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第2話 飲み込まれる悪意

「5号、お前の実験が決まった」

「……は?」


オルトとイヴがいつものように談笑していると、実験者のリーダーが声をかける。


「2度も言わせるな、来いと言ってるんだ!」

実験者の指令に聞く耳を持たず、オルトは疑問を模索する。


(馬鹿な……一度も上手くいってないし、代わりだってまだ来てないんだぞ……!?)


「チッ、ぼさっとしてないで行くぞ!」

「うっ!? そんなっ……!?」


オルトの肩を無理矢理掴みかかり、連行しようとする。


「抵抗するな!」

「待って!!!!」


イヴがガラス越しに甲高い声を響かせて注視させる。


「お願い! 彼には手を出さないで!」

「0号、君には関係のないことだ」


「……せめて、乱暴にはしないであげて……」

「……5号、自分の足で歩け。さもなくば引きずってでも連れて行く」


実験者達はオルトを解放し、自身で歩くよう促される。イヴがかけてくれた情けに、抗ってもどうしようもない現状。最悪の未来に向かって歩くしかない選択肢を突きつけられる。


(くそっ……まだ魔力が……! ほ、本当にされるのか……!?)


いつかはされる、だからこそ逃れようとした。その矢先に告げられた最悪の結末。覚悟も諦めもできていないなか、地獄のような光景だけが脳裏をよぎる。


 実験場にやって来たオルトは重い足取りで魔法陣へと赴く。鼓動と呼吸が速まり焦燥感に駆られる。相対して、実験者達は淡々と準備を進めていく。


「魔力リソース、準備完了。魔力注入パターン13でいきます」

「……やれ」


「がああああああぁぁぁぁぁ!!??」


魔法陣から迸る(ほとばし)魔力が、オルトの身体を妬いていく。


(痛い熱い痛い熱い!! どうして、なんでこんなっ……!? 早く殺して、殺してくれ!!)


悶絶しながら死を願うようになり、走馬灯が見えてくる。


除け者として扱われた父の商会、そして最低な別れ。被験者になったうえでの実験手伝い、ロクな思い出がないなかに唯一の心残りが浮かぶ。


(……イヴにだけは、同じ目に遭わせちゃ……)


「そろそろいいだろう、止め!」


リーダーの号令に魔力注入は終わり、オルトは崩れ落ちて意識も途絶える。


「加減したとはいえ、損傷が少ないような……?」

「好都合だ、0号と交渉する。お前らは運べ」


「だそうだ5号、よろしくな……あ、これが5号か」


 リーダーの男は足早に実験場を出て、またイヴの前へとやって来た。


「やぁ、0号。そんなに5号が心配か?」

「……」


「そう睨むな、失敗に終わったが生きてるよ」

「っ!」


「だが5号には今後も率先的にやっていく。ようやく目処が立ってね」

「……何故私にわざわざ言う?」

「無論、君が最も気にかけてるからだよ。ほら、ご本人の登場だ」


担架で運ばれるボロボロのオルトを見て、イヴは絶句する。


「オルト……!!」

「痛々しい姿になってしまった。我々も心苦しいが、まだまだ試行しなくてはならない。そこでだ、君が魔法道具になることを望めば、5号は苦しい思いせずに済む」


「……オルト……5号に手を出さないから、私が望んで挑めと……? だとしても、あなた達がその約束を守る保証がない……!」


「いーや、我々も守らなければならないのだよ。でなければ君の魔法道具化が上手くいかない、もしくは成ってから何らかの不具合が生じてしまう。そういう特殊な魔法を組み込むのだ」


それを聞いて俯き、黙り込むイヴ。全てを察していた、これは交渉のパフォーマンスだということも。そのうえで、イヴの答えは決まっていた。


「すぐに答えは出さなくていい、ゆっくり__」

「いいわ」


「……話が早くて助かるよ」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 オルトが目覚めたのは丸2日後だった。全身の痛みが、壮絶な経験を受けたことをすぐさま思い出してしまう。身震いするなかで目に止まったのは、頭元にあった手紙だった。


『オルトへ

こういうのはしたことないけど、何も言えず終いだったから手紙を残しておくね』


(え……?)


書体はイヴのもの。1文読んだだけで嫌な予感をしながらも、読み進めていく。


『オルトと一緒にいた時だけが人間としていれたんだ。ここに来るまでは神のように恐れられ、来てからも貴重な道具として扱われてさ。ようやく、生を実感できたよ。だから本当はもっと一緒に居たかった。けど、しょうがないよね。今までありがとう』


「なんだよ……なんだよこれ……!?」


まるで今生の別れを告げられたかのような内容に困惑し、慌ててイヴの部屋に行くオルト。


「いない……嘘だろ……!」


道中の被験者達消えていることに驚きつつも、次に訪れたのは実験場。オルト自身も受けた魔法陣、その上に立て掛けられた槍があった。


「あれは……槍……?」


「目覚めたか5号」

リーダーの男が待ちかねたように声をかける。


「……イヴは、何処に行ったんです……?」

「目の前の槍だ」


「え??」

「我の悲願は遂に叶った。5号、お前も一役買ってくれたおかげだよ」


「い、一体どういうことなんだ……!?」

「呪法と言ってな、お前の身の安全を保障する代わりに、0号が望んで魔法道具になることで、完璧な形で固有魔法も宿せたのだ! これぞ、世界最強の兵器!」


「そんな……!?」


残された手紙に、決定的な証となるイヴの消失。受け入れるのを心が拒む。


「嘘だ、そんなのって……」

「そう落胆するな5号。今日からお前は被験者ではなく我々の同志となる」


「こんなの、あんまりだ……」

「待て! 槍には近づくな!!」


男は歓喜から一転、声を荒げてオルトを制止させる。


「……唯一の欠陥だ、触れるだけで消滅する。魔法も物質でさえも人が介せば発動してしまう、だから動かせんのだ」

「あ、あぁ……あぁ」


自然と涙が頬を伝わり、感情がぐちゃぐちゃになる。


「そこでだ、お前の劣化する魔法で少しでも消滅を抑えられれば、操ることができるかもしれん。励めよ」


「……は?」

(労ることすらできず、あまつさえイヴに手をかけろって言うのか……)


あまりの横暴に煮えたぎる怒りが全身で感じる。


(どうして、ここまでの非道ができる?)


血が滲むほど拳を握り、瞳孔が開いた目で実験者達を睨み、恨んだ。


「……辛いよな、それに今まで悪かったよ。でもこれから俺たちは__」


若い実験者がオルトを見かねて、馴れ馴れしく肩に手をかける。


「__ほなじへしをふうなひゃに……はぇ?」


その者は、一瞬のうちに老人へと変貌する。


「お、お前、何故魔法が使え……!?」


ドサッと腰を落とすリーダーの男。驚きのあまりに倒れたのではなく、自重で脚が折れるほどに朽ちていた。


「何故だ、何をしている5号!?」

「……それはこっちのセリフだよ」


首にはめられた魔力吸収装置は既に機能してなく、2日という期間で魔力は完全回復している。


「お前らは僕らを人と見做(みな)さず、非道を尽くしてきた……今更何の報いもないと?」

「ち、違う! これは偉大な研究の犠牲なんだ! 話し合おうじゃないか! なっ!?」


「今お前らの気持ちがわかったよ……聞く耳を持てないことに」

「や、やめろぉ! やめてくれぇ! 許してくれー!!」


身体は痩せこけ、髪と歯が抜け落ち、しわがよる肌で命乞いする男ににじみ寄る。


「死ね」

「う、うわぁぁぁ!?」


泣き叫ぶリーダーの顔面を蹴り、グニャリとひしゃげて絶命する。


(もう、どうでもいい……)


こんな奴らのために、イヴを失った。そして、何もできなかった自分にすら嫌悪するほどに。


 騒ぎ聞きつけた実験者達がわらわらとやって来る。虚な目でそれを捉えたオルトは、ある1つの物を劣化させる。


「な、なんだ一体!?」


壁がひび割れ、天井が崩落する。この建物自体を劣化させ、自身諸共生き埋めにしようとしていた。


阿鼻叫喚のなか、オルトはイヴだった槍にふらつきながら近づいていく。


(せめて最期は、君の側で……)


瓦礫が地下を埋め尽くしていくなか、オルトは魔力を出し切り、倒れるように眠りにつく。




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