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第13話 戦いを終えての就寝

 医療機関にも勝る、アルストロメリア魔法学校保健室。薬液漂う包帯にまみれ、オルトはベッドから目を覚ます。


「やぁ」


隣のベッドからエンリルが声をかける。


「あれ……決勝はどうなったの……?」

「引き分け……勝てなかった」


「そっか……君相手なら大金星かな」

「……でも私に手心を加えたね?」


「えっ?」

「状態異常の魔法、途中でやめた」


「あ〜、あれ以上やったら危なかったからだよ。そう簡単に治らなくなってしまうし」


現に、エンリルはもうほとんど回復している。低酸素血症にいたっては、呼吸機能はそのままなのでほどなくして戻っている。後は水分と睡眠をしっかりとったので快調に向かっていた。


「じゃあ……実戦なら死んでたかもしれないってこと」

「いや、それが良しとはならないよ。情報知るために、ちゃんと敵を生捕にするのも重要だから」


「……ごめん、何も考えずにぷっぱなしてた」

「あはは、まぁ僕が本気でいいって言ったから」


「……次は勝つ。またやろ……!」

「あぁ、望むところ、いつつ!」


起き上がって話そうとするが、身体が痛んで怯んでしまう。


「保健医が骨折はしてないけど、数箇所にひびがあるって言ってたから無理しない……」

「はは、どうりで……でも目も覚めたことだし、先生に伝え__」


「夜だからもういない」

「え?」


オルトはカーテンを開けて窓の方を見ると、暗くてうっすら星空が見てとれる。


「そんな寝てたのか……」

「私達は安静も兼ねてここで一晩。困ったことあれば呼んでだって。夕食もほら」


少し離れたテーブルにクローシュで包まれた食事がある。


「なるほどね……」

(取り行くのに結局動かないとか……)


痛みを我慢しながら起き、恐る恐るベッドから出ようとすると、食事がフワフワと浮きながら向かってくる。サイドテーブルも設置され、食事が目の前に置かれる。見かねてエンリルが魔法で運んだのだ。


「基礎魔法、使わないね」


(もう隠す必要はないな……)


「ありがとう……いやね、使えないのさ」

「!……そうなんだ」


エンリルは不思議そうに思うもそれ以上は聞かず、食事に手を伸ばす。


(今までの試合で大体は知られただろうし……あっ)


スプーンを掴もうとするも、床に落としてしまう。オルト自身、想像以上にダメージを負っていたと気づく。


「よっこいせ」

エンリルが新しいスプーンを持ってやってくる。オルトのベッドに腰掛け、シチューを掬って口元に近づける。


「はい」

「あ、いや、そこまで……」

「元はと言えば私のせい」


有無を言わさずに迫られ、オルトは流されるように食べさせてもらう。


「あ、ありがと……」

「どういたしまて。あ、そうだ……」


(近い……そして全く行動が読めない……!)


「交流戦、一緒にやろ」


交流戦、若葉杯上位者達と2年生精鋭との模擬戦である。4対4で行い、市街地にて戦う実戦方式。メンバーは生徒各々で決めていいことになっている。


「あ、あぁ、願ってもないよ」

「……やった」


小声で小さく微笑むエンリル。されるがままに食事を済ませ、一息つく。それでも彼女はぼんやりと外を見たまま離れなかった。


何か話をしないといたたまれない空気を感じ、オルトは口を開く。


「しょ、将来の夢とかある?」

「……マスター」


魔法を学ぶ者なら誰もが憧れはする理想。しかし、学べば学ぶほど到達できない領域と察し、挫折する者がほとんどであった。


「マスターか……いいね、きっとなれるよ」

「……馬鹿にしないの?」


マスターを夢と語れる者は、浅はかな魔法使いとされる風潮があった。


「君の闘志は本物だった。素質あると思うからさ」

「……いぇい」


満足そうな表情で足を揺ら揺らさせるエンリル。


「オルトの夢は?」

「僕は……夢というよりはやらなくちゃいけないことがあるんだ」

「使命……的な?」


「はは、僕自身が勝手に思ってるだけなんだ……詳しいことは話せないけど、僕の身代わりになった恩人がいてね。助けるのと、そんな仕打ちをした悪人に対抗する力がほしくて……今のところは都合の良い職になれたらなって」


「手伝う」

「えっ」


「私にできることがあれば。マスターになっても、ずっと手伝う」

「……頼もしいね」


(なんだか、イヴと居た時を思い出すなぁ……)


心地のいい懐かしさを感じながら、オルト達は会話が弾んでいく。夜も更け始め、エンリルが眠たそうに欠伸をする。


「ふぁあ……」

「そろそろ寝よっか……てえ!?」


声をかけられながらプツリと意識が落ちるエンリル。オルトの肩に寄り添ってスヤスヤと寝息をたてる。


「エンリル、エンリル!」

起こそうと声をかけ、揺さぶっても起きそうになかった。運ぼうにも……


「っつ!」

スプーンすらまともに使えなかったため無理な話である。


仕方なく自分のベッドに寝かせ、若干距離を空けて就寝しようとする。


しかし、温もりと微かにかかる寝息に異性として認識せざるを得ない状況で、一切眠気はこなかった。


(参ったなこれは……)


かつてない経験を受け、寝るのに相当な時間を有した。


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