第17話 下克上
無差別大規模劣化の『否定するは我が羨望』。その分、消費魔力は甚大であり、味方すら巻き込んでしまう。
オルトは残り2割程度の魔力と、機動力であるケルベロスを失うも思考を諦めない。
(まだやれることはある、まずはバイトと合流を__)
「オルト聞こえるか? エフォート先輩とかち合った。このまま応戦するぜ」
通信石から聞こえるバイトの報告。実力の差はバイト自身が認めていたが、焦りのない声であった。
「……引けないかな、ぼくは今フリーだ。プランツ先輩はエンリルに託した。2対1が作れる」
「そうしたいとこだが、そこら中に地雷型の魔弾が仕掛けてあってな。動くほど、ケルベロスが潰される」
(地雷型の魔弾……それならシャルが何の報告もなくやられたのも頷けるな)
「なら援護しに行く! もう少し耐えて!」
「忠告しておく、エフォート先輩は魔装を常時発動している。お前の劣化は効かんだろうな」
「なんだって!?」
魔装、魔力をオーラのように全身へ覆う上級基礎魔法である。魔力の層を作ることで、他者からの直接的な魔力から守り、オルトの劣化や催眠などを防ぐ。
精密な魔力操作を要するものの、物理的な防御力が上がるわけではなく、魔弾などの攻撃魔法は受けてしまう。
実戦ではほぼ使われず、代用となる魔道具を所持するのが一般的である。そのような魔道具は高性能であるため、交流戦では公平性により持ち込み不可。
魔装の利点として、魔道具と違って自身の魔力で行うので、魔力が尽きるまで張り直すことができる。
(最悪だな、魔力が充分にあればまだ……いや諦めるな。劣化が効かなくても、エンリル達の化け物合戦に混ざるより勝算はある)
「それでも合流するよバイト、待ってて!」
「あぁ……けどよ、別に倒してしまっても構わんだろう?」
「……ごめん、絶対無理だと思ってる」
「るせー!! こっちだって、ちゃんと勝算があんだよ。魔装は魔力操作にリソースを相当喰う。現に、先輩の攻撃にキレがねぇ。お前を警戒してるおかげでな」
「……だとしても、過信は禁物だ」
「わーってるよ、無茶な攻めはしない。成り振り構わなくなったらきついしな。けど、安易に解くわけない。お前がフリーなのは知られてるし、劣化なら1発アウトだからな」
(ちゃんと戦況を分析してる……戦い慣れてるだけあるな)
「……僕のケルベロスは失った、だから再召喚できる。戦力を増強しておくれ」
「あいよ!」
『魔弾改式・螺旋』
『3重魔壁』
バイトを守る1、2枚の魔壁は砕かれ、3枚目でようやく防ぐもヒビ割れていた。
「おしゃべりが過ぎたか。けどよ、だからこそ撃ってくると思ったぜ」
「腕を上げたな、ライト」
「バイトですぅ!!」
飛び交う魔弾に、魔壁が砕けては張り直していく攻防。拮抗するなか、エフォートは崩していく一手を放つ。
『魔弾改式:機関銃』
魔弾のサイズを小粒にすることで形成時間を短縮し、絶え間なく連射可能にしたエフォートのオリジナル。
「チィッ……!」
魔壁を張り直し続けるも着々と砕けていく様を、舌打ちしながらも分析していく。
(なんて弾幕だ……でも、アンタにしちゃあ力技すぎる。普段ならもっと変式や改式を併用するはずだ!)
「擬似召喚、3連ケルベロス!」
(本領発揮できないアンタに真っ向勝負なら……勝算はある!)
ババァン!
召喚されたケルベロス達が勢いよくエフォートへ向けて飛びかかるが、道半ばで爆破していく。
『魔弾改式:地雷』衝撃力を高め、設置型にした魔弾。エフォートが事前にセットしていた罠である。
「擬似とはいえ、3体出せるとは成長したな。だが、攻め方が甘いぞ」
「そりゃそうさ、俺はただ地雷を少しでも減らしたかっただけだぜ!」
(擬似召喚は、俺が肉体を魔力で造る。だからこそできる芸当だ!)
「擬似召喚、特大ケルベロス!!」
人ならば容易く丸呑みできるサイズの器。それに魂を憑依させるだけなので、召喚者による複雑な操作は不要。巨体でありながら素早さを兼ね備えた、擬似召喚ならではの工夫である。
(更にダメ押しだ、パクらせてもらうぜ先輩!)
エフォートが扱う基礎魔法のアレンジは主に2種類。性質を改める改式、軌道や用途を変える変式。後者である変式は発動自体難しくはない。
(実際に見て参考になったぜ。大量の魔弾を扱うのに、先輩は複数の工程を同時進行していない。まずは形成!)
バイトは周囲に無数の魔弾を作り、留まらせる。
(そんで発射だ!)
無数の魔弾は上空へ飛び、エフォートへ向けて降下する。
『魔弾変式:雨撃』
手数の魔弾と強力な特大ケルベロスの同時攻撃。回避も防御も困難といえる状況。魔装を解いたとして、エフォートでも同時に相殺できる魔法はなかった。
「……これしかないな」
エフォートは観念したかのように呟くと、ケルベロスに向かって走る。
(魔法も使わずにすれ違う気か? ケルベロスの下に潜り込めば魔弾は防げるが、図体がでかくても鈍感じゃねぇぞ!)
ケルベロスは確実にエフォートを捉え、口を開いて噛みつこうとする。その瞬間、エフォートは飛び込んだ。
「……は??」
バイトは事態を呑み込めず、観客すらざわつく。
エフォートが飛び込んだ先は、ケルベロスの口の中。自ら喰われていったからである。
「ま、マジかよ……」
降り注ぐ魔弾が地面とケルベロスに当たっていくなか、バイトは呆気にとられる。
『魔壁改式:両手剣』
ケルベロスの胴体が両断され、中からエフォートが現れる。魔力で作った剣を携えて。
「戦場でボサッとするな」
エフォートは瞬時にバイトへ詰め寄り、斬りつける。
「ガハッ!?」
(ケルベロスをシェルター代わりにし、魔力の剣なんて……しかもこの動き、肉体強化も…………!)
バイトはエフォートに寄りかかるよう倒れる。
「ゲホッ……ハァハァ……!」
「降参しろ、どのみち何もできまい」
「へ、へへ……優しいな先輩は……」
魔力の剣は刃引いているため出血はしてないものの、バイトは痛みと衝撃で悶絶していた。それでもしがみつくようにしたのは、通音石からの言葉だった。
「__そのまま捕まえててくれ」
「俺の仲間は……くっそ無茶させる」
「っ!!」
『護身杖術:熾突』
オルト渾身の突きが、エフォートへ炸裂する。




