルダは歩き出し、手招きをする。それにオルトは、よくわからないまま付いていく。


 教会を離れ、人気(ひとけ)のない街の路地へとやって来た2人。重い口を開くようにソルダが喋り出す。


「俺はさ、少年兵だったんだ。シスターが言ってた、魔法使いと戦ってきたというのはそういうことなんよ」


「少年兵ってことは……()()戦争に参加してたってこと……!?」


ソルダの年齢は16歳。そして、直近にあった戦争は1つだけ。


「あぁ、4年前の『デマンティーの戦い』だ。お馴染み、マスターのエレス・ノアが星を斬って終結させたやつな」


デマンティーの戦い。世界魔法協会と唯一の反乱国デマンティーとの戦争であった。


「俺はデマンティーで生まれた。奴らは魔法を忌み、物心ついた時にはその思想を叩き込まれる。んで、人手不足で強制参加ってわけ。だから、魔法使いとの戦い方……もとい、殺し方を心得ている」


「へぇ……どんな風に?」

「っておい!? 普通はもっとドン引きするとこだぞ! ただでさえ、デマンティー出身ってだけで、魔法使いは嫌うっつうのに……」


「生まれとか関係ないよ。どこであろうと救いようがない人はいるから」


「プッ、クク、あっはっはは!! 普通よぉ、フォローするんだったら俺を立てるべきじゃないか!」

「ごめんごめん」


「まぁいい、むしろ気に入ったぜ、その考え。柄じゃあないが、ご教授といこうじゃないか」


陽気に笑うソルダがオルトを引き連れて、薄汚れた闇市へと出る。


「んで、仕事ってのがはやい話、賞金首を狩りに来たってわけよ」

「……如何にもって場所だね」


「まだここらの輩は可愛いもんよ。追ってんのは外部から来た連続殺人犯だ。ここなら隠れ蓑に丁度いい」


ゴロツキ達が溜まると酒場へとやって来る。ソルダはその主人に話しかける。


「よぉ、繁盛してんな旦那!」

「そうでもないさ、これでもカツカツなんだ」


「本当かよ。不躾で悪いんだが、人を探してる。こいつを見たことないか?」


ソルダはカウンターに寄りかかり、写真を提示する。黄土色の髪に髭跡が多い男、追っている連続殺人犯の写真であった。


「さてね、見かけんな」

「じゃあ情報だけでも聞いたことないか? ここいらで見かけない顔が来たとか」


「なにぶん、人の出入りは激しいもんで」

「……そうかい」

「君は若いんだ、あまり危険なことに首を突っ込まないほうがいい」


「それは今更だな」

「あぁ、だからこうなる」


ソルダの後方に座っていた男達3人が、勢いよく飛びかかろうとする。


「危な__」


バンバンバン!!


気付いたオルトが忠告しようした時にはもう遅く、3発の銃声が鳴り響く。


「こいつはどういうことだ?」


ソルダは冷酷に主人を睨みつける。襲おうとした男達を、持っていた拳銃で瞬時に撃退していたのだ。


(嘘だろ……()()に撃ってあんな正確に……!?)


「ま、まさかそんな……!?」

「てめぇが肩を貸してるのは今のでわかった。理由と居場所を吐け」


主人は銃口を首元に突きつけられ、唾を飲み込んで一思いに口にする。


「や、奴といれば、『烏合(クローズ)』と繋がれるって聞いて……」


「喋りすぎだよ」


酒場の入り口に杖を持った男が、魔法で火を放つ。いち早くソルダは躱し、男に向けて銃弾を放つ。頭部に当たるはずだった弾は、跳弾して天井へとのめり込む。


「チッ」

酒場の入り口はおろか、窓にすら魔壁が貼られていた。仕掛けた張本人は写真と同一の殺人犯。


「使えん連中だが、良い囮になった。それではご機嫌よう」


放った火が燃え広がるのを確認し、殺人犯は逃げていく。


(野郎、手慣れやがる……! このまま炙って窒息させる気か!)


「無事か、オルト!」

「うん……追うの?」

「まずは脱出できたらな」

「なら大丈夫だよ」


オルトは魔壁に近づき、力強く蹴る。すると、ガラスのように魔壁は飛び散った。


「流石に僕のよりは硬いや」

「……そうか、他人のにも劣化できんのか」


「ごめんよ、銃を撃つ前にやれてたら」

「いーや、嬉しい誤算だ」


大火事になりかけてた火も劣化させ、ボヤ程度の範囲になっていた。


(……こりゃあ使えるなぁ)

「っし、ちょっとそこから見てな!」


ソルダは素早く酒場から出て殺人犯を捉える。


「……壊す手段があるとは驚いたな」

殺人犯は慌てる素振りを見せず、いくつもの魔弾を放つ。通行人すら巻き添えにして。


「阿呆が」

ソルダは迫り来る魔弾、逃げ惑う人々を掻い潜り、僅かな隙間を縫うように引き金を引く。


「ぐっ!?」

殺人犯の右肩に銃弾がヒットする。


「慢心したな、さっきみたいに守りを固めねぇとはな」

「よくも貴様っ!」


負けじと魔壁を展開し、魔弾の数を増やす殺人犯に、ソルダは嘲笑いながら酒場へと戻る。


「オルト、一旦退くぞ」

「え、追撃するチャンスなんじゃ……?」

「何もまともやり合う必要はない。それに、苛つかせるのも立派な戦術さ」


2人は入り口から反対の窓を乗り越え、酒場を去る。


 殺人犯は傷口を手で抑えながら物置へと隠れる。杖を取り出し、回復魔法の準備をしようとしていた。


「ハァハァ、クソッ……!!」

「アンタ、詰みだぜ」

「っ!?」


ソルダ達は回り込んで殺人犯の跡を追い、息を潜めて気を窺っていたのだ。


(手傷を負わせて、頭に血が昇ったところを敢えて退き、相対したくない場面で詰め寄る……やられる側は溜まったもんじゃないな)


オルトは戦いの終わりを察し、黙って見守る。


「言っとくが、アンタが魔法を使おうとした瞬間、先に俺がぶち込む。大人しく捕まんな」

「……ここまでか」


「っ! おいお前__」


ソルダの忠告を意に介さず、殺人犯は反撃を試みようとする。宣言通り、銃弾が頭部を撃ち抜いた。


「……死を覚悟していたね」

「あぁ、そうなった奴は恐ろしい……特に魔法使いはな」


決死の行動にも怯まず、冷静に対処する。オルトは殺し合いを肌で実感し、同時にソルダの手腕に驚いていてた。


「こう血生臭くなるから、見せたくなかったんだがな」

「……平気だよ。そういえば、酒場で言ってた『烏合(クローズ)』に繋がれるっていうのは何だったんだろう?」


「ありとあらゆる犯罪者達の拠り所みたいなもんだ。規模が半端なくてな、入れば安泰だとでも思ってたんだろう」

「……だとしたら、尚更止められてよかった」


「……だな。ま、俺の場合は先に殺らなきゃ殺れるからな。あくまで一例にすぎない。俺の真似をするんじゃなくて、自分なりに考えて戦い方を身につけていきな。シスターが伝えたかったのはこんな感じだろうよ」


「うん。そもそも、あんな銃の腕前は到底真似できないよ」

「へへっ!」


ソルダは自慢げに鼻を擦り、2人は帰路へと就く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ