第21話 生徒会勧誘戦
生徒会勧誘の断り。オルトは多少のいざこざはあると踏んでいたものの、力づくで入会させられるとは想定外であった。
「いくら生徒会といえど、横暴が過ぎますよ!」
「いえ、このくらいなら許されるのですよ。生徒会ですから」
「無茶苦茶な……!!」
オルトは動揺しながらも生徒会長と副会長への警戒を視線で行う。
「あぁ、安心したまえ。僕は戦う気はない。これでも制約者でね、会長といえど私闘で固有魔法を使うわけにはいかないんだ」
(使ってたようなもんじゃないか)
オルトは疑念を抱きながらも、生徒会長ワンダーがあっけらかんに喋る様を見て諦める。
「それにフェアじゃない、2つも上なのに2人がかかりで襲うなんて卑怯な真似はしないよ」
(騙し討ちした人がいけしゃあしゃあと……)
「オルト君、ご安心を。会長が手を出そうものなら即刻、私が阻止します。そして少々、準備させていただきますね」
副会長のワトソンはそう言うと、足元が鋼色に染まっていき部屋全体を覆い尽くす。
(これは……副会長の固有魔法、硬重化!)
「伝統ある生徒会室を傷つけるわけにはいきませんので」
「……訓練場に移りませんか……?」
「先生にバレるので却下します!!」
ワトソンが叫ぶと同時に、自身も鋼色に染まっていく。
「さて、これは君への試練でもある。副会長は近距離戦では校内一だ、すぐにわかる」
『完全重装鎧格』
硬重化された魔壁の鎧を纏うワトソン。加えて魔装も発動する。
「これはまた、分が悪い……!」
(これじゃあ遠隔も、直接的にも魔力を流しても本体に劣化が入らない……!)
「君の弱点は戦略幅の少なささ! 劣化を封じられたら、そこそこの棒使いでしかない! 決め手がないのだよ!」
高らかに笑うワンダーを横目に、オルトはワトソンの拳を回避していく。そして一瞬の合間に前へ出る。
『護身杖術:引転』×『纏う排斥』
ワトソンの片膝裏へ杖を叩き込み、そこを支点にしながら自身を振り子のように移動する。避けつつ相手の転倒を狙う技である。
しかし、ワトソンは微動だにしなかった。
「肉体強化を使わずにしてその身のこなしはお見事。ですが、私の固有魔法は硬くするだけでなく、重くもなるのです。転ばそうたって、そうはいきませんよ」
『護身杖術:芥払い』
本来は足元にある砂や物を飛び散らせる杖術。だが、全てが硬重化されているので、ただ相手の脚へと打ち込む。
(執拗な足狙い! 一点集中で足の装甲を壊すならば……!)
『魔弾拳』
ワトソンの突き出した拳が爆ぜる。生身で行えば自爆するが、装甲があるゆえに無傷で済む。自身を巻き込むことを厭わないこのスタイルが、彼女を近距離戦校内一と押し上げている。
「ッ!!」
オルトは劣化させるも、爆風を受けて吹き飛ばされる。
「これは決まったかな。ん? ワトソン副会長……!?」
攻勢に転じていたワトソンはよろけ倒れたかのように尻もちをついていた。
(そ、想定以上の劣化だ。こちらも脚部を硬重化しているのに追いつかない! これでは重心のバランスが……!)
硬重化した鎧の下半身だけが劣化し、軽くなっている。上半身は重いままのため、『魔弾拳』の衝撃でバランスを崩していた。
「ふぅ、これが噂に名高い『魔弾拳』ですか。知っていなければ危ないとこだ」
オルトは会長達が驚いている合間に立て直し、ワトソンに歩みを寄せる。
(まずい! 迎撃を!!)
ワトソンは瞬時に魔弾と魔壁を形成。だが、オルトはそれを見逃さない。
『否定するは我が羨望』
魔弾も魔壁もボロボロと崩れていく。
「くっ、ならば直接っ、うぁっ!?」
ワトソンは起き上がろうとしたが、脆くなった床に沈み、さらにバランスを崩す。
「さっきの攻防の合間に少し劣化させといたんです。追加で劣化させれば嵌るように。重さは充分ですから」
『護身杖術:狩落とし』
上段から振り落とす強烈な一撃。ワトソンの兜に直撃し、完全に倒れる。
(もうここから勝つのは無理ですね……しかし、生徒会副会長として負けるわけにもいかない!)
ワトソンは『完全重装鎧格』を解除し、硬重化も右拳のみに留める。乗り上げようとしたオルトに向けて拳を繰り出す。
(劣化で昏倒する前にノックアウトする!!)
その刹那、ワトソンの目前に魔壁が現れる。
(魔壁!? 基礎魔法は使えなかったのでは!? いや彼のことだ、触れたら劣化してしまうかも……!?)
オルトの魔壁はあくまで見た目だけの脆弱な壁。劣化を纏わせようものなら壁そのものが崩れてしまう。しかし、今まで使わなかったことで思わぬ疑念を与えた。
パキィン!
ワトソンが躊躇っている隙に、オルトは自ら魔壁を破る。そして、喉元に杖を突き立てた。
「もう終わりでいいでしょう」
オルトは冷酷に告げる。後は劣化すれば勝負がつく。ワトソンも悟って拳を下ろした。
「……素晴らしいゲームメイクだった、文句のつけようがないくらいに。まさか副会長を負かすとは思いもしなかったよ。合格だ、生徒会へようこそ」
「何さらっと口実をすり替えてるんですか」
「やめましょう会長、私の完敗です。学びを得させるつもりが、上回るとは……」
「いえ、あえて副会長が接近戦にこだわってくれたおかげです。いい経験になりました」
「こちらこそ。お相手ありがとうございます」
「あーぁ、流石にこれ以上の無理強いは野暮だねぇ。好きに生きたまえ」
対戦した2人が握手を交わすと、不貞腐れるようにワンダーは口を挟む。
「はい。では僕はこれにて失礼します」
「気が変わったらいつでも歓迎しますよ」
副会長には快く見送られながら、オルトは生徒会室を出る。
「会長、ご期待に添えず申し訳ありません」
「気にするな、想像以上に曲者だあれは。これからくる世界に欲しい人材ではあったが、目ぼしい1年生はまだいる」




