第18話 魔法と武術
魔法蔓延るこの世界に剣技で渡り合う伝説、マスターエレス・ノアという存在。それに憧れ、魔法使いでも武術を極めようとする者は多かった。
しかし、武を目指す者ほど、現実を知る。魔法という壁とマスターエレス・ノアがいかに異質であるかを。
そこで、事態を重く見たマスターエレス・ノアが常人で扱える武術を開拓する。その派生として生まれたのが護身杖術である。
あくまで、至近距離や魔法が発動できない状態での緊急手段としてか扱われていない。廃れかけの護身術であったが、オルトは積極的に学んだ。劣化魔法と合わせれば強力な武器になると。
また、魔装に物理的防御はない。杖さえ肉体に当てれば、注射で薬を入れるかの如く、直接劣化の魔力を流し込める。
肉体にすら、当てることができれば。
(か、硬い!?)
繰り出した突き、手応えは人とは異なる。
突き飛ばされたエフォートから、パラパラと魔壁の破片が溢れ落ちる。
(まさか服の下に仕込んでいたのか!? あの状況下で……!?)
オルトが駆けつけた時は既に特大ケルベロスを召喚していた。介入する隙を伺っていたが、エフォートがバイトに詰め寄った時点で間に合わないと判断した。
その代わり、確実に倒すと意気込んだものの、不発に終わったのだ。
(くそっ、劣化が魔壁に作用した……! 魔力的に後1回しか……)
「決死の賭けだったな。だが、命を賭してたとて、必ずしも実を結ぶとはならん。それが戦いというものだ」
「ち、ちくしょう……!」
『バイト1年生の戦闘不能を確認。強制離脱させます』
転移魔法で消えていくバイトを横目に、オルトは身構える。
「やはり、基礎魔法は使えんのか。肉体強化ができていれば、あの突きで俺は昏倒したかもしれんな」
「……ないものだりですね。固有魔法を持たない先輩ならよくわかるでしょう?」
「ああ。俺とお前は似ている、魔法の才は対極でありながらな。準備に余念を費やし、武術や心理戦も組み込む。言動1つにおいてもな」
(挑発も見透かされてるか……)
「若葉杯でお前が杖術を嗜んでるのは知っている。それで相手が魔装を使ってるとすれば、接触による劣化は読めていた。タイミングは虚をつかれたがな」
(誘導させられていたとはな……用意周到にも程がある)
「勝ちたいのなら、まだまだ詰めが甘い」
『魔弾変式:蝶軌道』
エフォートから放たれた魔弾は、漂う蝶のように速度と軌道を変化していく。
オルトはすかさず、近くの窓を割って屋内へ避難する。
「『魔弾改式:地雷』起爆」
「ぐわっ!?」
既に屋内へセットしていたエフォートの魔弾。直撃しないものの、爆風に巻き込まれる。
『魔弾改式:機関銃』
更に壁越しから魔弾の乱射。オルトは数発浴びるもすぐに伏せる。
(つぅ……! このままじゃ埒が明かない!)
オルトはペイント玉を取り出し、エフォートへ投げつける。
魔壁にぶつかると付着液がこびりつき、視界が効かなくなる。
『護身術杖:芥払い』
オルトは杖を振り上げ、散らばった木片を前方へ払う。目的は地雷型魔弾の除去。そのまま最短距離で相手の方へ向かう。
しかしなんと、エフォートは魔壁を飛び越え、魔力の剣で斬りかかってきたのだ。
ガキィィン!!
オルトは咄嗟に防ぐも、大きくのけぞるよう鍔迫り合う。
(嘘だろ!? 触れられたらアウトなのに接近してくるなんて……!)
好んで接近戦を仕掛けてこないという油断と、肉体強化による力技。オルトが今現在唯一渡り合える分野で、流れはエフォートへと傾く。
『エレス流剣術:百花繚斬』
エレス流剣術とは、マスターエレス・ノアそのものの剣技。最も研鑽され、今なお改良される現代武術流派の祖。肉体強化を合わせることで、更に技の磨きがかかる。
迫りくる数々の斬撃に、オルトは防戦一方となる。
(まずい、一度距離を……!)
辛うじて受け流し続けていたが、攻めねば劣化は当てられない。オルトは剣の間合いの外へ後退をする。
エフォートはその時を待っていた。
(し、四角い魔弾__)
『魔弾改式:閃光』
魔壁で筒を作り、前方のみに魔弾の威力を広げる光線。飛距離が伸びるほど威力は落ちるが、至近距離なら絶大。
オルトは反応する間もなく、光へ飲み込まれた。




