第20話 生徒会会長
交流戦の翌日、比較的軽傷だったオルトは通常通り授業に参加。授業内容は2人以上で発動する合同魔法について。訓練場にて、ハンズが生徒達に講義を行う。
「魔法執行官、警備部隊、その他の職にしろ、集団行動がほとんどだ。魔獣や犯罪者に立ち向かう際、格上にも通じる強力な魔法が必須だ。そこで、人数を生かした合同魔法が鍵になる。今日は皆んなにそれをやってもらうぞ」
生徒達は魔力量の等しい2人組になり、持ち場へ移動する。オルトを除いて。
「で、オルトは俺とペアだ」
「いやハンズ先生、例え先生だろうと僕の魔力が加われば、合同魔法どころじゃありませんよ……」
オルトの魔力そのものが劣化作用になり、見掛け倒しの基礎魔法となる。他者の魔力を介しても同じ結果になることは明白であった。
「わーっとるよ、だから俺達は練習台。要は的だ」
「……マジですか」
「劣化魔法はどうしても避けられない時だけ使用可な。魔力温存のための実戦訓練になるし、お前に丁度いいだろ」
「回避の訓練ですか、久々だなぁ」
(久々……?)
ハンズは疑問に持ちながらも、オルトは納得したように指示通り動く。
通常の魔弾は拳大もあれば大きいほうである。それを2人がかりで発動することにより、成人の胴体と遜色ないサイズへと至る。名称は『魔砲弾』
ババァン!!
岩壁をも容易に砕き貫通する。その『魔砲弾』を掻い潜るよう、オルトは駆け巡る。
「当たらん!」
「狙いにくいなぁ」
ジクザクに、時には緩急をつけて走り、障害物ではパルクールをこなす。他生徒達は何発も放つも、当てることはできずに愚痴をこぼしていく。
かつて教会にいた際、対魔法使いのスペシャリストであるソルダに鍛えられていた。戦場で死なないために、足を止めるなと。
しかし、これはあくまで逃げられる射程での話である。
『魔剛壁』
魔壁をより強固にした合同魔法。オルトを取り囲むように発動される。
『護身杖術:熾突』
突進する勢いを乗せた渾身の突き。護身杖術のなかでも最速かつ高威力の技。劣化させた対象物に当てれば脅威となる。
バキン!!
杖が魔剛壁にめり込みヒビ割れるも、砕くことはできなかった。
(硬い! それに分厚さで劣化が浸透しきってない、やり直すには__)
『魔砲弾』
(時間がない……!)
『纏う排斥』×『護身杖術:狩落とし』
魔砲弾を縮小させ、叩き落として破裂させる。
「くっ……!」
衝撃は少なく、オルトの腕は痺れていた。
「おい! やりすぎだ! オルトは休んでろ!」
見かねたハンズが注意し、オルトは訓練場から離脱して観客席へと向かう。
「いつつ……エフォート先輩の時みたいにはいかないか」
「俺が何だ?」
「うわぁ!?」
オルトが独り言を呟いていたら、当の本人であるエフォートがやって来た。
「……お前は出会い頭によく叫ぶ」
「タイミングが不意なんですって……というか、1年生の授業を見学でもしてるんですか?」
「いやオルト、お前に用があって来たんだ」
「ぼ、僕に……?」
「正確には、会長がだ。授業後、生徒会室に来てほしいとな」
「会長……生徒会長がですか……?」
「そうだ。予め言っとくと、生徒会へのスカウトだ」
「スカウト!?」
「何を驚いてる。若葉杯に交流戦、活躍を見れば当然だ」
「……なら、僕よりエンリルの方が適任では? 彼女の力は群を抜いているでしょう」
「生徒会の求める人材は、圧倒的な個の力より支え合う力だ。プランツなどが入らず、俺が在籍しているのが良い証拠だ」
「支え合いといっても……僕は合同魔法はおろか、基礎魔法さえ使えないというのに」
「必要がないだろう? ひたすら相手の魔法を劣化して、他が攻防すればいい。俺らが交流戦に勝てたのは、チアがいたからにすぎん。希少な人材に値するぞ」
「随分と買ってくれてますね……」
「何度も言わせるな、生徒会へ誘うとはそういうことだ。返事に時間を要するなら、俺から伝えておこう」
「いえ、答えは決めてます」
「ならば、俺の用はここまでだ」
エフォートは話を打ち切り、そそくさと帰ろとする。
「あ、あのっ!」
オルトは慌てた素振りで引き留める。
「交流戦の最後、僕の魔法はどんなものだったんでしょうか……?」
「……自分でも把握してなかったのか。てっきり奥の手かと」
「恥ずかしながら……」
「本人が判り得ない以上、俺もわからん。起こった事実だけを述べるなら__」
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アルストロメリア魔法学校生徒会。確かな実力者達で構成され、校外でも魔法執行官と前線を共にする。卒業者は世界に数多くの功績を残し、マスターすらも輩出している。
その伝統ある生徒会室の前に、オルトは立っていた。
「入りたまえ」
ドア奥からの女性の声に反応し、生徒会室に入る。
「よく来てくれたオルト君、歓迎するよ」
黒髪短髪に褐色肌の女性。オルトを堂々と迎え入れる生徒会長、ワンダー・フェイス。生徒唯一のA級魔法執行官。
腕組みをしながら威風堂々とオルトへ声をかけていく。
「早速本題だ、話はエフォート君から聞いただろう。君の力がほしい。我が生徒会に入り、役立ててくれ」
「お断りします」
「なっ!?」
威厳と余裕のある表情が崩れ、会長のワンダーは素っ頓狂な声を上げる。
「待て待て待て! 君は何を言ってるのかわかっているのか!?」
「はい、生徒会には入らないと言ってるんです」
「……可笑しい、可笑しいなぁ? 君の活躍はチェックしたよ、若葉杯でも交流戦でも実績を残して。泥臭さすら感じるほどに執着していた筈だ。夢があるんじゃあないのか? 魔法執行官やマスターとしての……!」
「少し、事情が変わりまして」
(最高峰の魔法技術を持つ世界魔法協会と現マスターが、魔法道具と化した人の復元が不可能だった。地位に固執する必要はもうないからな……)
「……ならば、ならばだっ! 魔法の向上は!? あれだけ戦いに力を入れてたんだ、強くなりたくないのか!?」
「勿論、その意気込みはあります」
「だったら環境としてベストと言ってもいい! 上級生と切磋琢磨し、魔法犯罪者の鎮圧を行う我が生徒会で、培う経験は相当なものだぞっ!」
「承知しています、けど課題は見つかりました。それと、魔法を知られすぎるのは、やはり痛手だと痛感していたところです」
「今更じゃないのか……?」
「僕の劣化は常套手段、遅かれ速かれ固有魔法は把握されます。ただ、対策を対策されるループや、新しい戦い方まで知られるのは非常に苦しいですから」
「……だとしても、大馬鹿者だ。この生徒会がどんなに栄えあるものか__」
「全てを承知した上で断わると言っているんです。魔法を使ってまで勧誘されるのは光栄ですがね」
「ほう……!」
「やはり、固有魔法を知られるのは厄介でしょうワンダー会長。少しでも意思があれば、そそのかすだけで行動してしまう固有魔法の扇動。貴女の場合は特に」
「……クックックッ、アッハハハハ!」
ワンダーは机に臥しながら笑い、顔を上げると平静を取り戻して話始める。
「お見事。見破っている云々の前に、一切揺るがないその意志がだ」
「初めから断るつもりだったまでです。それなのに、貴女が命令口調で話すなら警戒しますよ。僕を試したんですか?」
「違うさ、正真正銘君が欲しかった。今尚ね」
パアァァァァ!
ワンダーの言葉と共に生徒会室の床が光り輝く。
「こ、これは!?」
(この魔力の奔流、絨毯の下に魔法陣が……!?)
「怖がらなくていい、僕はただ助っ人を呼ぶだけさ」
輝きが一瞬強くなると、女子生徒が現れる。生徒会副会長、ワトソン・モモン。
「お初にお目にかかります、オルト君。そしてお詫びを申し上げます。手荒な歓迎をいたしますが、会長たってのご希望なので」
副会長のワトソンは懇切丁寧に挨拶するも、ファイテングポーズをとる。オルトも呼応するように杖を取り出す。




