第14話 上級生
「……勉強教えて」
昼下がり、エンリルが教材片手に不安そうな表情でオルトへ頼み込む。若葉杯が終わり、本格的に授業も開始となっていた。その授業についていけず、助け舟を求めた。
「あぁいいよ」
オルトは読んでいた本を閉じ、テーブルに教材を広げて教える準備を整える。
「えっと、何がわからなかったの?」
「魔法執行官の歴史と階級制度……それと犯罪組織『烏合』について」
(今日の授業内容全部だ……)
「そ、そうか……まぁ歴史はそこまで重要じゃなよ。マスターを除いた、世界魔法協会が定めた秩序を守る者達ってだけで覚えとくいいよ」
「ほうほう……それならそうと言ってくれればいいのに」
(本当なら1から全部知っておくべきなんだけど……)
「階級はA〜Cランク。Cランクは上級ランクの補佐、支援や避難誘導が主だね」
「つまり、雑用かぁ」
「言葉を選ぼう……Bランクは前線に出て、犯罪者や賞金首の鎮圧にあたるね。基本的には単独で動かず、部隊を組んでることが多いよ」
「群れってことか」
「あぁ、ううん? それでいいや……Aランクは戦闘能力が高く、1人でも大事件を任せられるエリート。身近だとハンズ先生とかそうだよ」
「なるへそぉ……Aランクの上位互換がマスターなんだよね?」
「まぁそうなんだけど……何故そう価値を下げるの……?」
「それでそれで、『烏合』ってのは?」
「……2年前から急速に拡大している犯罪集団……いやもう犯罪組織と化した悪人達さ。犯罪を犯したほとんどの人が『烏合』を目指すと言われてるほど、悪人達の楽園となってる」
「ほぇ〜」
「信じ難いのは、マスター任命までされていた男が降って、現在トップ2となったタイ・ディスティニ。その手招きをし、マスター達と互角に渡り合ったゼオという男がトップにいるんだ。世界魔法協会も迂闊に手を出せないでいる」
「……なんでマスターになるってのに?」
「気になるところだけど詳細は不明……その後も実力者達が集まり、順位付けして下の者を束ね、勢力が拡大してるんだと。おおまかな人物はリストになってるから、一通り目に通したほうがいい」
「うへぇ、全員覚えるのぉ?」
「魔法執行官……ひいてはマスターを目指すなら必須だね」
「うむむ、なんて試練だ……!」
(今後大丈夫かなこの子……?)
「やぁ優勝者お2人さん、仲良く悪巧みか?」
勉強を教えていると、バイトとシャルールが声をかけてくる。
「そうだ、2人に丁度話があってね。2年生の交流戦、一緒に出てほしいんだ」
「あたしは別に構わないけど……初戦敗退の奴入れていいの?」
「喧嘩売ってんのかおめぇ」
「問題ないさ、バイトの実力を買ってのことだ。頼りにしてるよ」
「言ってくれるぜ……光栄だがよぉ、交流戦ってのは上級生による見せしめ、として伝統になってんだとよ」
「……意外と弱気」
「相手が相手だ。生徒会が2人、制約者が2人だ。特に生徒会の1人は、俺ん時のジュニア魔法大会優勝者……しかも基礎魔法しか使えないのにな」
「うわっすごっ……!」
(僕とは対極だな……)
「なんだったら見学しに行くか? 実力の差がはっきりするぜ。今日その人が個人戦するから話題になってんだ」
バイトの提案に乗り、4人で訓練場へとやってくる。明らかに観客が多いブースがあり、白熱していた。
「あの人だ……エフォート・ジーニアス先輩」
バイトが示す人物に、オルトは面識があった。
(図書室で心配してくれた人だ……!)
身だしなみの乱れは変わらないものの、エフォートは巧みなゲームメイクで相手を追い詰めていた。
魔壁を要塞の如く敷き、魔弾を上空に撃っては雨のように降らせる。
防ぐことしかできない相手はその場で留まっていた。その隙を狙って、エフォートはオリジナルの基礎魔法を放とうとする。
魔弾の先端を魔壁で弾丸のように形成。更に発射時にジャイロ回転を加える。貫通力と高速かつ安定した推進力を生む。
『魔弾改式・螺旋』
相手の魔壁ごと身体を撃ち抜き、勝負は決した。
「今の魔弾やべぇ……!!」
バイトが思わず感想を漏らすも、その発言にエンリルが対抗心を燃やす。
「……別に魔壁ぐらい、私やオルトでも壊せる」
「それは固有魔法ありきだろ。エフォート先輩のは、理論上誰でも可能なんだよ。複雑すぎて真似できんが」
「しかも! 相手って3年生じゃん! 軽く勝っちゃうなんて……!」
「えへへ! エフォーをそんな褒めてくれるとは嬉しいな!」
オルト達に声をかけたのは黒髪短髪に黄色のメッシュが入った女性。同じく2年生徒会メンバー。
「あれれ!? よく見たら若葉杯の子達じゃん! 交流戦私も出るんだ! よっろしくねっ!!」
意気揚々で喋る女性に、一同呆気に取られる。
「あまり後輩にちょっかいをかけるな、チア」
試合を終えて、エフォートが合流してくる。
「もう! ちょっかいなんてかけてないよ! その仏頂面のほうがおっかない!」
「うるさい」
明るさと静かさが両極端な2年生2人。そのやりとりを見て、シャルールが思い出したかのように口を開く。
「えっ、もしかしてチア・カラーズさん!?」
「シャル知ってるの?」
「芸術の祭典、マジックアートコンテストで最優秀賞の……!!」
「アハッ! 私も名が知れてるとは嬉しいね〜!」
(僕も知ってる……固有魔法の幻像、超精巧なリアル映像美。戦闘で使われるとしたら……頭が痛いな)
「ふむ……若葉杯の上位者達か。む、お前はいつぞやの……!」
「あぁ、どうも……」
「ベルト……」
「オルトです」
「アハハッ! エフォーはしっかりしてるけど、どこか抜けてんよねー!」
「すまないな、人の名前を覚えるのが苦手でな。なかなか異色な戦いぶりと劣化魔法、恐れ入った」
(!……流石に種が割れてるか……)
「これから生徒会の会議だ、これにて失礼する」
「あー! そうだった! 急がないと! ごめんねー!」
2年生達はそう言い残して去っていく。
「いやー、2人ともオーラあったなぁ……」
「……あの2人に、エンリルのような制約者が2人だ。挑む相手がどんなに手強いかわかったろ?」
「う、うん……」
「逆に良い経験になるじゃないか、そんな人達とやれるなんて」
「……でも負けるつもりはさらさらない」
「当然」
オルトとエンリルの闘気に押され、臆してた2人もやる気になっていく。
「……大丈夫、いざとなれば8人まとめて吹き飛ばすから」
「俺達を入れるなし! それにお前も入ってんじゃねーか!?」
「……確かに」
(ちょっと心配になってきた……)




