第16話 交流戦
連なる建物を目前にオルト達が立つ。2年生との交流戦が始まろうとしていた。
「う〜、緊張してきた……」
「やれやれ、これだから経験不足は」
「うるさい初戦敗者」
(まぁ……緊張がほぐれるならいいか)
いがみ合うバイトとシャルールを横目に、オルトは時計を見つめる。
開始の宣言はなく、決められた時刻に開始となる。
「うん、そろそろだ。気を引き締めていこう」
「……のーぷろぶれむ」
空気が張り詰め、注目していた秒針が指定の時刻に達する。
「よし、行こう!」
「おう! 擬似召喚、三連ケルベロス!!」
バイトが召喚したのは3体のケルベロス。本来3つ首のケルベロスだが、依代となる器をそれぞれ用意することで可能とした。擬似召喚ならではの手法である。
バイト以外の全員がケルベロスに跨り、一目散へと駆けていった。
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一方、2年生達は距離を詰めようとせず、着実に罠を仕掛けていた。プランツによる植物の配置、それをチアの幻覚魔法で隠蔽をする。
「さーて、1年生ズはどー攻めてくるかね」
「……こちらの戦法も調べられている。迂闊には攻めんだろう」
「では、ある程度仕込んだならこちらから偵察に行きますか」
陣地に攻め入れば格好の餌食、陣地外でも誘導できる算段と実力を兼ね備えている。しかし、あくまでも想定できる範囲であれば。
ゴウッ!!!!
「えぇっ!? 火に囲まれた!?」
周囲の建物すら燃える大規模な火災。シャルールの魔力を燃料とした火炎魔法『焼費』であった。
「おいおいいくらなんでもでかすぎだろ!? こんな魔力ないはずだ!」
「……いや、他が魔力を足せば成り立つ。魔縄でも繋げば場所を指定して引火できるだろう」
(それよりも、来るのがずっと早い。機動力に加え、正確に位置を捉えている……まずいな)
「俺ならここで畳みかける! 退避だ!!」
エフォートの予感は的中していた。最も高い建物の屋上にエンリルは陣取り、溜めは済ませていた。山をも吹き飛ばす最大火力の下拵えを。
『風薙』
『規模交換』
迫り来る風の爆弾を、すかさずラランが小さな建物とサイズを変える。
『魔壁改式:駆板』
エフォートが魔壁を全員の足に固定させ、魔壁だけを操作することによって速やかに離脱する。
『蜃気楼の蓑』
更に、チアによる幻像魔法で姿を眩ませる。
「あんま調子に乗るなよルーキー!」
『侵根』
エンリルのいる建物に巨大な根が生えていき、そのまま突き破って奇襲していく。しかし、
『纏う排斥』
「マジかよ……!」
エンリルに届くことなく、根は枯れ朽ちていった。
(やはり、屋上なら直接地面にいるより攻撃まで時間が稼げる……!)
「……たすかった」
「どういたしまして。バイト、おおよその位置は?」
離れた場所でも話せる通信石を使い、バイトに連絡をとる。
「待ってな、今吠えるさ」
「ワォーーン!!」
「な、なんだ!? 犬の遠吠え……?」
「バイトという者の召喚物だ。なるほど、匂いか」
「感心してる場合じゃないよ!? 次来るって!」
『風薙』
2年生達は回避するも散り散りになる。
(バラけたか。せめて1人でもと思ってたけど、そう甘くはないか……)
「いい調子だ、このまま押し切ろう」
「……うん」
『魔弾変式:雨撃』
「あう……!」
オルト達よりも上空から、魔弾が降り注ぐ。その隙を狙って、2年生の1人が同じ屋上へ上がっていた。
(エフォート先輩……いや他の誰か!?)
姿はエフォートであっても、チアの幻像魔法によって変身、あるいはただの幻である可能性もある。
無視するのはできず、攻撃してでも確かめるしかなかった。
辺りを警戒しつつ、オルトは劣化をかける。本来であれば全身疲労を与え、目に見えての変化はない。しかし、エフォートの姿が崩れてブレ始める。
(偽物……囮か!)
「次はこっちの番だぜ!」
『根城』
『規模拡大』
巨大な根が建物を覆い尽くしていく。プランツとラランの合同魔法。その場を拠点と化し、攻守に優れた切り札である。
「くっ!」
向かってくる根を片っ端から劣化させ、杖で叩き落としていく。
(まさかここまで反撃が早いとは……いっそここで……!)
『風砲』
オルトの目前に広がっていた根が吹き飛ばされる。
「エンリル!」
「……丁度良い、2人は私が倒す」
既に獲物を狙う狩人のような目をしたエンリルを見て、オルトは考える。
(確かに……あの2人と真正面で戦えるのはエンリルだけだ。相手もこんな大技を切ったのは彼女を惹きつけたいだろうし……)
「……託した。バイト、1匹貸してほしい。そのままエフォート先輩とチア先輩を全力で叩く」
オルトの元にケルベロスが来て、そのまま跨って離脱しようとする。
「ここはもう俺のテリトリーなんだぜ、簡単に抜け出させるかよ!」
「……君の相手は私」
『風熾』
エンリルから放たれる直線的な風の波動。魔力の消費は激しいものの、放出し続けれる。
次々と根がたちはだかるも破っていき、プランツ達の目の前まで迫っていた。
「ちく、しょう……!!」
「私が防ぎます! その間に本体を!!」
ラランが魔壁を張り、そのうちにプランツが攻撃を仕掛ける。
『侵根』
「うぅ……!!」
「キャァ!?」
エンリルの風魔法が中断される寸前、魔壁を破ってラランが直撃する。
『ララン2年生の戦闘不能を確認。強制離脱させます』
「くっそ……! ララン!」
「り、力量を見誤まったつもりはなかったのですが……後は頼みます……」
会場にアナウンスが響き、ラランは転移魔法で消えていく。模擬戦ならではの安全処置である。
(よくやってくれたエンリル!)
『シャルール1年生の戦闘不能を確認。強制離脱させます』
「何っ!?」
喜ぶのも束の間、想定外な仲間の離脱に動揺が隠せないオルト。
「バイト! 君は無事かっ!?」
「あぁ……すまん、まだシャルールとは合流できてなくてな」
シャルールには『焼費』を撒いた後、退避して合流する手筈であった。
(連絡もなくやられたということは、一瞬で倒されたのか……そうならないようケルベロスで移動していたのに、見通しが甘かったか……!)
悔いる時間を惜しみ、早々に頭を切り替える。
(エンリルの方に加勢しないのなら、各個撃破でバイトや僕を狙ってくる筈だ。早いとこ合流しないと……)
「見ぃーつけた!」
オルトの周囲に火の手が周る。
(幻覚!? いや違う! この熱は本物だ……シャルールの『焼費』を逆手にとられたか……!)
チアの幻像魔法にすら引火するため、鎮火することはできないものの、操ることは造作もないことであった。元々はオルト達がやろうとしていた戦法である。
「いや〜驚いたよ! こんな大胆に攻めてくるなんて! でももうここまでだよ!」
(声が反響している……加えて強烈な花の匂い、ケルベロスの嗅覚探知をもう対策してきたか)
幻像魔法、画像でなく映像を見せるには近くでチアが操作しなければならない。そのため、嗅覚・聴覚・視覚を惑わし、徹底して位置を探らせない。オルトにとって相性は最悪である。
『嘘か真』
本物と幻影を混ぜた魔弾の連射。遮蔽のないなか、オルトはケルベロスを盾にして身を小さくする。
(悪いねバイト、1体無駄にするよ)
対象がいなければ劣化する意味がないだけで、できないわけでない。多大な魔力を消費する代わりに、無差別に行うならば。
『否定するは我が羨望』
幻影は歪み、建物は朽ち、地が枯れていく。その中で、道の端で疼くまるチア。
「まい、ったなぁ……こんなの、隠し、持ってるなんて……!」
「貴女だけは必ず倒しておかないと、後に響いてくるので」
『チア2年生の戦闘不能を確認。強制離脱させます』




